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「自分の幸せを大切にしてもいい」。そう思えれば、自然と人は人に優しくなれる - 「賢人論。」131回(中編)武田友紀氏

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コロナ禍は介護の現場にも暗い影を落としている。とくにデイサービスの休止などにより、在宅介護を支えるご家族にとって、これまで以上の身体的・精神的負担がのしかかっている。現在、家庭という閉ざされた空間でさまざま不安や孤立感が渦巻いているであろうことは想像に難くない。そこで今回は、これまで700人に上るHSP(繊細な人)から相談を受けてきた専門カウンセラーの武田友紀氏に、独自の視点から「心をラクにする介護」を提案していただいた。さらに、相手の感情に敏感な「繊細さん」が介護職に適した人材なのかについても意見を伺った。

取材・文/木村光一

認知症の介護を行っているご家族はある種の「喪失状態」にある

みんなの介護 武田さんは著書の中で、「繊細さん」は自分自身の感情を抑え込んでしまう傾向にあると指摘されています。在宅介護をされている介護者の場合も同様に、「つらいと思う自分が悪い」「介護を受けている本人のほうがもっと大変だ」と、自身の感情を押し込めてしまうケースがよく見受けられます。そういった自分自身の感情とうまく折り合いをつけていくには、いったいどのようにすればいいのでしょうか。

武田 繊細さんは周りのニーズを感じ取りやすいですし、共感力も強いため、つい「人のため」に動いてしまって、自分のことが後回しになりやすいです。しかも日本は、他者のために身を削ることが美徳とされるため、どうしても「つらい」といった自分の感情を表現しにくい。ですが、無理に我慢を続けると心身に不調をきたしますし、「お互いのためにもっと良い関係を築きたい」と切望していても、イライラや怒りが強いとその方向へ進みづらくなってしまいます。

まずは「つらい」「しんどい」「何で私ばかり」といった、自分の本音を受け止めることが大切。本音をありのままに受け止められるようになると、自分の状態が冷静に見えてきます。「ああ。今、自分は疲れていて休息が必要なんだな」「これ以上はひとりでは無理だ」といったことです。すると、「誰かに相談してみよう」「少しでも息抜きしよう」といった改善の方向へ自然に進んでいけるようになるんです。

みんなの介護 家族間の介護は、近しい肉親同士の間で行われるだけに、かえって関係性がこじれてしまうことも珍しくないようです。

武田 「曖昧な喪失」という概念があります。行方不明者の家族などが、愛する人が生きているのか亡くなっているのかわからない状態に置かれ続けるというような、明確な別れののない喪失の形です。認知症の方の家族にも曖昧な喪失が起こると言われています。

つまり、母親あるいは父親は目の前にいるんだけれど、それは「自分がよく知っている親」ではない。親を目の前で喪失し続けるような感覚が何年も続く。それはとてもしんどいことです。ですから、つらいのは私が弱いからだとか、もっと頑張らなきゃいけないのにとか、そういう風に自分を責めないでほしいです。

隙間時間は「自分のため」にくつろげることを

みんなの介護 現在、コロナ禍でデイサービスが休業するなど、在宅介護を受けているご本人や介護をされているご家族とって厳しい状況が長引いています。身動きが取れない中、少しでも気持ちが楽になる方法がありましたら、ぜひ教えていただけますか。

武田 これは介護に限らないのですが、自分の置かれた環境から動くことが難しい方には、わずかな時間でもかまいませんので「好きなことをしましょう」「自分が幸せを感じられることをしましょう」とお勧めしています。介護では「誰かのため」の時間が一気に増えますが、せめて隙間時間くらいは「自分のため」に何かしてみる。くつろぐ時間を少しでも持ったり、好きなことをやることで、心に余裕ができて、大変なことに取り組むときも少しだけ楽になります。

繊細さんの中には、相手のために自分の感情を抑えて頑張ってしまう人がよくいます。ですが、いらいらや怒りは、一つひとつはささいなものであっても積み重なればいつか爆発します。相手のためにと一生懸命頑張っては爆発してしまうという悪循環に陥ると、人間関係がこじれてしまいます。

みんなの介護 意思決定支援の場にかかわることの多い介護職やご家族も同じ思いをされている方が多いように思います。“爆発”を避けるためにはどうしたら良いのでしょうか。

武田 問題視すべきは“爆発”ではなく、いらいらが積み重なっている平時のほうなんです。平時の我慢が減り、小さないらいらが減れば、爆発はしないからです。ですから、いかに“頑張りすぎないか”が勝負になります。相手と良い関係を築こうと思ったら、頑張りを緩めてストレスを減らすことが必要です。隙間時間にゆっくりお茶を飲んだり、雑誌を読んだり、近所を散歩したりといった小さなことでかまいません。自分がほっとくつろげることをしてください。

「私は私でいい。人のためだけじゃなくて、まずは自分の幸せを大切にしていいんだ」と安心できると、幸せを感じる力が徐々に開花する。心に余裕ができることで、無理に頑張らなくても、自然と人に優しくできるようになっていくんです。

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