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従業員1人あたり年間1000万円の補償も コロナ禍における米飲食業界の現状

新型コロナウイルスの感染拡大防止策としての「ソーシャルディスタンス」により、世界中の飲食の現場が大打撃を受けている。日本では、店舗側の営業時間短縮に加え、リモートワークによる「巣ごもり」スタイルの拡大も外飲み需要の減少に影響した。

同じくさまざまな営業制限が講じられる海外の国々では、どのような補償が施されているのだろうか。アメリカの飲食店の現状と比較しながら、日本の補償体制の打開策を探っていく。

アメリカの営業制限の指標はベッドと座席の数

2月9日時点で累計の感染者数2700万人、死者46万人を超えるなど、世界最大のコロナ被害を更新し続けるアメリカ。昨年3月に施行された「ロックダウン(都市封鎖に伴う外出制限)」が段階的に解除されつつあったものの、感染の再拡大を受け、各州や都市で再び厳しい制限が設けられている。

Getty Images

米国で最も人口が多く、累計感染者数も最多であるカリフォルニア州は、感染者数の推移に応じて、飲食店の営業形態を「屋外席のみ」「屋外席+店内の座席25%」「屋外席+店内の座席50%」などと段階的に変更。取材時点の1月中旬、飲食店の営業は初のロックダウンが施行された昨年3月同様、テイクアウトのみに制限されていた。

カリフォルニア州はICU(集中治療室)の使用率に合わせてカウンティ(行政区画)の感染リスクレベルを色分けしています。ICUのベッド使用率が15%を下回ったら、通常営業が再開できるようになる。サンフランシスコを中心としたベイエリアはこれに加えて独自の厳しい規制を設定していますが、すべてデータに基づいたフェアなものです。

そう話すのは、サンフランシスコのレストランでワインディレクターを務めるケリー・ジョー・リッツォさん。日本で現在行われている営業時間短縮については、「カリフォルニア州でも11月に午後10時以降の夜間外出禁止令が制定されましたが、私のレストランはそれを受けて通常よりも30分早くオープンしていました。意味あるの? って思っちゃいましたね。結局ロックダウンになったし、時間制限は感染抑制にはなんの効果もないんじゃないでしょうか」と首を傾げる。

事業規模を踏まえたアメリカの補償制度

アメリカでは国、州、カウンティなどそれぞれの行政区画でさまざまな補助金制度があり、申請することで補償を受けることができる。最も大きいのは連邦政府が提供するPPP(Paycheck Protection Program)で、低額ローンというかたちでお金を借り、きちんとした使い方をすれば 「Forgiven=無償化」されるというもの。申請者の給与負担額に基づいて算出されるが、従業員一人あたり最大で年間10万ドル(1000万円強)が補償される。

サンディエゴの日本料理店「BESHOCK Ramen & Sake Bar」の共同経営者である伊藤彩夏さんはこの補償を申請。一回目のロックダウンが実施された昨年3月は売上が昨対比で70%減、二回目となる12月は60%減という厳しい状況に直面していた。

PPPは従業員の生活を守ることを目的とした制度。例えば飲食店では、テイクアウトのみの営業になると人件費削減のために多くの従業員が解雇されます。どのみち失業保険を通して国がお金を出すことにはなるし、治安や経済状況が悪化すると大混乱が起きるため、初めからそれぞれの企業にローンという形でお金を渡し、雇用を続けて給料として出してもらう、ということです。ローンは給与以外に、一部を家賃に充てることも可能です。
BESHOCK Ramen & Sake Bar

一方、酒類業界の商況は二極化している。レストランが不況に喘ぐ一方で、家飲み需要の加速により酒販店は好調。特に対面販売の必要がないECサイトは急成長しており、「お酒のAmazon」こと北米最大の酒類Eコマース「Drizly」は一回目のロックダウン以降、昨対比350%の売上を記録したと述べている。

レストランへの納入業者であるディストリビューター(卸業者)の命運も分かれた。

レストランをメインに卸しているディストリビューターは苦戦していますが、スーパーマーケットや小売店をメインに卸している業者は売上が急増していると聞きます。営業担当やイベントのコーディネーターは需要が少なくなったため、ほとんどの人が一時解雇され未だに戻ってきていない状況です。

また、アメリカでも日本と同様の「コロナ疲れ」は発生しているようだ。伊藤さんは、12月からのロックダウン下では、多くのレストランが行政へのプロテスト(抗議)という名のもとに屋外席での営業を継続していたことを指摘する。

お客さんも『開いている店があるのならそちらへ行きたい』と違反をしているお店を選ぶケースが多く、テイクアウトの需要は減ったと感じます。『正直者はバカを見る』ではないですが、開いているお店があることで、ルールを守っているレストランの不利益に繋がるというのには納得がいきません。

日本でも定量的な指標に基づいた補償策を

取材後の1月26日以降、サンフランシスコとサンディエゴを含むカリフォルニア州の複数のエリアでは、感染者数の減少を受け、飲食店に対し屋外席のオープンを解禁した。ICUのベッドや店内の座席のパーセンテージを指標とし、国が9000億ドルを超える予算を割いて従業員一人ひとりへの補償を施す。反発もあるとはいえ、文化も商習慣もさまざまな人種が集う多民族国家において、国民をコントロールするにはデータに基づいた定量的な政策は欠かせない。巨額の予算を費やすのは、このコロナ禍が明けた未来に経済を復活させるための投資でもある。

BESHOCK Ramen & Sake Bar

前回の記事では、飲食店の背後にある日本酒業界のコロナ事情を見ながら、公助の不安定さから自助と共助によって支えられる日本の食文化を解説した。2020年の日本酒輸出はコロナにより一時期落ち込みを見せたにもかかわらず、年間の輸出総額で過去最高の約241億円を記録(日本酒造組合中央会が2月2日に発表)。国外における消費の健勝ぶりを見せつけるかたちとなった。

感染対策へ向けて国民が足並みをそろえ結果を出すには、明確で腑に落ちる定量的な指標と、ステージを達成するごとに手応えを得られるロードマップが必要だ。他国を参照して自国を客観的に見つめ直し、その美点を取り入れていくことこそが、グローバル化のもたらす真価であり、日本が世界で闘える一国となるということなのだろう。

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