
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・他の技術や産業との補完性があるEVの普及に優先順位置くべきとの論が新聞に掲載される。
・日本は2大メーカーがそれぞれFCVとEVに軸足を置き、開発競争をしている。
・EVシフトを加速させる海外メーカーとの競争に日本メーカーは遅れを取る可能性あり。
自動車業界にとって非常に興味深い論考を見た。「脱炭素社会と自動車 上 技術の補完性 EVが有利」(日本経済新聞2021年1月22日朝刊掲載:リンクはWeb版)がそれだ。
筆者は柴田友厚学習院大学教授(専門:技術経営論)だ。その内容を簡単に要約すると、
・脱炭素社会の流れの中、自動車産業はエンジン車から電動車へと技術体系の転換期に突入した。
・日本は2大自動車メーカーが、電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)を軸に据え競争してきた。
・これからは価値を補い合い高め合う「技術の補完性」が重要だ。
・現在併存しているエンジン技術と電動技術は、ある一点を急速に転換する。
・その急速な転換を引き起こすものは、技術と技術の補完性が生み出す力だ。
・EVは充電スタンドを、FCVは水素スタンドを互いに必要とする「補完的な関係」だ。
・EVと自動運転の組み合わせは、エンジンやFCVより単純なインターフェースで済むはずで、誤動作が最も生じにくい。
・EVの実用化で蓄電技術が進化し、再エネ産業の成長を後押しする。
とした上で、こう結論づけている。
「長期的にはFCVも視野に入れつつ、当面は他の技術や産業との補完性が重層的に存在するEV普及に優先順位を置くことが妥当である」
非常に明快な提言である。柴田氏のこの提言は、日本の自動車産業政策においてEVシフトが進まない現状に一石を投じたといえよう。
柴田氏がいう2大自動車メーカーとは、いわずもがな、トヨタ自動車と日産自動車だ。トヨタはいわずとしれたHV(ハイブリッド車)の「プリウス」を世に出したメーカーであり、日産は「リーフ」というEV(電気自動車)を世界で初めて量産したメーカーだ。この2大メーカーが存在するが故に、日本の自動車産業政策はどっちつかずになってきた。
トヨタは、「プリウス」にPHV(プラグインハイブリッド)モデルを追加し、HV一筋でここまで来ている。国内市場ではレクサスのEVモデルである「UX300e」の販売を2020年10月に開始したばかりだ。それも限定135台(2020年度分)である。その次に出すEVも、2人乗りの超小型電気自動車「C+pod(シーポッド)」だ。FCV「MIRAI」の2代目を鳴り物入りでお披露目したばかりのトヨタは、EVよりむしろFCVに力を入れているように見える。

一方の日産は、フルEVである「リーフ」を発売してからしばらく他のモデルを開発してこなかったが、2021年にようやく、フルEVのSUVモデル「アリア」を出し、今後はEVモデル投入を加速する、としている。トヨタの戦略とは真逆を行く。
こうした2社の戦略を知りながら、政府は能動的にEVシフトを取ってこなかった。トヨタと日産がお互いに競争していれば、日本の自動車産業の国際競争力は保てると思っていたのかも知れない。しかし、潮目が変わった。世界中でEV化(電動化)の流れが加速し始めたのだ。