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飲食店の窮状で周辺業界にも打撃 コロナ禍と闘う日本酒業界のいま

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための「ソーシャルディスタンス」対策が、世界各地の飲食の現場に影を落としている。日本では、今年1月に発令された緊急事態宣言が10都府県で一カ月の延長となった。店舗側の営業時間短縮に加え、リモートワークによる「巣ごもり」スタイルの拡大も外飲み需要の減少に影響。飲食店が苦闘する向こう側で、取引のある納入業者も窮地に立たされている。

飲食店の背後にある酒類業界への打撃

東京商工リサーチによると、2020年の飲食業倒産(負債1,000万円以上)は前年比5.3%増の842件で、過去最多であった2011年の800件を上回った。営業時間の短縮要請に応じた飲食店は一日最大6万円の協力金を受けられるが、企業の規模は考慮されておらず、多くの従業員を抱える店からは不満が噴出。時短営業に応じない例も見られている。

また、こうした飲食店の窮状の背後には、彼らと取引のある食材、酒類、什器などの納入業者たちがいる。日刊経済通信社によれば、日本酒業界では特に業務用の打撃が大きく、1〜10月の清酒の生産・販売指数は前年比88%。11〜12月は最需要期にもかかわらず、忘年会や帰省の自粛により、年間累計はより落ち込んだことが予想される。

共同通信社

岩手県盛岡市の菊の司酒造では、2020年4月の一回目の緊急事態宣言の時期、売上が前年比で約7割減少した。

一回目の緊急事態宣言のころは、岩手県で感染者がいないという状況にもかかわらず、街から人が消え、業務用として使われがちな一升瓶の出荷が大きく減りました。市内にある多くのホテルや温泉で宴会用として使っていただいていた180mLや300mLの小瓶アイテムがほとんど動かないという状況。二回目の緊急事態宣言を受け、今年1月は2020年4月以降で最も数字を落としています。

そう説明してくれたのは、15代目蔵元平井滋さんの次男・大貴さん。給付金や助成金も活用しているが、一回目の緊急事態宣言のころは感染症対策のため雇用調整助成金も活用しながら従業員を休職させ、少人数で日々の業務をこなしていたという。

取引相手の方々からは、酒販店のような納入業者への補助が手薄であるという声を多く聞きます。飲食店にもあてはまることですが、酒販店は家族経営の小規模店が非常に多く、休業補償が効かないのはもちろん、誰かが休むと店が回らなくなるというケースも多いです。今までWEBサイトすら持ってなかった頑固一徹な酒屋さんが、コロナを機にECサイトを整備しはじめるほどです。

状況を打開するため、菊の司酒造は二回目の緊急事態宣言を期に飲食店と連携し、「KURAMAE DELi」という企画をスタートした。酒蔵の入口で日本酒が飲める角打ちスペースを設け、提携飲食店のテイクアウトメニューを販売している。少しでも日本酒の消費を増やすとともに、ともに苦境に立つ飲食店の売上に貢献しようという試みだ。

コロナに変えられてしまったことは数多くありますが、その中には既に限界だったこともいくつかあるのだろうと。受け身にならず、私たちがむしろ主導権を握って変化していくことが、今まで以上に大事になってくるのだろうと思っています。

納入業者や生産者への補償への不安

売上の約95%を地元の京都市内、うち飲食店への出荷が7割を占めるという京都府京都市の松井酒造。代表取締役の松井治右衛門さんは、「日本酒にまつわるイベントの多い京都ですが、昨年から今年にかけてはお酒関係のイベントはすべてなくなってしまいました。飲食と観光は京都の二大看板ですので、その両方を絶たれた今、街全体が大きな影響を被っています。二度目の緊急事態宣言は経営体力的に既に疲弊している段階での発令でしたので、さらに厳しさを増しているように感じます」と話す。

SAKE Street

一回目の緊急事態宣言下では、一カ月半にわたる休業を選んだ。

従業員の雇用継続やコロナの終息までの道筋がついていない現状においては、一度限りの補償では十分ではないように感じています。ある程度のロードマップを示してもらえればそれに向けて計画を練ることもできるのでしょうが、緊急事態宣言の延長の可能性を考えると見通しが立たない状況です。

中小企業庁は1月、納入業者に対する補償として「緊急事態宣言に伴う外出自粛等の影響を受けた事業者への一時支援金事務事業(仮称)」を発表した。緊急事態宣言発令地域の飲食店と直接・間接の取引があるか、不要不急の外出・移動の自粛による影響から1月または2月の売上高が前年比50%以上減少した事業者に対し、法人は60万円以内、個人事業者等は30万円以内の額を給付するというものだが、条件の厳しさや金額の不十分さ、実施の遅さも指摘されている。

日本酒販売の低迷は、酒米の農家にも飛び火。農林水産省の酒造好適米等の需要量調査によれば、2019年産の生産量の24%である2万3000トンが減少した。

酒蔵も今期は減産体制に入っていますが、原料米の発注は3年前から提出していますので、急にいらないというわけにもいかず、京都産の酒造好適米を利用したリキュール商品を開発中です。

補償に関する話題はほぼすべて飲食店に限られていますが、そこには納入業者や生産者が関わってきます。目に見えるところ以外にも思いを馳せてていただけるとありがたいですね。
写真AC

自助と共助が支える日本の食文化

指標の見えづらい日本の感染対策と後手後手の補償制度は、菊の司酒造の「KURAMAE DELi」や松井酒造の米リキュールのように、民間企業自らの試行錯誤と工夫を強いるものとなっている。日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」とクラウドファンディングサービス「Makuake」は、「飲んで酒蔵を応援しよう!全国から集結!オンライン日本酒市」を共同開催。

酒蔵や酒販店の想いやストーリーを知ったうえで欲しいお酒を「応援購入」できるイベントで、昨年5月に実施された第一回は40以上の酒蔵、9000人以上のサポーターが参加した。好評を受け、第二回が3月末まで開催されている

日本人の伝統的な食文化としての和食はユネスコ無形文化遺産に登録され、行政はそれをグローバル戦略に活用してきた。日本が世界に誇り、評価されてきた食文化とは、ほかでもない民間一人ひとりの創り出してきた営みだ。こうした“緊急事態”に置かれても、現場の人々は前向きに未来を見据え、たくましく自助と共助に努めている。「文化」を守るとは、彼らを守ることであるはずだ。

日本の補償体制はどのように変わっていくべきなのか。次回の記事では、コロナ禍におけるアメリカの飲食店事情を見ながら、その打開策を探っていく。

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