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「鳩山さんも小沢さんも虚偽やんか」政界を震撼させた裏金問題をめぐる“平成の政商”の告白 『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #3 - 森 功

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 中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。

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 彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げていたのか。ノンフィクションライター森功氏の著書『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』を引用し、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)

◇◇◇

始動――東京地検特捜部「裏金捜査」の端緒

 水谷建設元会長の水谷功が、三重県の県庁所在地にある刑務所をあとにしたのは、小沢一郎事務所に対する裏献金を告白してから、およそ半年後、2010(平成22)年3月のことである。この間、小沢はみずからの秘書たちが政治資金規正法違反に問われて次々と逮捕され、政治家としての足元が危うくなるが、東京地検は本丸の立件を見送っていた。政治とカネ問題の解明を期待された特捜部の捜査は急速にしぼんだ。

 そして小沢が嫌疑不十分で不起訴になってからおよそ2カ月後、平成の政商と呼ばれた男が、再びゼネコンの世界に舞い戻る。水谷がつけた疑惑の炎は、消えてはいなかった。

 水谷は出所後の挨拶まわりを兼ね、三重と東京を往復していた。私が初めて本人と会ったのは、そんなときである。平成の政商は、非常に多忙な様子だった。

「ああ、あんたが森功さんかいな。刑務所のなかであんたの本を読んどったわ」

 名刺を受け取るなり、そう言う。事前に津の刑務所にいる本人宛に、近著の『同和と銀行─三菱東京UFJ“汚れ役”の黒い回顧録』を差し入れていたので、読んでくれていたのだろう。おかげで、すぐに打ち解けることができた。


©iStock.com

「刑務所は、ダイエットできるわ」

 水谷功は以前に比べ、体重が10キロ以上落ちたと笑った。そういえば、報道で見た写真とは別人のようだ。2年近い刑務所生活のせいで、ずい分スマートになっている。たが、それでもかなり恰幅がいい。押し出しが強く、桑名なまりの独特な声には、妙な迫力があった。

「鳩山(由紀夫)さんの問題でも、小沢(一郎)さんの問題でも、もうちょっとあれやわな。わしらには、理解できんことが多いわな」

 話題は、いきなり政治とカネになった。

芝居がかった明け透けな物言い

「たぶん、われわれのほうが、もっと理解できていないと思います。どうなっているでしょうかね」

 そう相槌を打つと、水谷は話した。

「たとえば鳩山さんの政治資金報告でもな、あれはあきらかな虚偽やんか。わしらなら刑務所へ行かな、ならん。でも、あの人らなら、『知らなんだ』でええわけやろ。小沢さんにしても、そうやんか。銀行の書類に本人がサインしとってやで、『わしは知らなんだ』やろ?」

 みずからの裏献金告白が、小沢サイドにより、偽証呼ばわりされていることを気にしているようだ。

「知らなんだて、そんならこれ、偽造書類やないか。そういうことをあんたらは、よう追及せんのやね」

 ずい分ストレートに話す。明け透けな物言いが印象的だった。

「いやいや、おっしゃるとおりです、それは。だからこうして、水谷さんから本当のところをお聞きしたいと思いましてね」

 そう言葉を返すと、さらに言った。

「それで、われわれみたいな弱いもんを追及しとったら、アカンわな、あんたら。あなた方は権力者に立ち向かわなアカンわな」

 かなり芝居がかった物言いでもある。だが、平成の政商と異名をとる男は、世間でいわれるほどの嘘つきではない気がした。

特捜部が目をつけた重機裏取引

〈「小沢幹事長側に1億円」 水谷建設の関係者供述〉

 2009年11月19日、共同通信がこう題した記事を配信した。水谷建設による小沢事務所への裏献金疑惑は、ここから浮上する。記事は以下のように書いていた。

〈 民主党の小沢一郎幹事長側に、重機械土木大手「水谷建設」(三重県桑名市)の関係者が「2004~05年、計1億円の現金を渡した」と東京地検特捜部の調べに供述していることが18日、分かった。この関係者を含む複数が共同通信の取材に対し認めた。

 小沢氏関連政治団体の04、05年の政治資金収支報告書には、該当する寄付などの記載は見当たらず、供述通りなら、献金の不記載などを禁じた政治資金規正法に抵触する可能性が浮上。裏献金の疑いもあり、特捜部は慎重に捜査している〉

 むろん特ダネを狙っていたのは、共同だけではない。さらに日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」(日曜版、09年11月29日号)が、裏金に関する具体的な供述内容を詳報する。

〈スクープ新証言 ホテルで5000万円ずつ秘書に渡した〉

 水谷功の実名をあげ、衝撃的なタイトルの記事を掲載した。

〈 民主党の小沢一郎幹事長側にダム工事をめぐり1億円を提供した─。巨額脱税事件で実刑判決を受け服役中の水谷建設元会長・水谷功受刑者が、東京地検特捜部の調べにそう供述しています。編集部は同社関係者から新たな証言を得ました。現金5000万円を2回、都内のホテルで小沢氏の秘書に渡したというのです〉

 2回で1億円。これが問題の全日空ホテル(現・ANAインターコンチネンタルホテル東京)における裏献金報道である。共同通信と赤旗の記者はどちらも検察情報だけでなく、まだ獄中にいた水谷本人から話を聞き出していた。赤旗が少し遅れたのは、日曜版の記者が担当したからだが、記事の中身はよりいっそう濃い。いずれも政界きっての実力者の致命傷になりかねないスクープ記事だ。事実、この2連発の記事により、小沢一郎の政治とカネ問題の火の手があがったのである。

なぜ水谷は獄中告白したのか

 それにしても、なぜ水谷は唐突にこのようなことを捜査当局に供述し、獄中にいながらマスメディアにまで話をしたのか。疑問が残る。

「水谷功は仮釈放が欲しいため、法務・検察におもねって虚偽の供述をしたに過ぎない。裏献金の事実はない」

 小沢サイドの言葉を信じきっているのか。一連の裏金報道に対し、小沢にそう肩入れする識者も登場した。しかし、仮釈放欲しさに白状したという論理は妙だ。仮に東京地検特捜部が、自分たちの捜査の筋書きに合うような望みどおりの供述を得られたとする。

 その場合、捜査側としては、むしろ証言者を表に出さないほうが得策である。もし水谷が自由の身になり、小沢サイドに抱き込まれて供述を翻されたらたまったものではないからだ。

 特捜部に限らず、通常、捜査当局は取調べなどの捜査情報がマスメディアに漏れることを嫌う。刑務所は検察の所属する法務省管轄なので、メディアサイドの面会を制限し、検察側がしばらく水谷供述を隠しておく気になれば、それはさほど難しくはない。

 にもかかわらず、記者たちが獄中インタビューできたわけだ。それはおそらく、検察側もある程度取材を容認していたからに違いない。もっといえば、検察側が意図的にそう仕向けたと見えなくもないのである。

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