当然だが、ここまでの過程で、個人投資家から数多くの億万長者が生まれ、いくつかのヘッジファンドが数千億円単位の損失を出している。残念ながら、筆者がこの「祭り」に注目しはじめたのは、株価が上方に「ワープ」し、市場参加者がザワザワしはじめてからであり、億万長者になるチケットを買えたわけではない。
●ロビンフッダーがヘッジファンドを締め上げた!?
https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/20210127-00359491-zaifxf-fx
●ゲームストップ暴騰は株価操作か、SECの判断は?
https://jp.wsj.com/articles/SB12491042563126453483504587249851597365954
●米株市場にも分断の影 個人SNSで共闘、ファンドを標的 規制論再燃も
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68694660R30C21A1MM8000/
正直、最初にこのゲームストップ株のニュースを見たとき、あまりいい印象を持たなかった。よくある、ネットのインフルエンサーが自分のファンを食い物にするいつものやつだと思ったからだ。女の人の顔に塗りたくる原価がほぼゼロの変なクリームをインスタグラマーがファンに買わせて広告収入を得るみたいに、投資系のインフルエンサーがクソ株やクソ仮想通貨を買ってからネットで買い煽ってファンに高値でつかませる。そんな下品な話だと思ったのだ。
しかし、詳細に調べていくうちに、印象が変わることになる。これは単なるネット民による買い煽りではなく、はるかにスケールの大きい事件であり、それがいまも進行中なのである……。
ことの発端は、昨年、メルビンキャピタルという大手ヘッジファンドが、ゲームストップ株を大量にショートしているという情報が流れたことだ。ゲームストップは、日本でいうゲオみたいな会社で、アメリカでゲームを売る小売店である。コロナ禍をもろに喰らい、業績はボロボロ。
ネットフリックス社が、全米に展開していたレンタルビデオ店のブロックバスターを駆逐してしまったように、ゲームもオンラインでのダウンロードが販路の中心になり、ゲームストップもいずれなくなっていく業態だろう、と予想されていた。いくつかのヘッジファンドがショートを仕掛け、また、理路整然とこの会社の先行きは暗いと隠すこともなくポジショントークをしたのだった。そして、これが、とんでもない損失に結びついていくことになる……。
●ゲームストップ急騰劇、脅迫や中傷渦巻く市場の闇
https://jp.wsj.com/articles/SB12491042563126453483504587247842431309120
信じられないほどの金を持っているウォール街の連中が街のゲーム屋さんの株の空売りで儲けようとしている。これは、子供時代に、ゲームストップで買ってきたゲームを何よりも楽しみにしていたネットのゲーム民たちの反感を買った。そして、彼らはディスコードと呼ばれる、ゲーマー向けのチャットアプリに集結し、虎視眈々とこうしたヘッジファンドを倒すための秘密の作戦会議を重ねていたのだ。
空売りポジションは、いずれ必ず買い戻さないといけない。そして、株を買うだけなら、損失は最大でもその株の株価がゼロになることだが、空売りの損失は理論上は無限大になる。つまり、ネットに集まってきたデイトレーダーたちが、みんなで買って、買って、買いまくり、株価を上げれば、空売りしているヘッジファンドの損失は、どこまでも大きくなる。そして、彼らには、ロビンフッドと呼ばれる取引アプリで、オプションなどのさらにレバレッジをかけられる武器に即座にアクセスできたのだ。
●週刊金融日記 第283号 ショート戦略を理解する、他
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/52118110.html
●週刊金融日記 第436号 続・コロナバブルに乗れなかった人たちの反省会 ロビンフッドに熱狂する米国個人投資家たち、他
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/52177853.html
ほどなくして、ゲームファンの弱小投資家たちが集まり、団結し、お互いに裏切ることなくゲームストップ株を買い支え続けるための作戦司令部は、レディットと呼ばれる、アメリカの2チャンネルのような掲示板のウォールストリートベットと呼ばれるスレッドに設置された。このスレッドは、いまやネットの住民だけでなく、永久に凍結されてしまい歴史に葬りさられたかつてのトランプのツイッターアカウントのように、世界中の市場参加者が注目するスレッドとなる。
筆者はウォールストリートベットのログを見ていたのだが、まさに熱狂に包まれていた。初期から、ゲームストップ株やそのオプションを買い続け、一度も売らなかったリーダー格の人たちは、すでに数十億円単位の金をわずかな期間でつかんでおり、さながら、彼らは悪のヘッジファンドを倒すための勇敢な戦士たちのように崇められている。
彼らレディット民たちの勇敢な買い煽りで、数千億円規模の損失を出したいくつかのヘッジファンドは降伏宣言を出すことになる。もうすでにショートポジションを手仕舞った、と。そして、破綻寸前だった冒頭のメルビンキャピタルには、世界最高峰のヘッジファンドのひとつであるシタデル(Citadel)のケネス・グリフィンなどが3000億円規模の緊急資金提供をして、破綻を免れている。
そして、このシタデルこそが、ロビンフッドのアプリで、オプションのマーケットメイクをしているのだ。つまり、個人投資家が買っているゲームストップ株のコールオプションを売っているのは、背後にいるシタデルなどのヘッジファンドなのである。ケネス・グリフィンは、天文学的な金持ちであり、まるで子供がゲームストップでテレビゲームを買うように、100億円単位の美術品をポンポン買うことで知られている人物だ。
しかし、ちょっと考えると、本当にショートポジションを閉じたのだろうか、と疑問に思えてくる。本当に閉じたとしたら、わざわざそんなことを発表するだろうか。実際には、まだ、ショートポジションを抱えているのではないか、とレディットに集うトレーダーたちは確信していて、ショートスクイーズの本番はこれからだと仲間たちに結束を呼びかけている。
ゲームストップ株戦争を仕掛けた反乱軍は、あとからやってきた人たちにはめ込んで逃げるのではなく、巨大ヘッジファンドをショートスクイーズで破綻させ、そこに最高値で買い取らせることでこの戦争に勝利しようとしているのだ。彼らには彼らの正義と大義名分があるのだ。
★さまざまなデータが、まだ巨大なショートポジションが残っていることを示唆しているようだ。
Kazuki Fujisawa@kazu_fujisawa
でも、もう一段階ロケットが上がるかどうかはわからんのだけど、彼らの言い分は上がるはずなのよ。なぜなら公開データではショート割合がまだまだめちゃくちゃ高いのよ。でも、こういう米株のショート割合のデータの信頼性を、どう読めばいいのか、… https://t.co/i1LJZ3pjpG
2021/01/31 00:48:30