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日本人有権者の癒しがたい病

選挙を目前にして、政党が乱立、淀みに浮かぶ泡のように生まれては消え、生まれては消え、を繰り返しているが、支持率の高い政党の主張は皆、ほぼ同じ方向を向いている。

我が党がいかに強力に現状を打破できるか、という方向である。
(脱原発、公務員制度改革、憲法改正、日銀の政治支配・・・)
有権者の多くは「現状打破」を強く欲望している。

一方、TPPや社会保障問題など現状批判があいまいなテーマは「ウケかた」がよく見えないので、声高にアピールされていない。

奇妙なのは、打破しなければならないらしい「日本の現状」は少なくとも相対的に見て、極めて優秀なレベルにある点で、

教育水準、凶悪犯罪率、報道の自由度、年金水準、医療アクセス、どれをとっても世界トップレベル。
失業率に至っては欧米の半分以下、大卒就職率は驚異の9割超え。失業しても医療費無料の生活保護。

例えれば、文句のつけようのない健康体の成人が、「私は病気だからなんとかしてくれ。」と騒ぎ立てているようなもので、これは精神の病と判断して差し支えなかろう。

精神の病の診断は、検査値(のアナロジーで失業率、犯罪率、平均寿命など)ではわからない。

評論家の山崎正和氏は、中央公論12月号で、この病の出所を推測している。(p18~p33)

氏によれば、この病(氏の表現によれば「変革願望病」)は世界史的な枠で進行しているが、日本ではそれは圧縮された形であらわれている、という。

氏は変革願望病の根っこには現状への閉塞感があるとし、これを共産・社会主義の挫折、市場メカニズムによる国家支配、それと対抗するナショナリズム(あるいは民族、宗教)の亡霊の復活といった「大きな物語の失敗」で説明する。

それなりに説得力のある説明ではあるが、未だ市場メカニズムの破壊力が十分に作用していない日本には妥当しない。

日本の分析については、山崎氏が引用する田所昌幸氏の論文が鋭い。

明治維新以降の近代国家建設、列国入りという「大きな物語」が大戦で潰えた後、日本人は戦後復興、経済成長、福祉社会の実現、と「小さな物語」を成功体験することで、閉塞感を逃れてきた。

これが可能だったのは、自由主義陣営としての世界秩序への積極的貢献や仮借なきグローバリゼーションへの関与といった「大きな物語」が(大戦の敗戦国として)ハナから放棄させられていたためで、逆に言えば、戦勝国によって日本は「居心地の良い社会」の洗練化を許されてきた。

ところが、ここにきて「小さな物語」は消費し尽くし、世界史的な「大きな物語(=直近では市場メカニズム)」の失敗による閉塞感が足音をたてて近づきつつある。

国債暴落による国家破綻という物語が今の日本人に強力にアピールするのは、ユートピア(小さな物語の終点)の墜落とグローバリゼーション(という暴力)に板挟みにされた閉塞感、不安感と無関係ではない。

ミクロで見れば、「これからは国際人にならないと生きていけない」不安をネタにした書籍や雑誌の特集が書店に頻繁に見られるのも、「変身願望」の一つの表れだと言える。

この種の不安感は眠れないかもしれないと思えば思うほど眠れなくなるのと同じ心理で、容易に増幅する。
増幅した不安感はリセット願望、変身願望を強く要請する。

むろん、政治によって「変身願望」は達成されないし、不安感は解消されない。
(不安感を解消できる小さな物語の成功体験はもはや期待できない。)

しかし、彼ら有権者がそれを期待する以上、政治家、政党はその期待に応えなければ当選できない。

従って、山崎氏が橋下徹氏を変身願望病の最も重篤な患者と定義するのは間違っている。
なぜなら、橋下氏は有権者の欲望を体現しているだけで、自身は有権者ほどには変身願望(不安感)はないものと思われるからだ。

とはいえ、飽くなき変身願望に囚われた拙速な政治は社会を良くしない、という山崎氏は正しいと思う。

政治機能にスピード重視の市場経済マインドを求める言説がよくみられるが、この人たちは公平な再分配以外に政治に何を求めているのだろうか?

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