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アングル:「人工培養魚」は希望の星か、香港で開発進む

Marianne Bray

〔香港 28日 ロイター〕 - エディ・ルーン料理長は、香港南西部にある自分の厨房で、世界初と称する「実験室育ち」の魚の切り身を前にしていた。何切れかはフライパンで焼き、残りは油で揚げてみる。最終的に決まったメニューは、衣をつけて揚げ、タルタルソースを添えたフィッシュバーガーになった。

「調理前はずいぶん身が固い感じだったが、加熱すると食感が本物の魚のように変わった」とルーン料理長。調理の実験が行われたのは昨年末、活気溢れるウォンツォクハン(黄竹坑)地区である。

ルーン料理長によれば、切り身の味・香りは普通の魚と変わらないが、クラブケーキ(蟹のすり身)のような粘りがあるという。

ルーン料理長の調理台に載った魚は、香港に本拠を置く食品スタートアップ企業アバント・ミートが生産した食材だ。NPOグッド・フード・インスティチュート(GFI)アジア太平洋支部のマネージングディレクター、エレイン・シュー氏によれば、気候変動に関する目標を危うくすることなく、肉・魚介類に対するグローバルな需要増大に対応する重要なステップになるという。

「培養肉によって、海洋資源を枯渇させたり熱帯雨林を伐採したりすることなく、消費者が求める動物性タンパク質を提供できるようになる」と同氏は語る。

この魚の試食会の直前に当たる12月初めには、シンガポール政府が、他国に先駆けて細胞培養による鶏肉を承認したと発表した。「クリーンミート」とも呼ばれる人工培養肉が世界で初めて一般向けに販売されることになる。

GFIは昨年発表した報告書の中で、経済成長と所得向上により、アジアにおける従来の肉・魚介類の消費は2050年までに80%近く増大すると予想される、と述べている。

<資源消費を大幅に削減>

人工培養肉はこれから地歩を築いていくところだが、オックスフォード大学が2011年に行った調査によれば、人工培養肉は食肉生産におけるエネルギー消費を最大45%、温室効果ガスの発生を78%以上、必要な土地面積を99%、水消費を最大96%削減する可能性があるという。

だが別の研究者らは、人工培養肉が環境面でもたらす恩恵は過大評価されているとして、特に、生産がエネルギー集約的になるという理由を挙げている。

アバント・ミートの共同創業者であるキャリー・チャンCEOは、魚肉の人工培養に要する時間は通常の方法による魚介類の生産の数分の1で済むと言う。

チャンCEOはトムソンロイター財団の取材に対し、種類にもよるが、たいていの養殖魚は成長に1~2年を要し、天然魚の場合はもっと長くかかるという。

だが、ルーン料理長による試食会に向けてアバント・ミートが用意した約10尾分の切り身は、生産にほぼ2ヶ月しか要していない。

<さまざまな動物性タンパク質を培養>

アバント・ミートでは、ハタ科の魚から抽出した細胞をバイオリアクターに投入し、ブドウ糖、ミネラル、アミノ酸、ビタミン、プロテインで培養した。アバントの共同創業者で最高科学責任者を務めるマリオ・チン氏によれば、ビールやヨーグルトの製造と似たようなものだという。

培養された細胞は筋肉組織へと成長していく。頭やヒレ、内臓などはない。

チン氏によれば、細胞培養テクノロジーによって、ほぼどの部位でも、さまざまな動物性タンパク質を培養できるという。

みずほ銀行でアジア太平洋地域における農業・食品プロジェクト向けの融資を担当するJ・Y・チョウ氏によれば、こうした人工培養による動物性タンパク質は、食品供給の不安定さを克服するために安定した価格と予測可能な供給量を求める企業にとって、また消費者に近い場所で食材を調達したいと考える企業にとって魅力的だと言う。

各国政府にとってもメリットはあるだろう。COVID-19のパンデミックや貿易紛争により、食糧生産の確保・国内化のニーズが見えているからだ。

アバントのチャンCEOは、人工培養を推進すれば、食糧生産に必要なスペースを「バイオリアクターを設置する場所1点に絞ることができる」と語る。

社会的責任を重視する世界最大のティラピア生産企業であるリーガル・スプリングスの会長を退任する予定のマークス・ヘイフェリ氏は、トレーサビリティや品質の安定も大きな魅力だと話している。

<乱獲、海洋汚染、動物保護への回答>

国連食糧農業機関は、2020年の報告書で、世界の漁業資源のうち3分の1は乱獲状態にあると述べている。

別の研究によれば、マイクロプラスチック、重金属、その他の混入物質の増加で海産物の汚染が進む中で、2050年には海洋中のプラスチックの量が魚介類の量を超えることになると予測している。

動物の権利への配慮も、人工培養肉への切り替えを推進する要因になる可能性がある。

人工培養肉を食べるという発想は、近年、特にアジアにおいては、以前よりも消費者にとって受け入れられやすくなっている。

学術誌「フロンティアズ・イン・サスティナブル・フード・システムズ」に発表された2019年の調査では、中国及びインドの消費者は、米国の消費者に比べて人工培養肉の消費に前向きであることが示されている。

ルーン料理長の厨房で人工培養の魚を試食した30才のヨガ教師ミニー・チュンさんは、「香港の屋台料理は少しドキドキする。何を使っているか分からないから」と話す。

「培養されたものだと教えてもらわなければ、高級魚をフィッシュバーガーにしたものだと思ってしまうだろう」

<遺伝子操作の懸念はないか>

とはいえ、人工培養の魚を食べることに懐疑的な人は多い。不自然だからという理由と、遺伝子操作された食品だからという理由の双方によるものだ。

だが、みずほ銀行のチョウ氏によれば、人工培養による魚介類は遺伝子操作を受けていないと言う。人工培養肉を人々に受け入れてもらうために、啓発と分かりやすい表示が重要であることを浮き彫りにするポイントだ。

「大切なのは、『いかに(how)』、つまり、生産の方法と安全性のレベルという点だけでなく、『なぜ(why)』の部分を人々に知ってもらうことだ」とチョウ氏は言う。

「なぜ」の部分には、代替タンパク質がどうして大切なのか、そして「消費者、動物の福祉、地球のためにどのようなメリットがあるのか」という説明が含まれる、とチョウ氏は言う。

人工培養肉・魚介類を成功させるためには、消費者への正しい情報の発信だけでなく、適正な価格を実現することも鍵になる、とチョウ氏は言う。

チョウ氏の指摘によれば、今のところ人工培養による魚介類は一般には発売されていないが、大衆市場向けというよりは、割高な価格でも払おうというニッチ市場向けに供給される予定だという。

<地球の健康を根本から直す>

だが、国際コンサルタント企業のATカーニーが2019年に作成した報告書によれば、人工培養肉には、総額1兆ドル規模の従来の食肉産業に大きな変化をもたらすポテンシャルがある。

この報告書では、今後20年間で、人工培養肉がグローバルな食肉消費の35%を占めるようになると予測している。

リーガル・スプリングスのヘイフェリ氏など業界関係者は、人々の食卓に載るものを変えていくことが、この地球の健康回復に向けた根本的な態度の変化の一翼を担うことを期待している。

「いずれ過去を振り返って、『あの頃はまだ自分のクルマを運転して、化石燃料を燃やして車を走らせ、タンパク質を摂取するために動物を殺していたのだね』と言いあう日が来るのだろうか」と彼は動画によるインタビューで問いかけている。

「あなたにはそれが想像できるだろうか」

(翻訳:エァクレーレン)

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