中国軍機13機が台湾南西部の防空識別圏に侵入
今年1月23日、中国軍機13機が台湾南西部の防空識別圏に侵入した。13機の内訳は爆撃機8機、戦闘機4機、対潜哨戒機1機。これまで中国軍機による台湾の防空識別圏への侵入は多くても2、3機だった。13機という数はかつてない多さだ。しかも翌24日にも15機が侵入した。前日と違って爆撃機の数は少なく、戦闘機が多かったが、合わせて28機の数である。

防空識別圏とは、領空侵犯を防ぐために各国が領空の外側に独自に設けた空域だ。「ADIZ」と呼ばれる。飛行計画を提出せずにここに進入する航空機に識別を求め、領空侵犯の可能性があると、軍事的予防措置を行使できる。日本では航空自衛隊機によるスクランブル(緊急発進)の対象となっている。
今回の中国の台湾威嚇は、軍事衝突を招きかねない事態なのである。
「台湾を支援したら許さない」とのメッセージか
これまで中国はアメリカと台湾の関係が親密になることを懸念するとき、台湾への威嚇や挑発を強めて警戒してきた経緯がある。今回の2日連続の異例の数の防空識別圏侵入は、アメリカのバイデン新政権に対する強い警告を意味していると、沙鴎一歩は考える。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席はアメリカと台湾が手を強く結ぶことを警戒し、バイデン大統領に「台湾を支援したら許さない」との“メッセージ”として今回の防空識別圏侵入を指示したのだろう。
事実、アメリカ国務省のネッド・プライス報道官は23日、中国に対し「台湾への軍事的、外交的、経済的な圧力の停止を求める」との声明を出し、報道陣に向けて「アメリカはインド太平洋地域で共有する繁栄と安全、そして価値観を推進するために同盟国と連携する。そのためにも民主主義国家の台湾との関係を強めていく」と語った。
前大統領のトランプ氏は昨年の夏、米ロッキード・マーチン製の最新戦闘機「F16」を計66機、台湾に売却することで正式調印して中国の反発を買ったが、バイデン新政権でもアメリカと中国の攻防は間違いなく続く。
民主主義を否定する悪法の国安法をよく正当化できたものだ
目に余る中国の過激な行為と言えば、香港の民主派に対する締め付けもかなりのものである。

香港については最近、習近平国家主席が香港の林鄭月娥(りんてい・げつが、英名キャリー・ラム)行政長官の年次報告を受け、国家安全維持法(国安法)に基づく香港の統治について次のように述べたという。
「香港の一国二制度の安定には『愛国者による香港統治』を堅持しなければならないことが再び示された。国安法は香港の長期安定のための根本的な原則だ」
中国国営の新華社通信が伝えたものだが、違和感を覚えると同時にあきれた。民主主義を否定し、世界各国から批判されるこの悪法を、よくもこまで正当化できたものである。
習氏は林鄭氏について「香港政府を率いて暴力と混乱を抑え、香港を正しい軌道に戻す努力をした」と褒めたたえた。これも歪んだ解釈である。林鄭氏は習近平政権の傀儡にすぎない。自由な民主社会を求める大勢の市民を取り締まろうと強硬手段に出たのは林鄭氏率いる香港政府ではないか。市民や学生のデモに過激さはあったが、その後の周庭氏ら民主派の活動家に対する逮捕や禁錮刑判決は異常である。
新型コロナ対策でもWHOの現地調査を拒んだ中国
習氏はこの香港の問題についても、バイデン新政権に隙を与えない強い態度で臨んでいる。香港が台湾のようにアメリカ側に寄っていくのを何とか食い止めたいと必死なのだろう。しかし、その結果、世界の民主主義国家から厳しく批判されている。
新型コロナ対策でも中国は、発生源を調べるWHO(世界保健機関)の現地調査を拒んだ。その後、WHOは中国を説得して武漢入りしたものの、中国は国外からの病原体の流入や初期対応の成功を強調するばかりで発生源の特定には非協力的だ。SARS(サーズ)などコロナウイルスの研究をしていたという武漢の研究所は調査できていない。
昨年1月の時点で、習近平政権が新型コロナの感染拡大を隠蔽した結果、世界の防疫が遅れ、パンデミック(世界的流行)を引き起こした。WHOの独立委員会も中国の初動の遅れを批判している。