Barron’s : The Sharp Rise In Volatility And Margin Requirements Could Hit Retail Investors.
今週のバロンズ誌は、ゲームストップに象徴される個人投資家の”反乱”を取り上げる。ゲーム販売のゲームストップの店舗は、新型コロナウイルス感染拡大もあって2019年以降、約1,000店も閉鎖の憂き目に遭ってきた。しかし、個人投資家の買いが殺到するなか足元3週間で米株市場の注目株となり、ゲームストップの株価は年初来で1,600%も急騰。ヘッジファンドのショート・スクイーズを誘い、ホワイトハウスや米連邦準備制度理事会(FRB)が言及を余儀なくされるほどだ。
ゲームストップ株急騰の陰には、オンライン掲示板レディットで人気のコミュニティ”ウォールストリートベッツ”が存在し、コミュニティ参加者はは「我々個人投資家を馬鹿にするヘッジファンドとの主導権争いだ!」と豪語する。果たして、個人投資家が仕掛けた争いはどのような決着を迎えるのか。詳細は、本誌をご覧下さい。
当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週はこちらも個人投資家の動きに焦点を当てます。抄訳は、以下の通り。
個人投資家にとって、ボラティリティの上昇は警鐘に―For Small Investors, the Surge in Volatility Is a Warning Sign.
個人投資家が徒党を組み、個別銘柄への買いを集中させヘッジファンドのショート・スクイーズを招く動きは”ウォール街を占拠せよ!2.0”と喧伝されているが、ジェフリーズのエコノミストによれば、2020年12月に成立した追加経済対策が一部下支えしているのだろう。同社のアネタ・マルコウスカ氏とトーマス・シモンズ氏によれば、1月には1,600億ドル相当が支給されたのだから。ルーソールド・グループのダグ・ラムジー最高投資責任者(CIO)は「景気刺激の小切手と一部閉鎖が個人投資家の取引を煽ったに違いない。仕事していなければ、内なる悪魔が遊び場を求めるものだ」と指摘する。
個人投資家の寄り引きで急騰した一部の銘柄に、機関投資家は完全に乗り遅れてしまった。29日にゲームストップ1株に対し335ドル、1,675万ドルの大口取引が確認されたが、手数料無料の個人投資家のオーダーではなかったはずだ。
25日週にショート・ポジションが溜まっていた個別銘柄が急騰した半面、主要株価指数は2020年10月以来の落ち込みをみせた。ショート・ポジションが大きい上位100銘柄が25日週に22.6%高、年初来で70.1%高を遂げた一方で、25日週にダウやS&P500、ナスダックは3.3%安、3.5%安となり、年初来では1.1~2%安を迎えた。
何より、25日週はボラティリティが復活した。VIX指数は33と、2020年10月以来の水準へ急伸。投資家は、バリュー・アット・リスクをにらみレバレッジを効かせたポートフォリオから撤退せざるを得なくなる。
個人投資家にとって、ボラティリティの上昇は警鐘と捉えられよう。弱気派のソシエテ・ジェネラルのアルバート・エドワーズ氏は、レポートで「個人投資家がレバレッジ取引のポジションを拡大させるとき、それはバブル崩壊の予兆である」と指摘。その上で「怒れるミレニアル世代の個人投資家戦士が、市場の急落を受け白旗を上げる」可能性を見込む。
ワシントンの反応はというと、興味深いことに両極端の政治家が個人投資家の権利を守るために立ち上がった。一人は急進左派とされるプログレッシブのアレクサンドリア・オカシオ―コルテス下院議員(NY州)、もう1人は保守派のテッド・クルーズ上院議員(テキサス州)で、機関投資家の売買を放置しながら、個人投資家に対して取引制限を講じていると批判したものだ(ただしオカシオ―コルテス氏は保守派との団結を拒否)。
J.P.モルガンのグローバル・クオンティテーティブ・アンド・デリバティブのストラテジー・チーム率いるニコラス・パニギルゾグロウ氏によれば、問題は個人投資家が市場に深く食い込んでいることではない。むしろ25日週の米株相場が急落したのは「小型株のショートカバーやヘッジファンドによる損失回避の動きではなく、20年11月以降の米株ラリーを支えた個人投資家の取引減少だ」と説く。個人投資家は、過去数週間の米株高を謳歌してきたが「急激なボラティリティの上昇によりポジションに含み損が生じ、追加証拠金を差し出す必要に迫られてしまう」ためだ。
チャート:ゲームストップ株価とVIX指数

小型株の投機的な取引が終わるわけではなない。ルーソールド・グループのラムジー氏によれば、出来高と陶酔状態のセンチメントはピークを迎えるまでに数ヵ月続くものだ。バブルというものは、長続きする傾向がある。
――ロビンフッドを始め、ゲームストップをめぐる米議会の動きを振り返りましょう。オカシオ―コルテス氏と同じく2018年に初当選しThe Squadの一角で、且つ米下院金融サービス委員会委員であるラシーダ・トレイブ氏(ミシガン州)は、ロビンフッドによる取引停止を「ヘッジファンドを保護するもので、市場操作だ」と激しく非難し、公聴会を求めます。米下院金融サービス委員会のマキシーン・ウォーターズ委員長(カリフォルニア州)はこうした批判を受け、ゲームストップ株を動きとその影響を広範にわたって精査すべく、公聴会を開催すると宣言しました。
上院では、エリザベス・ウォーレン議員(マサチューセッツ州)が「ヘッジファンドなどの大口、小口の投資家を問わず株式市場をカジノのように扱っている」と抗議し、米証券取引委員会(SEC)に是正を求めました。保守派のテッド・クルーズ議員のロビンフッドへの批判は、前述の通り。米上院銀行委員会の委員長に就任予定のシェロッド・ブラウン氏(民主、オハイオ州)は、下院と足並みをそろえ公聴会の開催予定を表明しています。
現時点では個人投資家が売買する権利を重視する姿勢もみられますが、問題はウォーターズ下院金融サービス委員会委員長が指摘するようにゲーミフィケーション 、つまりオンライン掲示板レディットでの個人投資家を一致団結させ個別銘柄の買いを主導した扇動家と、彼らに対する扱いです。ウォーレン上院議員も「ゲームズマンシップ(反則ギリギリのプレイ)」と、苦言を呈していました。
空売り規制や個人投資家による個別銘柄の買いは、エリートとの対立を煽ったとの観点でトランプ前大統領と結び付ける報道もあります。
民主党が過半数を握る米上下院は、ロビンフッドのビジネス(取引制限措置や機関投資家への顧客情報提供サービスなど)や空売り・オプション取引を超え、SNSでの金融情報取り扱いに規制強化の網を広げるならば、その影響は中間選挙に及びうる。さらに発展し、金融取引税やキャピタルゲイン税引き上げにつながれば、米株市場の失速につながりかねません。
(カバー写真:Michael Fleshman/Flickr)
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