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「ぴえん」とは何だったのか - 廣瀨 涼

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1―泣きの擬態語(オノマトペ)

『三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2020」』選考発表会が11月30日、都内で行われ、大賞には「ぴえん」が選出された。「ぴえん」とは2018年から使われるようになった擬態語で、泣いている様子を現す若者の言葉の一つである。泣いている様子を現す擬態語は「しくしく」や「ぽろぽろ」「ほろっと」など数多く存在する。

泣きわめく表現としては「えんえん」や「わんわん」などは古くから使われている。マンガのように絵で感情の起伏を表現するコンテンツの中では、「びえーん」など泣きわめいている様子を如何にして文字で表すか創意工夫がされてきた。実際に現実の赤ちゃんがそのような音を発しているかは別として、赤ちゃんが泣く擬態語として古くから「ぴいぴい」と言う言葉が存在していたという。

“ぴ”という音を用いて泣く様子を現すことで、幼児性を表現することができるという土壌は少なからずマンガなどのコンテンツを嗜好する人々の中にあったといえるだろう。「ぴえん」もこれらの派生であり、「びえーん」という擬態語に“ ぴ”という音を宛てがい、ぴえーん」と表記(発声)することで、とりわけ幼さを表現してきたことが起源であると筆者は考える。しかし、現代の「ぴえん」のような多様性を含んだ言葉ではなく、あくまでも泣きわめいているさまを表すものであった。

2―「ぴえん顔」の登場と若者言葉としての「ぴえん」

LINEリサーチによると10代の34.4%が「ぴえん」を日常で使っていた。筆者が10代、20代を対象に行った「ぴえんに関する調査」で、どこで「ぴえん」を使用するか聞いてみたところ、LINEが94%と最も高く、日常会話(88.5%)、Twitter(70%)と続くなど、主に文字媒体でのコミュニケーションで使用されている。

若者言葉としての「ぴえん」が使用されるようになった背景として、絵文字環境の標準化が挙げられると筆者は考える。2018年、符号化文字集合や文字符号化方式などを定めた文字コードの業界規格であるUnicodeに「Pleading Face」が追加された。大きな瞳に下がった眉毛をした何かを訴えかけようとしているその絵文字は、Androidが8月に9.0Pie、Appleが10月にiOS12をそれぞれリリースするタイミングで追加されると、デザイン性から若者を中心に使用されることとなる。

「ぴえん」という言葉がこの絵文字と一緒に使われている点や、言葉の流行のタイミングを考慮に入れると、「ぴえん」という言葉と絵文字に関係性がある事は容易に推測がつくが、決してこの絵文字が誕生したことで「ぴえん」という造語が生まれたわけではない。「ぴえん」と言う言葉自体はそれ以前から存在していた。Pleading Faceが存在する以前は、涙を流している絵文字や顔文字とともに「ぴえん」という言葉もSNSで投稿されていたが、泣いている度合いが「ぴえん」という言葉を使う人同士でも様々であった。

この理由として当時の「ぴえん」は、あくまでも「びえーん」の派生語である「ぴえーん」を簡略化したものとして使用していた者と、“ぴ”と“ん”の間の“え”の文字数で泣きわめく声の大きさや長さを視覚化するという方法に由来して使用していた者がいたからである。
「ぴええええええーーーん」
「ぴええん」
※上の方が下よりも泣き喚いている 様子を表すことができる。
その後Pleading Faceが登場することで、“え”の個数で悲しさを表現していた人々が、大泣きするまでもない感情を、この絵文字と「ぴえーん」を最少の“え”の数で「ぴえん」と表現するようになったことからPleading Faceは、「ぴえん顔」として定着していったと筆者は考える。元々絵文字は感情を表現する一つの方法として作られているが、Pleading Face(ぴえん顔)の場合は、絵文字に「ぴえん」という感情が後付けされたといえるだろう。

3―ぴえんから分離された「ぴえん顔」

「ぴえん」と「ぴえん顔」がセットで一つの若者文化として定着したことで、若者文化としての「ぴえん」から言葉と絵文字が分離されて消費されるようになる。前述した通り、「ぴえん」という言葉はPleading Faceによって、その言葉の持つ感情のニュアンスが体系化されたもので、一方Pleading Faceは言葉としての「ぴえん」を表すものとして定着した。

そのため、一種の相互補完によって、文字、絵文字がそれぞれ単独で若者文化としての「ぴえん」を表現できるようになったのである。言い換えると「ぴえん」という言葉は絵文字の「ぴえん顔」を表し、「ぴえん顔」は「ぴえん」という言葉の持つニュアンスを表すようになったのである。

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