新型コロナの感染者が「後遺症」に悩まされている。順天堂大学医学部の講師で、免疫学研究に20年以上従事してきた玉谷卓也氏は「新型コロナの怖さは、年齢に関係なく、軽症や無症状であっても後遺症が長期間続く可能性があることだ。経過観察の結果、4つの病態が絡み合って起こると考えられている」という――。
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「若者だから大丈夫」という大きな誤解
人気グループ「Kis-My-Ft2」の千賀健永さん(29)は、昨年11月に嗅覚に異常を感じて検査をしたところ、新型コロナに感染していることが判明しました。その月のうちに回復して、紅白にも出場したのですが、2カ月半以上経過した現在も、嗅覚は完全に戻っていないということです。また感染が確認されたけれど無症状だった女性が、1カ月後くらいから急に毛が抜け始めたという事例も報告されています。
一般的に、感染症の後遺症は「感染しているときの症状の影響が残る」場合が多いのですが、新型コロナの場合はそればかりではありません。感染時には無症状や軽症であっても、後遺症が起こることがあります。そして、重症化しやすい高齢者や基礎疾患を持っている人でなくても、老若男女関係なく一定の割合で後遺症が発生するのです。
「後遺症」は、新型コロナに感染して、3週間以上経過しても何かしら症状が認められる場合をいいます。さらに症状が3カ月以上経過して続く場合を「Long Covid」と呼ぶことが提唱されています(1) 。世界的な傾向として、新型コロナの感染者の10人に1人がLong Covidに悩まされているといわれています。
さまざまな後遺症の症状……背景にある4つの病態の中身
新型コロナについては、感染が始まった当初は、急性の重篤な肺炎を引き起こすことのある感染症と捉えられていました。ところが感染者を長期に追跡調査していくと、ウイルスがいなくなったにもかかわらず、感染しているときの症状が続く場合や時間がたってから違う症状が出るといった後遺症の報告が増えてきたのです。
ただこれまでは、その症状がさまざまであることや、感染が直接その後遺症の原因なのかといった症状と感染の因果関係がはっきりしないことなどから、その実態がなかなか明確にされませんでした。
新型コロナの後遺症として報告されている症状としては、倦怠感、呼吸困難、関節痛、胸痛、咳、味覚・嗅覚障害、目や口の乾燥、鼻炎、結膜充血、頭痛、痰、食欲不振、ノドの痛み、めまい、筋肉痛、下痢などがあります。これらは感染時の症状でもあります。そのほかに、記憶障害、睡眠障害、集中力低下、脱毛などがあります。

これまで行われた数多くの新型コロナ患者の経過観察により、後遺症は少なくとも下記の4つの病態が絡み合って起こっていると考えられるようになってきています(2)。4つめの集中治療後症候群以外は、軽症の患者さんでもみられる後遺症です。
・新型コロナウイルスに感染しているときの症状の持続・感染によって肺や心臓が障害されたことが原因で起こる症状
・ウイルス後疲労症候群:ウイルス感染により起こる、睡眠障害、高次脳機能障害、自律神経障害などを特徴とする筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に似た症状
・集中治療後症候群:集中治療室(ICU)の治療により筋肉や脳の機能が低下することにより引き起こされる、身体障害・認知機能障害・精神の障害などの症状
明らかになってきた「ウイルス後疲労症候群」
最近、問題が明らかになってきた後遺症が、3つめに挙げた「ウイルス後疲労症候群」です。感染から回復した後でも体全体の不快感、倦怠感が残り、日常生活に支障をきたすといった症状を訴える方がいます。
なかには腕を上げるのもままならないほどの疲労を感じる場合もあります。このような症状は、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)という原因不明の難病に類似していることから、「COVID-19後疲労症候群」とも呼ばれています。
このような症状があっても、一般的な検査ではメンタル的なものとされてしまい、自分が後遺症であることに気づかないことが多いということも問題になっています。また感染初期のころにPCR検査が受けられず、新型コロナの後遺症であることが証明できず、行政の補償が受けられない可能性も指摘されています。今後、後遺症に苦しむ患者さんのために、診断機会の拡充、補償体制の整備が求められます。
慢性疲労症候群については、脳の認知、言語で重要な部分に異常があることがわかっています。新型コロナのウイルス後疲労症候群の場合でも、嗅覚神経の損傷により脳の浄化作用が低下して、毒性物質が蓄積することにより脳に傷害が起きているのではないかという仮説が出されています(3)。このような知見から、有効な治療法が開発されることが期待されます。
