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森会長、辞任したら読書会しませんか?『存在しない女たち』と、森喜朗氏への公開書簡

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このたび、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長、ならびに関係者の方へ向けてひとつ提案があり、この公開書簡を書いています。何かと忙しい時期ではあるかと思いますが、ぜひご一読いただければさいわいです。森会長は2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言し、大きな批判を受けました。非常に問題の多い、女性蔑視発言です。森会長は、翌2月4日に謝罪の記者会見を行いましたが、この件を報じる新聞記事の見出しを眺めてみると、会見はあきらかに失敗であったようです。

「森氏謝罪会見 逆効果」(毎日新聞2月5日25面)
「懲りない森氏 問われる資質」「謝罪のち開き直り」(東京新聞2月5日20面、22面)
「森会長 撤回で終わり?」(朝日新聞2月5日27面)
「森会長追及 広がる溝」(東京新聞2月6日2面)
「五輪の理念 共感したのに」(朝日新聞2月6日33面)。

しかし4日の会見は火に油を注いだだけであり、このままでは批判は収まりそうにありません。国際オリンピック委員会(IOC)は当初「森会長は発言を謝罪した。これでIOCはこの問題は終了と考えている」(朝日新聞2月5日1面)と述べていましたが、後に見解を訂正し「全く不適切。IOCの決意にも反する」(毎日新聞2月10日3面)と発表。

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森会長発言の余波はさらに広がり、五輪ボランティアの大量辞退や14万筆の署名、経済界からの批判などへと発展、「スポンサー各社 幕引き懸念」(東京新聞2月11日1面)との報道もあります。この文章を書いている時点(2月11日)では、2月12日の組織委臨時会合で森会長の辞任が発表される見込みとの速報が出ています。

しかし、今回のできごとを森会長の辞任をもって一件落着としていいのでしょうか。女性蔑視発言は、単に森会長ひとりの失言にとどまらず、日本社会が長らく抱える構造の問題ではないか。日本中のあらゆる場所に、森会長と同じ考え方をする男性がいるのです。時代錯誤の価値観をひきずった年長者が権力を持ち、意見することの許されない空気を醸成しながら、およそ実現できそうにない無謀な計画へ突進していく。森会長のような人物を組織の長に据え、トラブルを起こしても辞任を進言できる人がいない組織のいびつさや、不透明な意思決定のプロセスこそが問われるべきなのではないでしょうか。たとえば菅首相は、女性蔑視発言について「あってはならない」と述べつつ、解任に関しては「組織委員会は公益財団法人。首相として指示をすることはできない」と責任の所在を回避していますし、JOCの山下会長は森会長の進退について「最後まで全うしていただきたい」と発言しています(毎日新聞2月6日1面)。

また、萩生田大臣「本人も反省している。五輪の成功に引き続き努力してほしい」、加藤官房長官「辞任うんぬんは組織委で決めること」といった発言もあり、組織委元幹部「理事会はいつもシャンシャン。森さんの解任動議が出ることはありえない」とのコメントも新聞記事になっています(東京新聞2月6日2面)。こうして周囲が、揃って擁護や傍観に走ってしまう構造こそが、問題の根深さであるようにも見えます。こうなると、森会長の辞任をもって問題がすべて片づいたとするのは、やや短絡的であるようにも思えます。4日の会見で、TBSラジオの澤田記者が森会長へ鋭く質問したように、「何がどう問題だったのか」をあきらかにしなければ前には進めません。これから組織委とJOCは、問題を認識した上で、体質が改善したことを世間に向かって証明しなければいけないのです。これは並大抵の仕事ではありません。そこで私から提案です。いきなりですが森会長、読書会しませんか? ぜひ読んでいただきたい、うってつけの本があるのです。

読書会の説明に入る前に、まずは現状を整理してみます。謝罪会見がかくも無惨な結果に終わったのは、そもそも森会長が自身の発言を悪いと思っておらず、また何について謝罪すべきなのかを理解しないまま、問題を収束させるために形だけの会見に臨んでしまったことが原因でした。当然、態度はふてくされたものになってしまうし、記者からは「何が問題だと思っているのかを聞きたい」と追及されるほかない。会見を見た人から「恥ずかしい」「無責任だ」「ずれている人を黙認していることが問題」(東京新聞2月5日22面)という感想が出てしまうのも避けられません。また、自分が起こした問題で謝罪会見を開いている立場にもかかわらず、「(質問は)ひとつにしてください」などと言い出すあべこべな態度も印象の悪さにつながっています。なぜ釈明する側がそのルールを指定できると思ったのでしょうか。

森会長の立場についてはやや複雑な内部事情があるようです。新聞にこのような記事を見つけました。「建設費が高騰して国民から批判された国立競技場の計画撤回や、コンパクトをうたいながら9都道県の広域開催にかじを切る際に、森氏は政治手腕を発揮してきた。結果的に実質的な権限が森氏に集中。森氏の了解なしに物事が進まなくなった。ある政府関係者は『森会長にそんたくするあまり、政界も官僚も誰も何も言えなくなった』と表現する」(毎日新聞2月5日3面)。なるほど、と納得してしまう記述です。記事では「政治手腕を発揮」と表現されていますが、要するに組織委やJOCが、森会長の人脈や口利きに頼ってしまい、複雑な利害調整を任せっきりにしたということでしょう。その結果、森会長が多大な権力を持ち、組織内での放言が許容され、辞任を進言できる人が周囲にいなくなったとメディアは伝えています。

とはいえ森会長の辞任が、すなわち組織体質の変化とはなりませんし、何らかの改善策が求められます。たとえば、日本スポーツとジェンダー学会は「性差別認識や男女不平等をどのように改善していくのか、明確な方針と具体策の提示を求める」との声明を出しています(朝日新聞2月5日1面)。もっともな要求です。そのためにはまず、森会長をはじめ、関係者に問題意識を持ってもらうことが欠かせないのですが、そうかんたんに価値観を変えられるとも思いません。わけても森会長の失言はいまに始まった話ではなく、なにしろ一筋縄ではいかない御仁です。だからこそ、英国籍のジャーナリスト、キャロライン・クリアド=ペレスの著書『存在しない女たち』(河出書房新社)を一緒に読み、そこに書かれた内容について話し合う読書会をすることに意味があるのではないか、と考えたのです。

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前置きの話が長くなり、申し訳ありません。もう少しわきまえるべきでした。『存在しない女たち』は、この社会が男性を基準に設計されていることを指摘し、そのせいで女性が不便や危険にさらされている状況について考察した本です。「男性を基準に設計された社会」とは何か、自動車の運転席を例にとって考えてみましょう。運転席は平均的な男性の身長体重を基準に作られているため、女性が運転する際は両脚がペダルに届くよう前に出す必要があるし、ダッシュボードを見渡すには背筋を伸ばして座る必要がある。すべてが男性のサイズに合わせて作られているため、女性はやや不自然な体勢で運転するほかないわけです。結果、女性ドライバーは事故が起こった際に内臓損傷を負うリスクが男性より高く、追突についても負傷の確率が高いと本書は指摘しています。森会長は、このような事実をご存知でしたか。私は本を読むまで知りませんでした。社会における男女不平等は、このように見えにくい形で存在しているのです。

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