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家族が笑顔で食卓を囲むために――「補完食」から考える育児情報とのつきあい方 相川晴氏インタビュー - 服部美咲

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「食べない」「食べ過ぎる」「集中できない」「好き嫌いが多い」…。それぞれの家庭が、多様な子どもの食事をめぐる悩みを抱えている。厚生労働省の調査(2016年)によれば、子どもの食事について悩む人は7割を超える。子どもを寝かしつけた後、深夜にひとりインターネット検索を繰り返し、氾濫する情報の渦の中、深く思い詰めてしまう人もいる。

『赤ちゃんのための補完食入門』が出版された。内科医でもある著者は、110以上もの論文やガイドラインを参照しながら、一般の人が取り入れやすいアイディアを提案している。食事の問題に限らず、氾濫する育児情報とどう付き合えばよいのか。また、子育てをする人を孤独にしないために、社会ができることはなんだろうか。著者の相川晴氏(https://twitter.com/halproject00)にお話をうかがった。

子どもの食事について、WHO(世界保健機関)は、「補完食」を提唱している。WHOは、母乳が子どもにとって、少なくとも2歳まで重要な栄養源となるとした上で、子どもの成長に必要な栄養を母乳に加えること(またその食事そのもの)を「補完食」と定義する。

日本では、子どもの食事として「離乳食」が知られる。厚生労働省は「授乳・離乳の支援ガイド」を出している。ガイドは随時更新され、直近では2019年に改訂が行われた。この改訂では、離乳食について、「(子どもの)成長に伴い、母乳や育児用ミルク(以下単に「ミルク」と表記)等の乳汁だけでは不足してくるエネルギーや栄養素を補完するために、乳汁から幼児食に移行する過程をいい、その時に与えられる食事」としている。WHOの「補完食」の考え方を取り入れたかたちだ。

とはいえ、従来の離乳食とは違い、補完食を日本の一般家庭でどう進めればよいのかを解説した一般書はこれまでなかった。

日本の食材でできる「補完食」を

――HAL先生ご自身が、お子様の食事の場面でご苦労なさったエピソードがあれば、お聞かせください。

離乳食でいうところの初期(生後5~6か月頃)、中期(生後7~8か月頃)あたりまではスムーズに進んだのですが、後期(生後9~11か月頃)になったあたりで、ほぼ全く食べなくなった時期がありました。手づかみじゃないと食べない。でも歯は全く生えていないので、固いものは食べられない。手先もまだまだ器用とはいえないので、上手に手づかみで食べられるわけでもない。それでも、とにかく手づかみじゃないと食べない。「詰んだな」と思いました。

椅子に座らせると、嬉しそうに手を合わせて「いただきます」のポーズはするんですが、スプーンで食べさせようとするとスプーンを真剣白刃取りする、手でなぎ払う……なんとか口までスプーンを近づけても絶対に口を開けない。

諦めて本人に任せると、お皿に手を突っ込んでにぎにぎするけど、食べない。そのままべちょべちょの手で頭をかきむしろうとするので、慌てて手を拭こうとして私がウェットテッシュに手を伸ばし、娘を振り返るとお皿が宙を舞っている…という状況ですね。

そして一口も食べないままに、笑顔で手を合わせて「ごちそうさま」のポーズをして(なぜかそこは礼儀正しい)、椅子から脱出しようとするわけです。

離乳食の本なんかに書いてある様々な工夫はし尽くしました。まあ、食べないものは食べませんね。もうどうしようもなかったです。海苔しか食べない日もありました。

私の場合、母乳を続けていたので、それで最低限のエネルギーと水分は確保できているという安心感はありました。また本人の様子もいたってツヤツヤと元気だったんですが、食物アレルギーがあり、その治療の一環として、毎日一定量を食べさせなければならない食品がありました。食べない、投げる、汚すと三拍子そろって、親のストレスは大変なものでした。正直、食物アレルギーの治療さえなければ、しばらく補完食(離乳食)をやめたいとすら思いました。

――今回、補完食の本を書こうと思われた経緯をお聞かせください。

次女が生後5ヶ月になり、そろそろ離乳食をはじめようかと考えていたときに、「そうだ、WHOの提唱している補完食も少し取り入れてみようか」と思ったんです。ところが、WHOの補完食についての資料を改めて読んでみると、これが大変難しい。日本でどうやって補完食を進めたらいいか、さっぱり想像がつかなかったんですね。なにせ、最初に出てくるのが、「キャッサバとピーナッツのシチューを取り分ける」という話だったんです。想像しにくいでしょう?

なので、日本の食材でできる補完食について解説した本がないかと探したのですが、少なくとも2019年当時には、見つかりませんでした。

そのときに、Twitterで「誰か日本語の補完食の本を書いてくれたらいいのに…もういっそ自分が書くか…」という内容の投稿をしたんです。それを、今回担当してくださった編集者の方が見つけて、素晴らしい企画書を携えて声をかけてくださいました。

離乳食でも補完食でも間違っていない

――今回のご著書には、従来の離乳食と補完食のメリットとデメリットが、科学的な根拠に基づいて、わかりやすく示されています。また、母親が悩みやすい母乳やミルクについても、どちらも「胸を張ってよい」と、どちらかが絶対に良いというような価値判断が慎重に避けられているように感じました。

今、育児に関する情報があふれています。特に、インターネットを見ていると、「これがいい、あれは悪い」というような、育児の仕方を「ジャッジ」するものが多いように感じます。そういう情報の中には、「自分の選択は間違っていない」ことを強調するために、自分の選択しなかった方法を落とす(けなす)書き方がされていることがあるんですね。

これは、そういう書き方をする方が悪いのではなく「自分の選択は本当に間違っていないだろうか」という、書き手自身の不安のあらわれなんじゃないか、と。

それによって何か赤ちゃんに危険をおよぼすのであれば別ですが、赤ちゃんが元気に育っているのであれば、間違った育児法なんてないと思うんです。

母乳とミルクもそうですし、離乳食と補完食も同じです。過去に離乳食でお子さんを育てた方で、今回の本を読まれた方もいらっしゃるようです。離乳食で育てた方は、まったく間違っていないんです。今回の本を読んだ上で、やっぱり従来の離乳食のやり方を選ぶ方もいらっしゃると思います。それもまったく間違っていないと思う。

私はこの本で、WHOが提唱している補完食なるものの考え方の解説をした上で、従来の離乳食だけではなく、補完食という考え方 もありますよという提案をしました。

本を読んでみて、「これはよさそう」と思えるところだけでも、取り入れてもらえたら嬉しい。そのことで、家族が少しでも楽になって、赤ちゃんがより元気に育ってくれたら、もっと嬉しい。

読んだ人が「補完食はいい、離乳食は悪い」「これがいい、あれは悪い」とジャッジしなくてすむように、つまり、「自分の選択は間違っていないだろうか」という不安を感じずに読めるように、書き方を工夫したつもりです。

――厚労省による「授乳・離乳の支援ガイド」が2019年に改訂されました。ただ、実際に保護者の指導にあたる自治体の保健師や管理栄養士の方々ひとりひとりの解釈の幅がある分、家族が「いろいろな人に違うことを言われる」という体験をして戸惑うことがあるようです。

今回、本を書くにあたって、Twitterでもいろいろな方からお話を伺う機会がありました。自治体の指導かどうかはわかりませんが、ガイドラインとの乖離がある指導をいろいろと受けた、という話はいくつも聞きました。

「十倍粥から」もそうですし、さらに「重湯から」と言われたという方もいらっしゃいました。卵の開始時期を遅らせるよう指導された方も。それから、この食材を食べさせていいかどうかという時期が、離乳食の本と対面の指導とで異なり、困ってしまったという方も多くいらっしゃいました。

離乳食の進め方については顕著で、少しでも従来のやり方から逸脱すると、これまで通りの流れに無理やり戻されるような指導を受けている方がかなり多くいらっしゃるという印象があります。

離乳食で悩んだとき、ひとりで思い悩んで追い詰められてしまうのであれば、専門の方に相談された方がいいとは思います。しかし、実際には「栄養指導を受けに行ってみたけれど、悩みは解決しなかった。むしろさらに深く悩んでしまった」という話も聞きます。なかなか難しいなと感じます。もちろん、相談に行って解決される方も多くいるのだろうとは思いますが。


「補完食」を似非科学の温床にしたくない

――いろいろな人に違うことを言われて悩んだとき、正しい情報にたどり着くためには、どのようにすればよいでしょうか。

これは本当に難しい質問ですね。補完食に限らず、育児情報の真贋を見極めるのは、なかなか難しいことだと思います。

ひとつ私からご提案できるとすれば、「信頼できる情報源の中で調べるようにする」ということです。

例えば、「検索したいワード go.jp」で政府関連のサイトの情報を検索できますし、「検索したいワード ac.jp」で大学関連のサイトの情報を検索できます。これで出てくる情報は、概ね信頼に足りると思います。これは現政府が信じられるかどうかという話ではなくて、政府や大学は、間違ったことを発信すると重大な責任問題に発展しますので、個人の発信する情報等に比べると、相当しっかりとした根拠のあることしか発表しない、という意味です。

もし個人サイト等から情報を得るときには、その情報の根拠はなんであるのか、出典がきちんとあるかどうかが、判断の一つの材料にはなります。「〜と聞いた」「〜らしい」といった伝聞のたぐいは、基本的に、あまりあてにしない方がいいかもしれません。

ただ、出典が書かれてあっても、その出典そのものの科学的な信頼性がどの程度なのかがわからないこともあります。

それから、「○○しないと将来××な子になる(こんなに悪いことが起こる)」と断言して脅す文章を書くサイト、本、人からは距離を置く、ということをお勧めしたいです。なぜかといえば、「○○しないと将来××な子になる」と断言できるような事実、科学的な根拠なんてなかなか存在しないからです。

「〇〇しないと将来こうなるぞ」と脅して怖がらせた後に、「でも○○すればこんないい子になるんだよ」と甘く誘うやり方は、詐欺師の手口にも似ていますね。

育児に関する情報に触れて、よくわからないけどなんだか脅されているようで怖いな、今すぐにここに勧められているようにしないと酷いことが起こるのかな、と感じたときには、ちょっとその情報から一歩ひいて、改めて先程ご紹介した「go.jp」「ac.jp」を入れて検索し直すなどしてから、ゆっくり考えてみるといいかもしれません。

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