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特集:日本経済と総選挙の行方

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本誌の前号は、11月6日のアメリカ大統領選挙の分析を書いているうちに、日本で「11月16日解散、12月16日総選挙」が決まりました。急きょ国内政局に視点を移さねばなりません。なおかつ、景気も急速に不況色が強まっています。現状は「足踏み状態」ではなく、「景気後退局面」と見るのが妥当でありましょう。

他方、総選挙に向けての流れも急速になっています。議員の離党や移籍、さらには政党の離合集散がめまぐるしく続く中で、経済政策に関する議論もこれから深まってくるでしょう。ということで本号は、日本経済の現状分析と政局の予想という二兎を欲張って、いつもより少し長めになってしまいました。

●景気動向:2013年は普通の不況?

衆議院が解散された11月16日の午前中、内閣府は慌ただしく11月の月例経済報告を発表した。文字通りの「駆け込み」であって、解散したら最後、官房長官以外の閣僚は皆一目散に選挙区に散ってしまうから、これは無理もない。

○「月例経済報告」の基調判断

(5~7月)依然として厳しい状態にあるものの、緩やかに回復しつつある
(8月)一部に弱い動きがみられるものの、緩やかに回復しつつある。
(9月)景気は世界景気の減速等を背景として、回復の動きに足踏みがみられる。
(10月)景気は世界景気の減速等を背景として、このところ弱めの動きとなっている。
(11月)景気は世界景気の減速等を背景として、このところ弱い動きとなっている。

この日に発表された11月の基調判断は、「景気は、世界景気の減速等を背景として、このところ弱い動きとなっている」であった。前月は「このところ弱めの動きとなっている」とあったのを、微妙に変えてきた。毎度のことながら、月例文学の筆遣いの奥深さを味わいたいところである。

これで基調判断は4か月連続の下げとなった。つまり景況感が急速に悪化しているということだ。11月12日に発表された7-9月期GDP速報値は、年率▲3.5%のマイナス成長だった。おそらく足元の10-12月期も、同じくらいの体感温度であろう。2012年の上半期は、震災復興需要も手伝って予想以上に堅調な景気拡大が続いたが、下半期は急速に冷え込んでいる。2013年の日本経済は身構えて迎える必要がありそうだ。

○実質GDPの推移(兆円)

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近年の日本経済は、奇数年ごとに試練を迎えている。2009年はリーマンショックによる需要の急減で、文字通り地面に叩きつけられるような衝撃であった。2011年は東日本大震災で、地震と津波と原発災害のトリプルショックに身も凍る思いをした。それに比べれば、2013年はごく普通の不況ということになるだろう。

不況の原因ははっきりしていて、世界経済の急速な減速と、日中関係悪化による外需の冷え込みだ。特に中国向けの自動車輸出など、10月は前年比82%減となっている。まさにチャイナショックである。 ただし筆者の見るところ、両方とも一過性に終わるはずであり、来年の後半には景気は再び上向くと見る。すなわち、2009年は「百年に1度の国際金融危機」、2011年は「千年に1度の天災」であったけれども、2013年は「十年に1度の普通の不況」ということができるだろうか。

●貿易動向:体質転換が進んでいる?

それでも日本経済の体質は、この間に変化していることに注意が必要であろう。それは貿易収支が慢性的な赤字体質になっていることだ。原発が止まっているために、年間3兆円程度の代替燃料の輸入が響いている面があるし、資源価格が高止まりしていることも否めない。ただし現状の通関統計は、上半期(4-9月)の輸出が32.1兆円で輸入が35.4兆円、締めて3.2兆円の赤字であった。通年では、「輸出が65兆円、輸入が70兆円」くらいが相場観で、これでは原発が動いていても赤字になりそうである。

今年は年初から「貿易収支が赤字になり、経常収支も危うい」という指摘が多かった。それに対して本誌では、「日本経済のモノづくりの強さは健在で、貿易収支は簡単には赤字にはならない」という見方を取ってきた。ところが月次のデータを見る限り、筆者の見方は適当ではなかったと認めざるを得ない。

○通関統計(月次データ)

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ちょうど3/11震災あたりを契機に、貿易収支の赤字が定着しつつある。「日本は原料を輸入し、付加価値の高い製品を輸出する加工貿易の国」という見方が次第に該当しにくくなっている。2009年から10年にかけての輸出回復のトレンドが途切れており、電気機械など一部品目の競争力が失われていることが窺われる。

その一方で、日本経済が直接投資や証券投資で稼いでいる所得収支は、今年度も年間で14兆円程度の黒字が期待できそうだ。GDP比で3%近くになるけれども、そのお陰で日本の経常収支は今後もしぶとく黒字を維持するだろう。すなわち日本経済はもはや貿易立国ではなく、投資立国になりつつある。国際収支の理論でいう「成熟した債権国」になりつつあるわけで、経常収支の黒字はなんとか維持されるだろう。この点については従来の本誌見解の延長線上であるように思う。

●海外経済:BRICsブームの終焉か?

ところで日本経済の今後を見通す上で、重要な論文が『フォーリン・アフェアーズ』誌の最新号に掲載されている。2012年11/12月合併号の巻頭論文”Broken BRICs”は、ほんの6ページの短いエッセイであるが、その指摘はかなり刺激的だ1。概要は本誌P9~10の抄訳を参照願いたいが、一言でいえば「BRICsブームはもう終わった」というのである。

執筆者の名はルチール・シャルマ(Ruchir Sharma)といい、モルガンスタンレー投資顧問で新興市場とグローバルマクロの責任者である。インド出身の投資銀行家だが、新興国経済に関する近著”Breakout Nations”は各方面で高い評価を得ている。思えば2003年秋のレポート「BRICsと夢見る:2050年への道」で、BRICsブームに火をつけたのはゴールドマンサックスであった。それから約10年、投資銀行のもう一方の雄であるモルガンスタンレーから、ブームの終焉を告げるのろしが上がったと考えると出来過ぎた話である。

昨今は中国経済の減速に関する議論が喧しく、「中所得国の罠」とか「ルイスの転換点」など成長の限界を示すキーワードが流行している。ただしBRICs4か国の中では、中国はまだマシなケースといえよう。IMFの”World Economic Outlook”最新版(2012年10月9日)を見ると、中国経済の成長予想は一時的に8%を割るくらいである。ところがインドやブラジルやロシアに関する数字はもっと大変なことになっていて、しかもここへきて見通しが下方修正されている。特にインドやブラジルは2010年に比べると急速に冷え込んでおり、投資家の期待を裏切っていると言っていいだろう。

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