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ミャンマーで軍が政権を掌握 クーデターに中国共産党の影響は?

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[ロンドン発]ミャンマー国軍はアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相とウィン・ミン大統領を拘束し、クーデターを起こした。1年間の非常事態を宣言、ミン・アウン・フライン総司令官が国家権限を掌握した。軍出身のミン・スエ副大統領が臨時大統領を務め、ミャンマーは10年ぶりに軍政に逆戻りした。

ミャンマーは2011年に軍政から民政に移管した。15年の総選挙で国民民主連盟(NLD)が大勝し、スー・チー氏は国家顧問に就任。昨年11月の総選挙でもNLDが圧勝し、国軍系の連邦団結発展党(USDP)は惨敗した。国軍やUSDPはドナルド・トランプ前米大統領のように「大規模な不正があった」と主張した。

クーデターで首都ネピドーでは戦車や警察のトラックの検問所が設けられ、兵士が政府施設を包囲した。スー・チー氏の居場所は分かっていない。上智大学総合グローバル学部の根本敬教授(ビルマ近現代史)に背景を解説してもらった。

AP

クーデターの予測はできず想定外の出来事

――ミャンマーでクーデターが起きました。先生は予測されていましたか

いえ全く予測できませんでした。クーデターのウワサが流れていたというニュースは承知していました。1月30日に国軍が憲法を守るという声明を出したので、クーデターのウワサの火消しだと理解していました。クーデターは私にとっては想定外の出来事で、大変驚きました

――昨年11月の総選挙で与党NLDが大勝しました。それを受けて政権樹立の手続きが今週から議会で始まるのを阻止しようとしたのでしょうか

今回初めてNLDが圧勝したのなら説得力がありますが、15年の前回総選挙でもNLDは圧勝しています。今回はそれを上回る圧勝ですが、2回とも圧勝であることに変わりはありません。これまで5年間、NLD多数派の政権のもとで、軍は憲法上の特権を利用して自分たちの利権を維持してきました。再びNLDが圧勝したからと言って、なぜ急に選挙は不正だったと言い出したのか理解しかねます

――憲法で軍の議席が25%、それに加えて軍に近いUSDPの議席を足せば一番恐れる憲法改正は防げるので最低限の安定を軍は常に握っていますよね

仮にUSDPの議席がゼロであっても軍は25%の議席を持っています。それだけで憲法改正の発議は阻止できます。そういう軍に有利な憲法ですから何もクーデターを起こす必然性はありません。行政では軍・警察・国境治安は国軍が憲法上の権限を握っています。それを見てもなぜ軍がさらなる力の行使をする必要があったのか理解しかねます

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クーデターへの中国の影響は「ないと思う」

――中国共産党の機関紙系国際紙、環球時報は「中国は、外部からの干渉ではなく、国内の話し合いを通じたミャンマーの安定と平和を望んでいる」と論評しました。クーデターへの中国の影響はあったのでしょうか

それはないと思います。ミャンマーの国軍は中国を警戒していた面があります。中国が国内でしっかり話し合いなさいというコメントを出したのは、中国の姿勢の変化を表しているように映ります。ミャンマー軍政期の中国であれば軍政を自動的に支持し、スー・チー氏やNLDを封じ込めたり抑圧したりしても中国は内政問題ですとけんもほろろでした

今回は国内でじっくり話し合うべき問題ですという言い方をしています。もちろん冷めた表現ではありますが、ミャンマー側に丸投げしているということは、中国は少し姿勢を転じたのではないかと思われます。ここ5年間、中国は中国なりにスー・チー政権との関係を強めてきました。いきなり軍政に変わることに中国にとっても戸惑いがあると私は見ています

――中国はミャンマーに投資していますよね。それはスー・チー政権へのコミットメントというふうに捉えても良いのでしょうか

そういうふうに私は見ています。中国と長い国境線を接するミャンマーとしては軍政であれスー・チー政権であれ中国との関係は重視せざるを得ません。したがって中国との関係は政権担当者が誰であろうと深まっていく可能性が高く、実際に高まってきたわけです

中国は軍政期に全く無視していたスー・チー氏が政権を取って以降、かなり政権に食い込んできています。しかし中国が国軍と組んでまでスー・チー政権をひっくり返すことは非常に考えにくい。ミャンマー国軍も中国と組もうとする気はもともと持っていない。多くの方が誤解していますが、軍政期のミャンマー国軍であっても中国とはそれなりの距離は置いていました

すなわち軍事協力はしない。経済協力は他の国がやってくれなかったので中国に頼り切りましたが、軍事協力には踏み込まない。ミャンマー国軍は国軍なりの愛国心と言いますか、ナショナリズムを持っています。外国勢力との関係を深めるに当たっては非常に慎重です。それを考えても今回のクーデターの背後に中国がいるというのは考えにくい

AP

日本など西側諸国の対応は 経済制裁も?

――クーデターを受けて西側諸国は日本も含めて経済制裁に動かざるを得ないのではないでしょうか

早くも西側は強い批判を出していますが、経済制裁があるかどうかは微妙です。もしやるとしたらアメリカが第1歩を踏み出すでしょうが、すでに一部で始まっている国軍高官の入国禁止措置、これはスー・チー政権のときからロヒンギャ問題で実施されています。それをもっと広げて第一弾として軍関係者は全部ダメぐらいの措置はとるかもしれません

そのあと軍政期のような経済制裁をアメリカが発動するかどうかはもう少し様子を見ないと分かりません。欧州連合(EU)諸国がそれに乗るかどうかもまだ何とも言えません。日本の外務省の声明を見ると、きつい表現で国軍を批判しています。日本としては折角スー・チー政権を官民一緒に支えてきたのにここで逆行されてしまったら困ります。日本のビジネスにも影響する恐れがあります

日本政府としては珍しくミャンマー国軍の動きに対して厳しい批判声明を出しましたが、経済制裁まではいかないと思います。アメリカが経済制裁を発動するのかどうか、そこにまず注目したい。当面は軍に対する制裁にとどまるのではないでしょうか。ミャンマー国軍の軍人の資産を凍結するとかそういうところがまずは最初のレベルかなと思います

――中国はどういう手を打ってきそうな感じでしょうか

これが分かりづらい。中国はやはり自分たちのビジネスが安定して展開できる状況を最大限確保しようと考えるでしょう。それもあって国内でしっかり解決しなさいというコメントを出しているのでしょう。安易にクーデターの肩は持っていません。やはり中国も事実の確認にいま相当、力を入れて今後の対策を考えるのではないでしょうか

民主化10年の節目の年 ミャンマー国軍の思惑とは

――民主化10年という区切りの年に突然、軍がクーデターを起こしたのは、これ以上民主化の流れが強まるのを止めてしまいたいという狙いがあったのでしょうか

歴史的に見た場合、ミャンマー国軍は政治に関与する軍であり、それを誇りにしています。ミャンマー国軍の側に立って言えば国家が混乱状態に陥ったとき、軍が政治に関与しないということはあり得ません。軍が責任を持って国を救うのだという考え方を持っています。それはそれとして私が理解しかねるのは、なぜ選挙の不正が非常事態なのかということです

選挙の不正が行われた可能性は非常に少ない。国民が選挙に不満を唱えてデモをしているもしくは暴動を起こしているような状況ではありません。軍が危惧する外国勢力の国境侵犯も起きていません。どうして非常事態なのか。それが判断しかねるわけです。非常事態を無理やり作り上げて政権を奪いとるその本当の理由が私にはまだ理解しかねています

選挙の不正以外の裏の理由があるのではないか。その裏の理由が、これ以上民主化が進むのは嫌だからやったということはあり得ますが、現在の憲法に軍にとって不利な部分はありません。国家顧問という職を作られてしまったというのは軍にとって迂闊だったというのはあったのかもしれません。しかし軍・警察・国境治安の3つを軍は独占的に握っています

議席の25%は上下両院とも軍が握っていますから憲法改正は阻止できます。その他いろんな面で軍は自分たちの権限や利権を維持できる仕組みになっています。そういう憲法の枠内でさらに軍の大統領を無理やり出すという憲法内のクーデターを行って彼らが言うところの憲法内の権力奪取をして軍人の副大統領を大統領にする必要があるのかその真の狙いというのがまだ見えて来ません

2日、ミャンマー・ヤンゴンの市庁舎にいる国軍兵ら(ロイター=共同)

――軍のキーパーソンはやはりミン・アウン・フライン総司令官ですか。その個人的な性格が影響しているのでしょうか

ミン・アウン・フライン氏は今年中に定年退職を迎えます。その前に軍が権限を取るような措置をとったという説が流れています。しかし冷静に考えればミン・アウン・フライン氏が別に定年退職しても次の国軍最高司令官も同じように憲法上の権限を持つわけですから大差はありません。ミン・アウン・フライン氏が総司令官じゃないと軍が一つにまとまらないという話でもありません

ミン・アウン・フライン氏が彼の野心でやったというのはどうも私には腑に落ちません。軍の定年というのはその気になれば軍が勝手に変えることができます。かつてもやったことがあります。ミン・アウン・フライン氏がいまの立場にいたいのであれば定年を変えればいいわけです。これは軍の判断だけでできます。それをやらずにクーデターを起こして軍出身の副大統領を大統領にするというのは個人的な野心とは考えにくいですね

――ミン・スエ副大統領が臨時大統領になりました

彼はスー・チー国家顧問が動きすぎないよう監視役として送り込まれた軍出身の副大統領です。軍側の議員が選んだのです。反NLD、反スー・チーの副大統領です。今回は大統領をまず捕まえて権限を行使できないようにしてからミン・スエ副大統領に非常事態宣言を出させています。事前の準備もバッチリだったと言うことができます

スー・チー氏への批判が大きいロヒンギャ問題 抑圧は加速も

――スー・チー氏をめぐってはイスラム教徒の少数民族ロヒンギャ問題で国際的な支持者からすごく非難されました。ロヒンギャ問題は現在どうなっているのでしょう

全く収束していなくて継続しています。バングラデシュに避難した100万人近い難民はまだ戻って来ていません。例外的にミャンマーに戻った人もいますが、せいぜい数十人程度です。スー・チー政権は何とかこの問題を解決しようといろいろと努力してきたのですが、自分たちシビリアンの権限が及ばない分野でもあるわけです

軍が全権を握る軍・警察・国境治安が全部絡んでいるのがロヒンギャ問題です。スー・チー政権の努力だけでは解決は非常に難しい。結果的にまだ難民は戻って来ることができず、ロヒンギャ問題は悲惨な形で続いています。今回のクーデターで一番被害を受ける恐れがあるのがロヒンギャです

ロヒンギャを安全に何とかミャンマーに戻そうという人がいなくなりました。軍はロヒンギャが戻ってくることに非常に強く反対しています。非常事態宣言が続く限りロヒンギャは戻ってくることはできません。このまま無視される可能性が強く、国内に残っているロヒンギャもますます抑圧される恐れがあります

――ミャンマーは仏教ナショナリズムが高揚していると聞きます。ロヒンギャ問題と仏教ナショナリズム、スー・チー氏の支持者と軍の関係をどういうふうに理解したら良いのでしょうか

まずロヒンギャはムスリム(イスラム教徒)だから排斥されたわけではありません。もちろんその要素はありますが、一番の要素はロヒンギャがロヒンギャという名前を使って自分たちはミャンマー連邦の土着の民族だと主張している、それを軍と多数派の世論は認めていないことにあります

ミャンマーには(1886年に)イギリスの入ってくる前から135の土着民族がいて、イギリスの植民地支配が始まってから入ってきた連中は土着民族ではない、だから国籍は非常に厳しく審査するし、場合によっては与えない、ロヒンギャは第二次世界大戦後に入ってきたベンガル人だから彼らが土着民族のはずがない、彼らは不法移民だというのが軍と多数派国民の理解です

これは民族問題です。ロヒンギャに民族を主張する資格はないというのがミャンマーの軍と国民の多数派の理解です。スー・チー氏はこの問題を解決したいのですが、自分の支持基盤の多くが反ロヒンギャです。その一方で軍の抑圧を認めるわけにはいかないというジレンマの中でこの問題に取り組んできたわけです

スー・チー氏ぐらいしかロヒンギャ問題を解決する人があの国にはいないという現実があります。そのスー・チー氏がまた軟禁されてしまうと軍の自由判断でロヒンギャ封じ込めがますます進んでいくという懸念が強まっていきます

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