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ナイナイ岡村さん発言の以前の炎上現象を、フェミニズム視点で慎重に解いてみる - 山口真由

蒸し返す気はない。だが、火中の栗を拾いに行く勇気もなかった。かなり前の発言になった今こそ、ナインティナインの岡村さんの「風俗」に関する発言が、なぜあそこまで炎上したのかを考えてみたい。私は、結婚した岡村さんを改めて批判する目的は全くない。むしろ興味の対象は、発言それ自体ではなくて、それに対する周囲の反応の方にある。ねぇ、どうしてあんなに燃えたわけ? 燃え上がった炎が治まりつつある今だからこそ、あの炎そのものについて話し合いたい。まだ残る熾火に新たに燃料を注ぐ意図ではない。私としては真摯に、慎重に。

さて、事実をサクッと拾い直しましょう。昨年4月23日放送の『ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン』において、パーソナリティの岡村さんが、

「(コロナ)明けたら、なかなかのかわいい人が、短期間ですけれども美人さんがお嬢(※風俗店に勤務する女性を指すとのこと)やります」

「短時間でお金を稼がないと苦しいですから。(中略)3か月の間、集中的にかわいい子がそういうところでパッと働いてパッとやめます」

と発言したとのこと。「僕はそれを信じて今頑張っています」と結んだ彼の言葉は、女性蔑視であるとの理由で、盛大に炎上した。人々は、なぜ、これほどまでに怒っていたのだろう? なぜこれがあれだけの怒りを買ったのかという、その理由をフェミニズム的な観点から考えてみたい。

(写真:iStock.com/Devita ayu Silvaningtyas)

1. 風俗そのものが女性蔑視!!という立場

フェミニズムといっても、みんなが同じ考えでいるわけではない。グラデーションの中でも最も激しいのは「風俗」そのものに絶対反対の姿勢をとるラディカルフェミニズムと呼ばれる主張である。

売春にポルノビデオ、そんなものは、即刻、この世から抹殺すべし! というのがラディカルフェミニズムの基本的な立場。そういったものがこの世に存在するから、女性を性の対象とみなしてよいという誤った考えが世の中に垂れ流されるのだと考える。

聞くところによると、岡村さん自身が、以前から「風俗好き」を公言していたとのこと。ラディカルフェミニズムの観点からは「恥ずかしげもなく自ら風俗好きと吹聴するオカムラなる人物は、性風俗産業もろとも、即刻、この世から葬り去るべし」。この時点で、彼の名は、ラディカルフェミニストの「危険人物」リストに連なっている。4月23日のラジオ放送での発言のずっと手前で、そもそも、岡村さんはラディカルフェミニズムの引いたボーダーラインを超えていたのだ。

ラディカルフェミニストの視点から見れば、かねてから「風俗」を話題にしてきた要注意人物が、重ねて「性」に関連する発言をしてしまった。それがために、既に火にかけられていたお湯が一気に沸点を超えることになったということ。

2. 強要することが女性蔑視!!という立場

でも、どうしてこんなにも盛大に燃えたのだろう?

4月23日の岡村さんの発言は、ラディカルフェミニストではなくて、別の立場のフェミニストをも焚きつけた可能性がある。リベラルフェミニズムはラディカルフェミニズムよりは寛容である。この手のフェミニストは、性風俗産業を、職業として差別しないという建前を取っている。実際、ロースクールのFeminist Legal Theoryなる授業の課題論文では、教養に富んだリベラルフェミニズムの教授が、法律の研究をするという自分の職業と、「身体を使って親密なサービスを提供する」という性産業が、極めてよく似た職業であると力説していた。

もちろん、法律で禁止されていることはしてはいけない。でも適法の範囲で、職業の選択は、あなたの自由。時給800円の缶詰工場で朝9時から夕方5時まで働く道と、性産業で働く道があったとして、完全に自分の自由な意思でそのどちらかを選んだならば、どちらも同じように価値のある仕事なのですよ、と。

ラディカルフェミニズムの立場からすると、性産業はすべて違法とすべき。「工場で長時間働くよりもこっちがいいんです。私、本心からそう思ってます。この仕事、なくなったら困るんです」なんていってもダメなものはダメ。そうやって、性産業で働く人がいることで、女性全体を性の対象にしてもよいという誤解が生まれてしまうのだという。

一方、リベラルフェミニズムの人々は、逆に、性産業の合法化を志向しがちである。もし全部違法にしてしまったら、業界自体が闇に潜るでしょ。そしたら、女性はより弱い立場で、やりたくないことを強制されてしまうかもしれない。それよりも光の当たるところで、彼女が自由な意思で選択できる環境を整えましょう、と。

23日のラジオにおける岡村さんの発言は、リベラルフェミニズムが定めたこの境界を新たにオーバーした可能性がある。彼は、コロナの苦境によって、かわいい子が風俗嬢になると発言した。経済的に苦しい状況で、自らの自由な意思ではなく、強いられてその業界に足を踏み入れる人がいると指摘したのである。そのうえで、それを楽しみにしているとのニュアンスは、そういう女性を搾取するとの宣言にも響く。

ただね、もし、このときの発言が「コロナで経済的に苦境に立たされた女性が、本当なら『家事見習い』とかいって家にいたいのに、外で働くようになる。出会いの機会が増える」的なものだったら? 強いられた選択という意味では、風俗で働こうと、事務職で働こうと変わりはしないはず。だが、絶対にこんなふうには炎上はしなかっただろう。

要するに、「性に関する問題であること」+「望まない選択であること」というフェミニズムの二重底を、もろとも見事にぶち抜いたがために炎上したのである。

3. 私たちに偏見はないの?

そして、特に、「性」に関するものだから炎上したのだと思う。「ジェンダー」ではなく、「セックス」が絡むと、心が暴力的なほどにざわつく。ロースクールの授業では「自由な意思で選んでいる限り、どの職業にも同じように価値がある」というリベラルフェミニズムの主張を学んだ。それは理論的であるものの感情的には、腑に落ちなかった。そんなの机上の空論じゃない? いったいどんな状況で、どんな判断をしたら、本当に自由な意思で性産業の途を選んだといえるの?

そこで私は気づく。おそらく、私を含めて多くの人は、本当に自由な意思で選べるなら、風俗で働くことを選びたい女性はいない、という前提を置いている。あえて、そちらに行くのは、悲惨な現実を前にした極めて重たい選択なのだろうと。でも、そこに1つの「決めつけ」があるかもしれないと、私は思う。確かに、多くの人にとってそれは事実なのかもしれない。でも、そうじゃない人だっているかもしれない。好きでもない人に性サービスを提供するなんて、本来、女性なら拒みたいはず。それなのに、そういう仕事をする人はつらいだろうと思いやる。ただ、その奥にあるのは「好きでもない人と性的行為に及ぶべきではない」という価値観ではないか。そして、その価値観そのものが、性産業に対する偏見につながってる可能性はないの?

どんどん筆が遅くなってくる。「性」の問題を書くのは難しい。誰かの強い感情と反発を引き起こすのではないかと思うから。だから、現在進行形でこれが問題となっていた当時、テレビでコメントを求められたときにも「長い間、メディアには男尊女卑の風潮があった」とかなんとか、こっちの方向でコメントしておけば無難かなという方向に落ち着けてしまったのだけれど……。

だから、自戒をこめて、ここで言う。女性蔑視に抗議の声を上げるのは大事なことだと思う。同時に、批判する側も自分の胸に問いかけなければならないとも思う。

ねえ、私たちはいったいどこでボーダーを引いて、何を許して、何を許すべきじゃないといってるの? そんなの「そっち側」が全部考えろよという姿勢は、ちょっと乱暴すぎやしない?

私たちはどんな社会を目指しているのだろう? 望まないセックスは一切しなくていい社会? で、それって具体的にはどういうこと? 性暴力はもちろんありえないと思うけど、性産業はどうなの? 全部禁止? 自由意思ならOK? じゃあ、どんな状況で、どんな人なら、本当に自由な意思で性産業を選べるの?

まじで難しい質問を次々と自分に投げかける。そうすると、私たち自身の思い込みや決めつけが浮かび上がってくる。自分の中にある偏見のかけらに目を向けるのは苦しい。でも、他人に向けて矢を放つ人は、自分自身の内側に向けても同じように厳しい視線を向けていかなくてはいけないんじゃないかな。そうじゃないと、自分が放った矢が、気づかぬうちに一周まわって自分の後頭部に刺さることになるかもしれないじゃん。

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