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リスクを判断するための理路を示す 〜「リスク」の食べ方〜

リンク先を見る「リスク」の食べ方: 食の安全・安心を考える (ちくま新書)

本書は感染症医である岩田健太郎氏が食品のリスクについて記したものです。ご専門と関係の深い食中毒についての話題はもちろんですが、健康食品や健康本についての検証、そしてもはや話題として避けては通れない放射能のリスクまでが取り上げられています。こうした食品のリスクについての書籍は近年多数出版されています、そうした中で、他にはない本書の特徴をあげるとするならば、「理路を示す」という点をあげたいと思います。著者は冒頭で、厚労省が行ったレバ刺しの禁止を批判しながら、次のように述べています。

一見すると、ぼくのような立場にある人がこのような意見を述べるのは理にかなっていないように感じられるかもしれません。感染症のプロであり、人の健康増進を目的とする医者が、そんな乱暴なことを言ってもいいの?とお考えの方もおいてかもしれません。

では、なぜぼくのような立場の感染症屋がレバ刺し禁止を批判するのか。その理路を本書を通じてご説明したいと思います。


ある意見について妥当かどうかを見る場合、どのような理路でその意見を主張されているのかが明らかになっていることは重要です。意見と理路をあわせて検討することで、なぜそのように考えられるのか、一見妥当な意見でも過程はめちゃくちゃで偶然妥当に見える意見なのか、といったことも確認できます。その姿勢は本書に取り上げられていないリスクについて検討する際にも役に立つものだと考えます。

レバ刺し禁止は妥当か

本書の前半のテーマはレバ刺し禁止の妥当性です。著者は、病原菌の存在と感染症になるということは異なるということ、厚生労働省で検討に用いられたデータに問題があることなどを元に、レバ刺し禁止に疑義を呈します。

一方、疑問点もあります。例えば、日本とアメリカでは食中毒のデータの取り方が異なります。また、これはある程度わざと書いておられると思うのですが、腸管出血性大腸菌がいることを理由に禁止するのであれば、野菜の生食も禁止し、ジュースもホットで飲まなければならないのではと記載があります(P55)。実際には食品の規制には禁止以外にも様々な方策がとられています。*1しかし、そうした部分も含めて理路を確認していくのも本書を読む楽しみの一つと言えるでしょう。

なお、個人的には本書でなされているレバ刺しへの評価が感染症医の一般的な感覚なのか、専門の異なる医師(例えば疫学の専門医)などの評価はどうなるのかには気になっています。

健康食品と健康本

後半はトクホや健康本、放射能についての検証が行われます。第4章では、いわゆる健康食品について、実際に効果があるのかを検証します。ただ、第4章のタイトルは『「トクホ」を撮れば長生きできる?』となっているのに対し、後半取り上げられているグルコサミンなどはトクホではありませんから、章のタイトルは適切ではないと感じます。第5章では2冊の健康本、「身体革命 世界最先端のアンチエイジングの法則」(根来秀行)と「抗がん剤は効かない」(近藤誠)を例に記述の妥当性を詳細に検討します。ここでも、ただトンデモ本と切って捨てるのではなく、医学的な用語の解説も交えながら、主張の妥当な部分・行き過ぎた(あるいは誤った)部分について具体的に指摘を行っています。


昨今出版されたリスクに関する書籍では、よく「情報を疑って」ということが書かれています。しかし、正しく疑うというのも以外と難しいものです。本書は、その具体的な実践例として参考になるのではないでしょうか。


*1:野菜に関しては農林水産省が農林水産省/野菜の衛生管理に関する情報衛生管理指針を出しているし、アップルジュースは通常、充填時に加熱殺菌が行われます。

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