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“国際ハーモ”の落とし穴。

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このブログでも時々動きを紹介していた「新しい商標」だが、とうとう“導入間近”というところまで来たようで、とうとう、気を見るに敏な日経紙の月曜法務面にまで登場するに至った。

「特許庁は企業の商品やサービスを顧客に印象づける商標に、音や色、動きなどを加える法改正案を来年の国会に提出する方針だ。海外と足並みをそろえ、グローバル企業のブランド戦略を後押しする。ただ、特定の音や色を一部の企業が独占利用する弊害を懸念する声もあり、どのように運用していくか課題もある。」(日本経済新聞2012年11月26日付け朝刊・第15面)


このブログでこの話題をご紹介したのは、直近では、ちょうど1年ほど前のことになるが、その際も、まだ、自分としては半信半疑な状態で、「TPP」とか「国際ハーモ」とか言えば、何でも通ると思っているんじゃないだろうなぁ・・・?とシニカルに論じた記憶がある*1

日経紙のこの記事の中でも、久光製薬・堤信夫執行役員の「(制度ができたら)すぐに出願したい」というポジティブな意見が掲載されているものの、自分の感触ではそういった会社はむしろ少数派で、

「コマーシャルを制作する際、音や色まで他社の商標を侵害していないか気にしなくてはならなくなる」(花王・遠藤明ブランド法務部長)(同上)



といった意見の方が、圧倒的に強い。

一度やると決めたら、経産省の強い力をバックに、ブルドーザーのように突き進む特許庁のこと(苦笑)*2

既に、産業構造審議会知的財産政策部会の商標制度小委員会で審議されている「商標制度の在り方について(案)」*3においては、

(1)基本的な考え方

このように、非伝統的商標の保護は国際的な趨勢となっているばかりでなく、我が国企業の保護のニーズも高まっている。そのため、企業の多様なブランドメッセージ発信手段の保護、模倣品対策の拡充、我が国が加盟しているマドリッド協定議定書に基づく国際登録制度を利用した低廉・簡便な海外における権利取得を可能にするという観点から、我が国においても、非伝統的商標についての制度整備に早急に取り組むべきである。

それに当たっては、新制度が安定的かつ適正に運用されるべく、現行制度の下に蓄積されてきた特許庁における審査・審判実務、裁判所における訴訟実務等を勘案の上、現行の我が国商標法の体系に則した制度設計を行うべきである。

(2)新たに保護対象とする商標の類型

「産業構造審議会知的財産政策部会商標制度小委員会新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ報告書」(平成21年10月)においては、商標の権利範囲の特定性、国際的な状況等を踏まえ、非伝統的商標のうち、「動き」、「ホログラム」、「輪郭のない色彩」、「位置」、「音」を新たに保護対象とすることが適切と整理されている。これらについては、その保護のニーズも高まっており、登録要件や商標の権利範囲の特定等の必要な規定・運用を整備することにより、適切な保護を図ることができることから、新たに商標法の保護対象とすべきである(以下、「動き」、「ホログラム」、「輪郭のない色彩」、「位置」、「音」の商標をまとめて「新商標」という。)。 また、非伝統的商標のうち、上記の類型以外の「におい」等(以下、「その他の非伝統的商標」という。)については、諸外国において保護されている実例も一定程度あり、今後その保護のニーズが高まることも想定されることから、適切な制度運用が定まった段階で保護対象に追加できるよう、併せて検討を進めていくことが適当である。」(以上、4-5頁)



と、明確に「非伝統的商標」の一部について、商標法の保護対象とすることがうたわれており、この段階まで来たら、もう引き返すことはないだろう、と思う。

もちろん、記事にもあるとおり、「識別力に係る登録要件」(第3条第1項各号)については、相当厳しい要件の案が示されており、

「動き」、「ホログラム」、「位置」の商標は、識別力を有しない文字や図形等のみからなるものは、原則として識別力を有しないものとする。

・「輪郭のない色彩」の商標は、単一の色彩や専ら商品等の機能又は魅力(美観)の向上のために使用される色彩は、原則として識別力を有しないものとする。

・「音」の商標は、石焼き芋の売り声や夜鳴きそばのチャルメラの音のように、商品又は役務の取引に際して普通に用いられている音、単音、効果音、自然音等のありふれている音、クラシック音楽や歌謡曲として認識される音は、原則として識別力を有しないものとする。ただし、言語的要素を含む音については、その言語的要素を勘案するなど、音の商標の構成を勘案して識別力を判断する必要がある。 (7-8頁)



といった、至極当然のハードルに加え、

「商品又は役務にとって必須の特徴ではなく、かつ、その市場において商品又は役務に通常使用されない特徴」



という、一見識別力が認められそうなものについても、

それが単に商品又は役務の機能又は魅力の向上に資することを目的とする特徴である場合には、立体商標における裁判例の考え方を踏襲すれば、先に商標出願したことのみを理由として、当該特徴を独占させることは公益上の観点から適切ではない。さらに、商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有する点を踏まえると、自由競争の不当な制限に当たり公益に反するおそれがあることから、原則として識別力を有しないものとして扱うべきである。」(8頁)



と、立体商標レベルの厳格な基準で審査するスタンスが示されているので、“怪しい商標”の乱立は、ひとまずは懸念しなくてもよさそうな気配である。

そして、さらに、「条文がないデフォルト・ルール」の典型ともいうべき「商標的使用」について、

「商標が自他商品等識別機能又は出所表示機能を発揮する態様で使用されていない行為については商標権侵害を構成しない旨を明確化すべく、これを法律上規定することが適当である。」(10頁)



という手だてが講じられれば、万が一、識別性が疑わしい「新しい商標」が審査基準を潜り抜けたとしても、「形式的な抵触」に対して過度に神経質になる必要はなくなるだろう*4

「音の商標」については、「文字商標」との“蹴り合い”も予想されるから*5、小売商標の時と同様に、豊富な予算を抱える大手メーカー等が自社の社名を無理やり音声化して大量出願するような悪夢も考えられなくはないわけで、「出願日特例、重複登録等の特例を設けない」という現在の方針(11頁)が、裏目に出る可能性もあるが*6、そういったテクニカルな点を除けば、実務に致命的なダメージが及ぶことはないように思われる。

だが・・・


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