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トランプが34年前に有力米紙に載せた「対日非難」全面意見広告と今日的意味 - 斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)

トランプ前大統領は今から30年以上も前に、アメリカの有力3紙に異例の全面意見広告を掲載、日本の「防衛ただ乗り」を痛烈に批判していた。その基本的姿勢はトランプ政権の4年間も不変だった。


(mariusz_prusaczyk/gettyimages)

トランプ大統領は在任中、世界各国首脳の中でもとくに安倍首相(当時)との親密な関係を維持してきたことで知られる。だが、両国外交・経済関係がとくにめざましい前進を遂げたわけではない。むしろ、安全保障問題をめぐっては、対日防衛分担増をしつように求めるなど、ぎくしゃくした関係が続いた。

過去4年間のトランプ外交・安全保障政を振り返ると、日本および欧州同盟諸国の防衛努力に対する不満と見境のない防衛分担要求に彩られ、相互不信を増幅させる結果を招いたことは否めない。

なぜそうなったのか―。ヒントは、34年前にあった。

1987年9月2日、ニューヨークの不動産実業家として頭角を現しつつあったトランプ氏は、突如として米東部海岸の代表紙3紙(ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ボストン・グローブ)に対し、「アメリカは、なぜ自力防衛能力を保持する諸国への出費を打ち切るべきか」と題する1ページ全面の意見広告をそれぞれ掲載した。

「アメリカ国民へ―ドナルド・トランプからの公開状To American people from Donald Trump―an open letter」の書き出しで始まるセンセーショナルなアピールは以下のようなものだった:

「日本およびその他の諸国は過去何十年にもわたり、アメリカを出し抜いてきた。その長きにわたる不幸な状況(saga)は今日も続いており、わが国にとって自国への原油供給上ほとんど意味をなさないが、日本などにとっては死活的に重要なペルシャ湾防衛のためにアメリカが任務を負わされている。なぜわが国が、これらの国の利益を守るために、何十億ドルもの負担を余儀なくされるのか。なぜ、彼らは応分の犠牲を払わないのか。わが国が、自国籍でもないタンカー、自国には必要としないが自助努力もしない諸国にとっては重要な石油防衛の任務についていることは、世界の笑い草にもなっている」
「日本は、アメリカの対日防衛にただ乗りし、自衛のための莫大なコストを免れ、かつてない規模の貿易黒字を生み出し、強力な経済を築いてきた。彼らは対ドル円高を巧みに操り、アメリカが日本など諸国防衛のために莫大な出費を余儀なくされている間に、世界経済のトップランナーとなってきた」
「今やわが国は、日本その他の諸国にきちんと防衛負担させ、わが国の膨大な貿易赤字にピリオドを打つべき時が来た。アメリカの世界防衛コストはこれら諸国にとって何兆ドルにも値するものであり、彼らにとって国益保護のためのリスクは、わが国に比べはるかに大きいはずだ」
「日本、サウジアラビアその他同盟諸国の防衛は、彼ら自身にやらせるべきだ。そしてわが国の農民、病人、ホームレスたちを救済しようではないか。これらの国に今こそ“課税(tax)”することでわが国の国税を減らし、米国経済の再興を促そう。世界の笑いものにされる時代を終わらせるべきだ」

トランプ氏はこのような激しい口調の意見広告のために当時の金で9万4800ドル(同氏スポークスマン)もの大金を掲載料として支払ったが、日本などを標的としたバッシングはこれだけにとどまらなかった。

同日深夜、当時のCNNテレビ人気トークショー「ザ・ラリー・キング・ライブ」に生出演、新聞意見広告を読んだ視聴者の質問に答えるかたちで、次のように同趣旨の自説を開陳している:

「日本やサウジ、それにNATO諸国の多くは、アメリカとの同盟関係にありながら、長い間、自らの防衛のために十分な努力を怠り、防衛ただ乗りを当たり前のように続けてきた。そして今や世界有数の富裕国になった。その一方、わが国はこれらの国の安全確保のために多大な出費と犠牲を強いられ、経済的にまじめな状況になってしまったのだ。こんな馬鹿げたことがいつまでも続いていいわけがない。我々は考え直さなければならない。こんな連中のために莫大な金を使うのであれば、その分をわが国の貧困者や病弱者、農民たちを守る事業に回すべき時が来ている。もはやこれらの国にはビタ一文も支払うべきではない……」

まだ40歳の血気盛んな不動産屋だったトランプ氏がなぜ、こんな激しい反日キャンペーンに乗り出したかを理解するには、当時のアメリカそして日本との関係を改めて振り返る必要がある。

アメリカはレーガン政権が2期目にはいった1980年代半ばから、軍事支出の増大と大幅減税によって巨額の財政赤字と累積債務の増加をもたらし、成長にブレーキがかかりつつあった。一方、日本においては、経常収支は80年代半ばから着実に黒字に転じ始め、日本の貯蓄超過が際立つようになっていった。さらに日本の大手企業は、円高ドル安の波に乗って余剰資金で米国内の不動産をつぎつぎに買いあさり、企業乗っ取りに奔走したため、米国内で「ジャパン・バッシング」の機運が高まりつつあった時期にあたる。

そして1989年には、三菱地所がアメリカ資本主義のシンボル的存在であったニューヨーク中心街のロックフェラーセンターを、1990年にコスモ社がカリフォルニア州の名門ゴルフ場、ペブルビーチ・カントリークラブを買収するなど、日本企業による“アメリカ買い”がより一層大きな論議を巻き起こした。

たまたま筆者は、新聞社の2度目のワシントン特派員だったが、ニューヨークを訪れると、マンハッタン中心部のカラオケ・バーは日本商社駐在員たちでいつもにぎわい、「アメリカの時代は終わった」「日本に比べ勤勉さも学力も落ちる」などと豪語しながら酒盛りをしていた光景を今でも鮮烈に記憶している。

トランプ氏の反日感情は、こうした時代背景の下で醸成されていったことは想像にかたくない。

彼はその後、たんなる実業家にとどまらず、アメリカ人の愛国心を巧みにかきたてる「ポピュリズム」(大衆迎合主義)扇動者としても名前が知られるようになった。そして2000年には右翼的第三政党の「改革党」から大統領選に出馬、日本などを標的とした得意の「同盟諸国の防衛ただ乗り」論をふりかざしたが、この時は予備選段階で、ベテラン論客で知られたパット・ブキャナン氏との指名争いで敗退の憂き目に会った経緯がある。

しかし、トランプ氏の政治的野心はそこで終わったわけでは決してない。

「日本は米軍の駐留費全額を負担すべきだ」

2016大統領選に立候補したトランプ氏は、選挙期間中から「日本は米軍の駐留費全額を負担すべきだ」との型破りの主張をくりかえし、日本政府当局を困惑させてきた。ただこれは、かつて新聞意見広告で「日本安保ただ乗り論」を展開した時と同様の、対日不満の裏返しだったにすぎない。

そしてより具体的に、2017年大統領に就任したトランプ氏は、その後の安倍首相との首脳会談などを通じ、日本の防衛分担増を要求してきた。

この点について、側近として仕えたジョン・ボルトン大統領国家安全保障担当補佐官は退任後、出版した回顧録の中で、①2018年6月、ワシントンを訪問した安倍首相に対し、トランプ氏が直接、日米貿易不均衡の是正を求めるとともに、日本側の不十分な安保協力に対する不満を表明した②2019年7月、大統領が国賓として来日した際に、日本側に在日米軍経費負担を約4倍の約80億ドル(約8700億円)に増やすよう求めた―ことなどを暴露した。

ボルトン氏によると、大統領は日本と同様に、韓国に対しても、在韓米軍維持費として50億ドル負担するよう求め、もし応じない場合は在韓米軍撤退もありうることを示唆したという。

4年間の在任期間中、トランプ氏は日韓両国のみならず、NATO諸国に対しても、同様の主張を繰り返し、同盟関係全体に重大な亀裂を生じさせる結果を招いた。

しかし、他国の世話に煩わされることなく自国の利益を最優先するというトランプ氏の「アメリカ・ファースト」の個人的理念は、30年以上前から首尾一貫し何ら変わっていないことが明白になった。

もし、そのトランプ氏が万が一にも(その可能性は限りなく少ないが)、2024年大統領選に再出馬し、ホワイトハウスにカムバックを果たすことになれば、わが国はじめ同盟諸国は再び同様の苦しみを味わされるに違いない。

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