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アングル:伊新首相候補ドラギ氏、過去に関与した問題の解決担う宿命か


[ローマ 11日 ロイター] - イタリアの新首相候補に指名されたマリオ・ドラギ前欧州中央銀行(ECB)総裁の政権が発足することになれば、同国が抱える幾つかの厄介な構造問題に正面から向き合う必要が出てくる。これらの問題が生み出された過程には、実はドラギ氏も以前の職務を通じて関与しているのだ。

ドラギ氏は同国のメディアからは国家の救世主扱いされており、長年にわたって互いに対立を続ける各政党も「ドラギ連立政権」への参加を望んでいる。しかし同氏の過去には光と同時に影もある。

ユーロ圏で最も慢性的に停滞しがちなイタリア経済の再建というマクロ政策が、ドラギ氏にとって最優先課題になるだろう。ただし同時に、世界最古の銀行であるモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエラ(MPS)の取り扱いから同国最大の高速道路管理運営会社アウトストラーデ・ペルリタリア(ASPI)の国有化まで、実に頭の痛いミクロ問題の解決も迫られる。いずれにしても全ての面で、ドラギ氏は自らが財務省高官やECB総裁の時代にかかわった数々の難問を解きほぐしていかなければならない。

そうした経緯があるだけに、ドラギ氏が事態を前に進められるか疑問も出ている。欧州復興基金の数十億ユーロに上る資金が利用できる中で、ドラギ氏はかつて提唱していた緊縮財政路線をとりあえずは推進しないと表明するのは間違いない。だがEUの財政ルール修正を求めるために彼がどういう交渉方法を用いるのだろうか。また1990年代に財務省総務局長として民営化に携わったASPIを再び国有化する計画を遂行していくのだろうか。

イタリアのソーシャルメディアには、こうしたドラギ氏を巡る疑問をうまく「まとめた」画像が投稿されている。片手を挙げるドラギ氏が描かれ、「この手はフリードマンにも、ケインズにもなり得る」という説明が付されたものだ。フリードマンとは自由な経済活動を重視した経済学者ミルトン・フリードマン、ケインズは国家による総需要管理政策が有名な経済学者ジョン・メイナード・ケインズであるのは言うまでもない。

マルケ大学のマウロ・ガレガッティ教授(経済学)は「ドラギ氏は何よりもまず現実主義者だ。彼はこれまで緊縮財政と市場の力、民営化の権化だったが、今はフリードマンからケインズへと軸足を移している」と語った。

例えばドラギ氏が環境移行問題を担当する省庁を新設する計画だとされていることからも、フリードマンや1990年代のドラギ氏なら市場に委ねていたであろう気候変動対策で国家を強力に介入させようとする姿勢がうかがえる。

<緊縮論の敗北>

イタリア経済は新型コロナウイルスの感染拡大によって戦後最悪の景気後退に陥る前から、既に20年間にわたって極めて低い成長に甘んじてきた。直面している問題は高齢化や労働人口減少から公共投資の不足、うんざりするほどの官僚主義まで多岐に及ぶ。

ただドラギ氏がECB総裁として他の欧州連合(EU)機関とともに押しつけた緊縮財政が、イタリアの生産能力と潜在成長率を弱め、状況を悪化させたとの見方に賛同する経済学者が増えてきている。

ドラギ氏は2011年のECB総裁就任直前に、歳出削減と財政赤字の圧縮加速を求めるイタリア政府宛ての共同書簡に署名している。この年、国際通貨基金(IMF)はイタリアの潜在成長率を0.7%と計算し、それから5年はこのまま変わらないと予想。そして厳しい予算切り詰めと深刻な景気後退を経験した2年後、IMFが推計した潜在成長率はマイナス0.3%に沈み、4年間はプラス0.5%を下回り続けると見込まれたのだ。

12年にはドラギ氏が欧州委員会とともに、EUの財政安定化協定の条件を強化してイタリアなど債務水準の高い国に対し、より早期の是正を促す措置を提唱した。

ところがイタリアは緊縮財政を続けた一方で、経済も収縮、あるいは停滞したため、債務の対GDP比は11年の116%から14年までに132%に上昇してしまった。

ミラノのボッコーニ大学のロベルト・ペロッティ教授(経済学)は「彼らは南欧諸国に対する行動が間違っていたと気づいていると思う。コロナ禍の前でさえ、誰も緊縮を口にしなくなっていたからだ」と述べた。

<MPS救済問題>

08年にイタリア銀行(中央銀行)総裁だったドラギ氏は、国内第3位の銀行MPSが同業アントンベネタを高額で買収するのを承認したが、これがMPSの破綻につながったというのがアナリストの見方だ。

ドラギ氏はまた、MPSが財務に打撃を受けたデリバティブ取引を行っている時期に適切に監督する責任もあった。

結局17年にイタリア政府が54億ユーロもの税金を投入しMPSを救済。17年半ばには当時ECB総裁だったドラギ氏がMPSは支払い能力があると宣言し、欧州委が救済を承認する道を開いた。この時にMPSの株式64%を保有したイタリア政府は、欧州委に対して22年半ばまでに経営が立ち直って株式を手放せると約束していたのだが、今や政府がMPSの買い手を探さざるを得ない状況にある。ドラギ氏が首相になれば、その仕事が回ってくる。

<民営化失敗>

ドラギ氏は、財務省総務局長時代に民営化のスキームを策定した同国最大の道路管理業者、ASPIの国有化を完了するかどうかの決断も求められる。

この民営化スキームは現在ではひどく評判が悪い。事実上の独占企業を誕生させ、政府から取得したベネトン一族に巨額の利益をもたらしたからだ。18年にジェノバで起きた高架橋落下の43人死亡事故では、改めて民営化が問題視され、事故を巡る訴訟で検察側は運営会社が莫大な利益を計上しているにもかかわらず維持管理の投資を惜しんだことが事故の主な原因だと糾弾した。

シエラ大学のマッシモ・ダントーニ教授(経済学)は「ASPI民営化は、道路利用者と納税者を犠牲にする形で、買い手だけを大いに肥え太らせた」と批判した。

マルケ大学のガレガッティ教授は「ドラギ氏があまり成功しなかった民営化政策を担っていたとわれわれは認識すべきだ」と述べ、ASPIの再国有化を進めると確信していると付け加えた。

(Giuseppe Fonte記者、Gavin Jones記者)

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