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「デビュー3戦連続KO」野村監督が18歳田中将大を「無視」した深い理由

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2020年2月11日、名将・野村克也氏がこの世を去った。新型コロナウイルス感染症の影響により、ファン向けの「お別れの会」等を開催できないまま1周忌を迎えた。そこで事務所の全面協力により、その名言から厳選したベスト・オブ・ベストともいえる金言集『頭を使え、心を燃やせ』を、セブン‐イレブン限定書籍として2月15日に発売する。野村監督が私たちに残した「教え」をいま振り返る──。(第1回/全3回)

*本稿は、野村克也『頭を使え、心を燃やせ 野村克也究極語録』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

会見で楽天イーグルスのユニフォームを着た田中将大

田中将大が楽天復帰で会見=2021年1月30日 - 写真=AP/アフロ

初登板、57球6失点でKO…

箸にも棒にもかからない段階、すなわち三流のうちは無視。少し見込みが出てきたら、つまり二流と呼べるようになったら賞賛。そして組織の中心を担うようになったら、すなわち一流は非難する──。

これは、野球にかぎらず、すべての世界で「一流」と呼ばれる人間を育てる際の原理原則だと私は思っている。監督として私は、つねに選手にそのように接してきた。

ニューヨーク・ヤンキースのエースともなった田中将大が楽天に入団してきたのは、私が監督になって2年目のときだった。高校を出たばかりの18歳だった田中を、私はいきなり先発でデビューさせた。相手は強力打線を誇った福岡ソフトバンクホークス。しかも舞台は敵地である。

結果から述べれば、田中はめった打ちにあった。2回もたず、6安打6失点、57球でKOされた。それはある程度予想されたことだから、かまわなかった。私が見たかったのは、KOされた彼が、どんな顔をしてマウンドから降りるかということだった。

人間は「無視」「賞賛」「非難」の順で試される

野村克也『頭を使え、心を燃やせ 野村克也究極語録』(プレジデント社)

野村克也『頭を使え、心を燃やせ 野村克也究極語録』(プレジデント社)

その選手の将来性を判断するひとつの基準として私は、三振したり、KOされたりしたとき、どんな顔をしてベンチに帰ってくるかに注目していた。

照れ笑いなのか、恥ずかしさを隠すためなのかは知らないが、へらへら笑顔で戻ってくる選手。これはまったく見込みがない。悔しさを前面に押し出した表情を浮かべている選手、「このくらいで負けてたまるか」という闘争心をたぎらせている選手は、大いに期待できる。私の経験上、まず間違いはなかった。

田中はどうだったか。むろん、後者だった。顔を真っ赤にしてベンチに戻ってくると、悔し涙さえ見せた。それこそ私が彼に期待していたことだった。悔し涙に濡れる彼を見て、私は確信した。

「この子は楽天を、いや球界を代表するピッチャーに成長する」

3連続KOの18歳を「無視」したワケ

田中将大がデビューから3試合連続でKOされたとき、実は私は怒りもしなければ、なぐさめもしなかった。無視した。

初勝利をあげ、先発ローテーションの座を確固たるものにすると、「マーくん、神の子、不思議な子」ともちあげたりして賞賛した。しかし、2年目以降、完全に楽天のエースとなってからは、めったにほめることはなかった。むしろ苦言を呈することが増えた。

選手の側からこれを見れば、無視されたとき、賞賛されたとき、非難されたとき、それぞれどのように受け止め、いかなる行動をとるかによって、一流になれるかどうかが決まるということだ。この3つの段階で、人は試されるのだ。

「一流」になる人間の分岐点

実力が伴(とも)なわない状態のとき、監督に無視された。それでふてくされたり、「自分を認めない監督が悪い」と逆恨みするようではまったくお話にならない。認められないのはなにが原因なのかを探り、認められるためにはなにをしなければならないかを考え、試行錯誤することから人の成長ははじまるのだ。

そうした努力が結実し、存在を認められ、与えられた仕事で結果を出したことで賞賛されたとしよう。ほめられればうれしいから、もっとがんばろうと思うだろう。監督やコーチも意欲をさらに引き出そうとして、もっとほめるに違いない。

しかし、ほめられているうちはしょせん二流である。ほめられたことで満足してしまえば、その人間は二流止まりなのだ。ましてや「おれはできるのだ」と自惚(うぬぼ)れたり、いい気になって勘違いをするなどもってのほか。

ほめられても「自分はまだまだなのだ」と自戒し、「もっとやらなければいけない」という謙虚な気持ちでもって、さらなる努力に勤しむ。さもなければ、それ以上の成長、すなわち一流になることは望めない。

期待の裏返しの厳しい言葉にどう応えるか

そうしていよいよ組織を背負って立つ人材になったとする。すると、ほめられることは少なくなり、逆に叱責されることが増えるだろう。「ちくしょう」と思うかもしれない。しかし、その非難こそ一流になった証(あかし)なのである。むしろ喜ぶべきだ。

なぜなら、一流になれば当然求められるレベルは高くなる。それまでと同じ結果を出すだけでは、周囲は満足しない。だから叱責する。叱責されるのは「もっとできるはずだ」という期待の裏返しなのである。

したがって、非難されたからといって、「もうダメだ」と気落ちしている場合ではない。「悪いのはおれじゃない」と不平を口にするのは、もっといけない。「いまに見ていろよ」「見返してやる」と考えることができれば、その人間はさらに伸びる。

繰り返すが、無視されているうちは三流、ほめられるようになってようやく二流、非難されてはじめて一流といえる。段階ごとにいかなる反応を示すかで、その人間の評価は決まるのだ。

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