
臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言を擁護したことで、火に油を注いでいる二階俊博自民党幹事長について。
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自民党の長老たちが、東京オリンピック・パラリンピックに大きな逆風を吹かせている。1人は女性蔑視発言で謝罪会見を行ったものの、国内外から批判が集まっている東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長。もう1人は、森氏を擁護するように「発言を撤回したからいい」とのたまった二階幹事長だ。
森氏の発言や謝罪会見を受け、五輪ボランティアが相次ぎ辞退しているが、それについても二階氏は、「瞬間的に『退かせていただきたいとか、協力できない』とかおっしゃったと思うが」、「落ち着いて静かになったら、考えも変わるだろう」と見解を述べた。さらに今後の対応について、「どうしてもお辞めになりたいということだったら、新たなボランティアを募集せざるを得ない」とも発言した。
“世間が落ち着いて静かになるのを待つ”という姿勢は、安倍政権以降、問題が噴出する度に見られた自民党の得意技みたいなものだろう。“瞬間的に”という表現を使ったことからも、この騒ぎは一過性のもので、どうせ時間が経てば忘れてしまうと認識していることがわかる。自分たちが今ここで変わる必要性は全く感じておらず、変えなければならないのは新しいボランティアという認識なのだ。
森氏の問題発言にも「撤回したということで、それでいいんじゃないか」と述べ、進退については「冷静に見守るのが一番いい」と現状維持のスタンスで、当然のように「現状維持バイアス」が働いている。現状維持バイアスとは、言葉の通り「このままでいい」という保守的な傾向のこと。変化することに心理的な抵抗があり、現状に固執する傾向がある。ここに権威や名誉、利権などが絡んでくれば、現状維持バイアスも強固なものになるだろう。
二階氏が前述のような発言をした時、その周りには自民党の幹事長代行らが並んでいた。だが誰もその発言を止めようとはしない。彼らの中にも現状維持バイアスがあるからだ。過去はこれで上手くいっていたという経験や、成果や実績があれば尚のこと、変化するよりも現状を維持する方が安定的だと感じられるし、変化に伴うマイナス面やデメリットばかりが目につき、安定安心を失うのが怖くなる。バイアスが強ければ強いほど、現状にしがみつこうとする。
自らの発言の真意を問われた二階氏は2月9日、今度は「深い意味はない」と返答。ジェンダー問題について聞かれると、「我々は男女平等で、ずっと子どもの頃から一貫して教育を受けてきた。女性だから、男性だからってありません」と持論を展開した。これまで同様、その考えや意識が変わることはないことがわかる。そして「女性が心から尊敬しています」と述べたのだ。
この発言は“てにをは”が違っている。てにをはとは言葉をつなぐ助詞のこと。これが変わると文章のニュアンスが大きく変わる。「女性が」、と言えば「女性」の部分が強調され、女性が誰かを尊敬していることになる。自分が尊敬しているなら、ここでの正解は「女性を」だ。こんな細かな言い回し1つからも、二階氏の現状維持バイアスが見え隠れする。
抗議の声は止まらず、スポンサー企業からは苦言が続出している。今回の問題は、“重鎮”“長老”と呼ばれる人たち、彼らを取り巻く人々の現状維持バイアスがありありと感じられる絶好の機会だったと思う。誰が長老の首に鈴をつけるのだろうか。