
- 作者:ジェニファー・エバーハート
- 発売日: 2021/01/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
Kindle版もあります。

- 作者:ジェニファー・エバーハート
- 発売日: 2021/01/08
- メディア: Kindle版
私たちは見て判断するのではない。
判断して見ているのだ。悪意の有無に関係なく存在する偏見、バイアス。それがいかにして脳に刻まれ、他者に伝染し、ステレオタイプを形作っているかを知ることなしに人種差別を乗り越えることなどできない。米国の学校・企業・警察署の改革に努める心理学者が解く無意識の現実とは。
著者のジェニファー・エバーハートさんは、ハーバード大学の心理学部教授で、人種問題研究の世界の第一人者のひとりだそうです。
著者は黒人なのですが、この本の冒頭で、著者の5歳の息子が、飛行機に同乗していた一人だけの黒人男性に対して発した言葉に衝撃を受けたことを告白しています。
息子さんは、肌の色以外はほとんど共通点がないその男性を「パパにそっくり」と言っただけではなく、信じられない言葉を口にしたのです。
私は考えをまとめ、息子の方を向き、私のクラスにいる観察力のない学生に教えるような方法で彼に講義をする準備をした。しかし、私が話し始める前に、息子は私を見上げて言ったのだ。
「あの男の人、飛行機を襲わないといいね」と。
もしかしたら私の聞き間違いかもしれない。自分の耳を疑いたくなった私は「今なんて言ったの?」と彼に聞き返した。世界を理解しようとする聡明な少年から想像できる限りの無邪気で可愛らしい声で、息子は再び言ったのであった。「あの男の人、飛行機を襲わないといいね」
私は怒りを抑え、できる限り優しく尋ねた。「なんでそんなことを言うの? パパは飛行機を襲わないって知っているでしょ」
「うん。知っているよ」と彼は言った。
「じゃあ、なんでそんなことを言ったの?」今度は声を一オクターブ低く、鋭い声で尋ねた。
エヴァレットはとても悲しそうな顔で私の方を見上げ、悲しそうに言ったのだ。「なんでそんなことを言ったのか分からない。なんでそんなことを考えていたのかも分からない」
この話をしただけで、あの瞬間にどれほど傷ついたのかを思い出した。深呼吸をして、講堂にいる聴衆に再び目を向けると、彼らの表情が変わっていることに気づいた。彼らの目は優しくなっていたのだ。彼らはもはや制服を着た警察官ではなく、私もまた大学の研究者ではなくなっていた。私たちはただ、戸惑いと恐怖に満ちた世界から子どもたちを守ることができない親だった。
この本のなかで、著者は、研究者として、これまでにわかってきた、さまざまな事実を紹介しています。
それと同時に、著者自身が、アメリカの社会で、「黒人であること」によって経験してきた、さまざまな理不尽な仕打ちについても語っているのです。
人間には、無意識に「差別してしまうシステム」みたいなものが植え込まれているのだ、という事実に対して、われわれは、社会は、どうすればいいのか?
「差別について考え、なくす活動をしてきた」ひとりである著者の息子さんでさえ、無意識に「黒人は危険だ」と思ってしまたのはなぜなのか?
彼自身も黒人なのに。
これまでの研究によると、人間は、自分と同じ人種に対しては、個人差を細かく見分けることができるけれど、異なる人種に対しては、ほとんど見分けることができないそうです。昔、欧米で日本人が「中国人ですか?」と言われるという話をよく耳にしました。でも、日本人は、アメリカ人とイギリス人とドイツ人を見分けられるだろうか?イタリア人がみんなジローラモさんみたいな人だというわけでもないでしょうし。
そういう「個としての認識」が難しいなかで、警察無線で「黒人男性」という言葉ばかりを聞いていると、どうしても、黒人男性の一挙手一投足に注目してしまうし、ちょっとした動きでも、危険なことをしてくるのではないか、という不安に襲われるという警官の話も出てきます。