「テレビで帯のニュース・情報番組をやっている50代以上の女性って、実は私と安藤さんだけだったので」
日本テレビ「news zero」でキャスターを務める有働由美子さんは、「ずっとお会いしたかった」という安藤優子さんとの対談で、そう語った。
かつては「若さ」に価値がおかれ、一定の年齢に達すると退社するケースも少なくなかった女性アナウンサーたち。いまだ男性の多い報道現場で、40年にわたり、テレビ朝日やフジテレビの生放送番組に出演し続けた安藤優子さんは、女性キャスターのパイオニアの一人だ。
「文藝春秋」2月号で実現した、初顔合わせの“看板キャスター”対談で、テレビカメラから離れた二人が語り合った、オトコ社会での「生き抜き方」とは――。
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安藤 私がこの世界に飛び込んだ40年前も、私の前を歩いている先輩たちがいましたが、当時は「女は黙って天気予報でもよんでろや」という世界でした。

安藤優子さん
有働 安藤さんはもともと、アメリカの大学のホテル学科に留学して、ホテルウーマンになりたいという夢をおもちだったんですよね。
安藤 そうです。それで大学時代にエレベータガールのバイトをしていたら、テレビ局の人に声をかけられて。最初はメインの司会者の隣に座るアシスタントで、「アシスタントって何やるの?」って思いながらも、1日5000円もくれるし、「留学費用が貯まるな」ぐらいで深くは考えていなかったですね。
何かを犠牲にしないと第一線にはいられなかった
有働 アシスタントの仕事というと、具体的には何を?
安藤 ただ頷くだけです。ニコニコして「はい、はい」と頷いてりゃいいから、と言われて。でも私はそういう経験がまったくなかったので、緊張してカタい表情で頷いていたら、視聴者から「笑え」とか「かわいくない」って投書が来る時代でした。有働さんも、そういう風当たりがキツいこともあったでしょう?
有働 ありましたね。私は28歳のときに、初めてスポーツ番組のメインキャスターになって、若い男性アナがサブについて、「よしっ」と思ったら、視聴者から「女が前に出るのはウザい」という反応があってショックを受けました。
もうひとつ強烈に覚えているのは、報道にいた女性の先輩が結婚したとき、男性スタッフが「あいつも一線から降りるんだな」って言ったんです。出産どころか結婚も足かせとされるのか、と暗澹たる気持ちになったんですが、最近、変わってきましたよね。
安藤 変わってきましたね。
有働 ほんの10年前までは、何かを犠牲にしないと仕事の第一線にはいられなかったのに、今は結婚して子どももいて幸せそうな人のほうが共感を得られる。「もっと早くルールを変えてよ。ふり回された」と思っちゃいました。
オッサンに同化してナンボ
安藤 メチャクチャよくわかります。言いたいことがありすぎて、どこから話していいかわからないんですが、結婚したときに……私、2回結婚しているんですけど(笑)。
有働 うらやましい。
安藤 いえいえ。そう、結婚したときに「これで安藤さんも丸くなるな」って言われたんです。それがすっごい嫌で、「絶対丸くなってやるものか。ますますとんがってやろう!」と思ったんです。
有働 (笑)
安藤 私たちの時代は、オッサンに“同化”して、その10倍20倍働いてナンボでした。女性性を封印しないと、オッサンは自分たちの仲間として認めてくれない。オッサンのように振る舞い、オッサンのように仕事をすることで、ようやく居場所をこじ開けることができました。
有働 だから「丸くなる」と言われて反発されたんですね。
安藤 そう。その言葉が私には「あいつもようやく俺たちの軍門にくだったか。これで女に戻るだろう」という風に聞こえたわけです。
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「文藝春秋」2月号および「文藝春秋digital」掲載の10ページにおよぶ対談「だからニュースキャスターはやめられない」には、昨夏、ネット炎上した酷暑のニュースを現場から伝えるレポーターとのやり取りの舞台裏、有働さんが安藤さんに聞く「結婚のコツ」、生放送への覚悟やこれまでもっとも印象的だったインタビュー相手、そして政界進出の可能性についてなどが余すところなく語られている。
(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2021年2月号)