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さかいゆうがコロナ禍に学んだ「音楽を奏でる意味」 混沌とした社会に思うこと

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2021年1月17日にLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で開催された「さかいゆう Public Hall Solo Concert 2021 “thanks to”」より(Photo by 岩佐篤樹)

シンガー・ソングライターのさかいゆうが、今年1月にニューアルバム『thanks to』をリリース。それを携え2月から4月にかけて、全国27会場を回る弾き語りツアー「thanks to Japan Tour 2021」を開催する。

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本作『thanks to』は、新型コロナウイルスの感染拡大や、その渦中に全米で巻き起こったブラック・ライヴス・マター運動などに触発された楽曲が並ぶ、ドキュメンタリー的な内容となっている。海外ミュージシャンを起用し全曲海外レコーディングを行った昨年リリースの前作『Touch The World』から一転、さかいの「歌とピアノ」に焦点を当てたシンプルかつオーガニックなサウンドは、コロナ禍でステイホームを余儀なくされている私たちの日常に、そっと寄り添ってくれるようだ。

力強いゴスペルコーラスが印象的な「BACKSTAY」、別れた恋人に指輪を送るというユニークな歌詞の「ダイヤの指輪」など書き下ろしの新曲に加え、アカペラでセルフ・カバーした「Magic Waltz (A Capella Ver.)」や、昨年7月に仙台で行われたライブからセレクトした「鬼灯(ルビ:ほおずき)」など過去曲も収録した『thanks to』は、アナログレコードとデジタル配信という2形態のみのリリース。そこにはどんな思いがあったのだろうか。アルバム制作の裏話、コロナ禍で思ったこと、BLM運動への見解、アーティストの「政治的発言」についてなど、様々なトピックについて自らの言葉で存分に語ってくれた。

アナログへのこだわり、休日課長との交流

ー前作『Touch The World』は全曲が海外スタジオでのレコーディング、参加しているのもほとんどが海外ミュージシャンでした。

さかい:今回は1人の作業が多かったですね。例えば「Magic Waltz (A Capella Ver.)」は、最終的なミックスダウンだけエンジニアさんにお願いして、それ以外の録りはほぼ全て自分でやっています。最初はラジオ番組でオンエアするための音源として、簡易的なマイクで「Magic Waltz」をセルフ・カバーしようと思ったのですが、やるとなったら気合が入ってしまって。結果的に、3日くらいかけて1人多重録音にチャレンジしました。

ー「Magic Waltz (A Capella Ver.)」が、アルバムの中では最初に着手した曲になりますか?

さかい:レコーディングの順番としてはそうですね。今まで僕は「コンセプチュアルなアルバム」を作ったことがなかったんですけど、今回は最初から「シンプルなアルバムにしたい」という気持ちがあったし、「アナログレコードを作ろう」とも思っていたんです。そういう意味では、僕にとって初めてのコンセプトアルバムと言えるかもしれない。

従来のアルバムみたいに、街中で聴いていても喧騒に埋もれない、「俺の歌を聴け!」みたいな強いサウンドを意識するのではなくて。レコードに針を落とした瞬間、部屋の中が音楽で包まれ、あたかもセッションに参加しているような気分になったり、アカペラだったらまるで森の中で声に包まれているような気持ちになったりするような、そんなオーガニックなサウンドをイメージして作りました。

ーアナログレコードを作ろうと思ったのはどうしてだったんですか?

さかい:自分の曲をアナログで聴きたかったんです。アナログだと楽器の音が、まるで生き物のように聴こえるんですよね。CDや配信はプラスティックなサウンドというか。それは同じオーディオシステムで、同じ真空管を通して同じ音量で聴くと如実に分かる。周波数帯域のレンジ感がまるで違うんです。

ー今作のように、ボーカルとピアノが中心のアルバムだと、アナログレコードのほうがダイナミックレンジの広さを楽しめるでしょうね。

さかい:そうなんですよ。僕自身は完全にCD世代なので、思春期の頃とかCD以外で音楽を聴いたことがないし、家にも何千枚とCDがある。きっと同世代の人たちは皆そうだと思うけど、そういう人たちにこそ今作をアナログレコードで聴いてみて欲しいです。




2021年1月17日にLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で開催された「さかいゆう Public Hall Solo Concert 2021 ”thanks to”」より(Photo by 岩佐篤樹)

ー自分の曲以外でも、普段はアナログで音楽を聴くことが多いのですか?

さかい:最近はアナログレコードしか聴かなくなりましたね。例えばマーヴィン・ゲイの『Whats Going On』や『Lets Get It On』、スティーヴィー・ワンダーの一連のアルバムを聴くともう衝撃的ですよ。ファンクやハードロックのレコードは殴られるような感覚があるし、アコースティックなレコードは包まれるような感覚がある。いくらテクノロジーが発達しても、そこは勝てないんですね。だからこそ今またアナログレコードの価値が、懐古主義ではない立場から見直されているのだと思います。

ー利便性を求めるならストリーミングで聴き、音質やマテリアルを求めるならアナログを手に入れる。そんな昨今の動きを鑑みると、今作のリリース形態は理にかなっている。

さかい:そして、本物の音を聴きたければライブを見に行けばいいしね。やっとこういう時代が来たなと思います。

ー聴く音楽も変わりましたか?

さかい:アナログレコードで聴くようになってから、クラシックを選ぶことが増えたかもしれない。感動しますよ。アナログに出会って音楽の聴き方は確実に変わりました。

ーそういえば、1月17日に東京・LINE CUBE SHIBUYAで開催されたワンマンライブ『さかいゆう Public Hall Solo Concert 2021 ”thanks to”』でのMCで、「ゲスの極み乙女。の休日課長と最近仲が良い」とおっしゃっていましたよね。以前、課長にインタビューした時に、彼も「アナログレコードにハマっている」とおっしゃっていたんです。

さかい:コロナ前は、よくアナログバーへ一緒に行ってましたね。何人かで飲んでいても、俺と課長だけが最後まで残って一緒にラーメン屋で締めるパターン。「これをやるから、全然痩せないんだよ」なんて言い合ってました(笑)。課長は優しい人だし、音楽愛に溢れていて。バランス感覚もいいんですよ。俺とは全く違うタイプだから一緒にいて面白いし。

BLM運動と「死」について思うこと

ーアルバムの話に戻ります。本格的なレコーディングに入ったのはいつ頃でしたか?

さかい:スタジオに一番入っていたのは9月から10月くらいでした。1回目の緊急事態宣言が発出された段階では、これからどうなるのか分からなかったですからね、「今リリースするのは難しい」みたいな判断も、状況によって変わっていくし。ただ、「よし、1月に出そう!」と決めてからは早かった。

ー本作に収録された「BACKSTAY」は、コロナ禍だから生まれた曲だと思います。個人的には、さかいさんのこれまでの楽曲の中でも一二を争う名曲ではないかと。

さかい:嬉しいです。僕は自分の人生のドキュメンタリーのように音楽を作っているので、そうやって人生を反映させた曲を書いて、それが誰かの役に立てたら何よりです。

2020年は自分がこの世界にいる価値や満足度みたいなものを、思いっきり考えさせてくれるような1年でしたから。自分がナチュラルにやりたかった音楽って、こういうものだったんだと思えたし、この感触を忘れないようにしながら、これから何枚かアルバムを作っていきたいなと思っています。

ー「His Story」は、いわゆるブラック・ライヴス・マター運動に触発されて作った曲なのかなと思いました。

さかい:ブラック・ライヴス・マターに関しては、いろんな情報が錯綜し過ぎていますよね。僕は相当調べている方だと思いますよ。本も読んだし、運動に携わっていた人とも話した。誰が嘘をつき誰が適当なこと言っているか、誰がどこに属して、どの立場で発言したり発言できなかったりしているのか、知れば知るほど落ち込むんですよ。結果、「ノーコメント」が一番いいなと。

ーなるほど。

さかい:実際にものを壊したり、暴動を起こしたりしていることについては、僕自身は賛成できないですね。根っからの個人主義なので、そもそも集団というものをあまり信じていない。僕らが見せられている世界は、もしかしたら全く違うパラレルワールドなのかもしれないとも思うんですよ。その人の宗教や正義によって、見える世界が違いますからね。そこで「自分が正しい」と頑なに思う人たちの間で争いが生まれている。

ー確かにそうですね。

さかい:みんなが「正しい」と言っているから「正しい」と思うのは危険なんですよ。地動説を訴えて裁判にかけられたガリレオ・ガリレイなんて、いい例じゃないですか。「His Story」を書いたのは、別に「黒幕を暴いてやる!」とかそういう気持ちがあったわけではなくて(笑)。僕らの中に潜む、ちょっとした強欲さみたいなものから生まれる大きな嘘に関心があるし、それも含めて「人間って狡くて姑息で欲深く、そして可愛いな」と思って作った曲です(笑)。

ーアルバム冒頭曲「崇高な果実」の歌詞は売野雅勇さんで、”戦火の街を逃れ国境を越える”という歌い出しが非常にインパクト大です。

さかい:売野さんに「コロナ禍の今、売野さんが心から叫びたいことを書いてください」とリクエストしたんです。「どんな歌詞でも歌いますので」って。そしたらあの歌詞が上がってきた。僕だったら絶対に書かない歌詞ですし、売野さんにしても普段なら絶対に書かない内容だと思う。そういう意味では「音楽」というキャンバスがあったおかげで、僕ら2人の本音がそこに刻み込めた感じですね。これからゆっくり、じっくりと歌っていきたいです。

ー売野さんとは前作でもタッグを組み、「Soul Rain」では死生観について歌っていましたよね。

さかい:究極を言えば、僕は「死」にしか興味がないかもしれないですね。「どうやって死ぬか?」を常に考えているし。この世に生きている人、全員に「死」が訪れるなんて、なんだかロマンティックだと思いませんか? 何故こんなにも「死」を悲しいもの、忌避すべきものみたいに決めつけられているのかが、不思議で仕方ないんですよね。

すごく偉そうな人も、道に唾を吐いているような人間も、店でスタッフにイチャモンをつけている連中も、「ああ、この人たちいつかは全員死ぬんだ」と思ったら、少しは優しい眼差しで見られると思うんですよ(笑)。各々が死へと至る過程で「そうなっちゃってる」だけで、みんな「死」に向かって突き進んでいる。そんなことばかり考えているというか、まだ言葉にできていない思いが自分の頭の中にたくさんあって。いつかちゃんと曲にしたいですね。40代に突入して、きっとまた言いたいことも新たに出てくるだろうし。

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