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コロナ禍で患者が半減した病院の実態を医者が自ら解説してみた。 - 蓮池林太郎(医師)

令和3年の年明け、2度目の緊急事態宣言が発令されました。飲食業や旅行・観光業がコロナ禍で大きなダメージを受けていることは多くの人が知っているかと思いますが、病院もまた深刻な状況です。

昨年の緊急事態宣言後には全国の病院の6割が赤字と報じられ(※1)、東京女子医科大学病院では夏のボーナスがゼロと公表されたことで400人の医師や看護師、スタッフが退職の意向を示すなど(※2)、その影響は甚大です。

医師である筆者が経営するクリニックも、患者数が例年の5割となり、極めて厳しい経営状況となっています。そこで診療所や病院の収益構造を説明し、中小病院はクラスター発生によってどれくらい打撃を受けるのかについて解説したいと思います。

※1 「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査(追加報告)」日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会 2020/06/05
※2 後に撤回、一か月分の支給を決定。

■コロナ禍における当クリニックの現状


筆者が開業しているクリニックは新宿西口の高層ビルが立ち並ぶオフィス街にあります。2020年4月の1回目の緊急事態宣言で近隣のオフィスはその多くがリモートワークになり、患者数は従来の4割ほどと急減しました。

緊急事態宣言が解除され、秋頃には前年比で8割位まで回復しつつあったものの、11月・12月とコロナ患者が増えるにつれ来院数は減少。2021年1月に2回目の緊急事態宣言が発令されると、患者数は前年比で5割ほどと再度急減し経営的には苦しい状況が続いています。

■オフィス街のクリニックは壊滅状態


もちろん、経営状況が厳しいのは当クリニックだけではありません。都市部にあるオフィス街のクリニックを中心に壊滅状態となっており、医療崩壊ならぬ「医院崩壊」を起こしつつあります。

要因は大きく分けて以下2つです。

・リモートワークにより都市部で働く人が激減
・風邪をひかなくなった

緊急事態宣言によるリモートワークが強く推奨されたことから、オフィス街に人がいなくなり、売り上げが見込めない飲食店等も休業する……。このような負のスパイラルで、都市部で働く人が激減し、玉突き事故のようにオフィス街のクリニックの患者も激減している状況です。

加えてコロナ対策でマスクや手洗い等の徹底により、インフルエンザだけでなく風邪の原因となるウイルスや細菌による感染症も減りました。インフルエンザ患者が例年と比べて激減している、といったニュースを目にした人も多いと思います。特に風邪を診療する内科、耳鼻咽喉科、小児科などは影響が大きい状況です。病気になる人が減るのは言うまでもなく良い事ですが、病院経営にとってはマイナスであることは間違いありません。

上記以外にも、密になりやすいクリニックには行きたくない、といった事情もあるでしょう。

■診療所はどれくらい赤字になっているのか?


冒頭で6割の病院が赤字になっているという調査データを示しましたが、より詳しい実態を見てみたいと思います。

一般的な診療所(医師1名、看護師2名、事務2名)の経営における収支を考えてみましょう。

医業収入が5000万円、医師の人件費2000万円、看護師と事務の人件費が1500万円、家賃・その他が1000万円として、500万円の黒字であったとします。

新型コロナウイルス流行の影響により、仮に患者が3割減少し、売上が7割になったとすると、医業収入が3500万円で他のコストが同じであれば、1000万円の赤字です。つまり来院数が7割に減るだけで500万円の黒字が1000万円の赤字になってしまうわけです。

■病院は診療所よりも設備投資が重い


診療所よりも規模の大きな病院の収支はどうなるのでしょうか?

診療所よりも規模が大きく入院設備もあるため、中小病院では医業収入が数十倍以上あります。その分、人件費や家賃が大きくなるだけでなく医療機器や病床などに設備投資をしています。

仮に人件費は雇用調整助成金により負担が軽減したとしても、設備投資が重くのしかかります。

■中小病院は家族経営?


中小病院が新型コロナウイルス患者を受け入れないという批判も一部でありました。

病院や診療所などの医療機関を公立・公的病院、民間大病院、民間中小病院、開業医が運営しているクリニック(診療所)に分けるとします。公立・公的病院は大病院であれ中小病院であれ、赤字になっても国や自治体が補填してくれます。

大病院は、中小病院よりも重症な患者を受け入れていますので、医療機器も充実しているだけでなく、医師や看護師などの医療従事者も手厚く配置されているため、診療報酬も高く設定されています。

同じベッド数の病棟であっても、大病院と中小病院では、配置される医師や看護師の人数、支払われる金額が大きく異なります。

元々資金力もあり人手がある民間大病院であれば、どうにか乗り越えることができるとしても、民間中小病院が乗り越えることができるとは限りません。

しかも、民間中小病院は、中小企業と同じように家族経営をしていることが多く、オーナーである病院長は銀行からの借入れを個人保証しているケースも少なくありません。病院を開くためにも数十億円の開業費用がかかるためです。

そして、中小の病院が最も恐れているものがクラスターの発生です。一度クラスターが発生すると病院がつぶれてしまうほどのダメージが発生しかねません。これは次回の記事で説明したいと思います。

【関連記事】
■著書『新型コロナを乗り越える』

蓮池 林太郎
セルバ出版
2020-05-28


■間違いだらけの病院選び:大病院の名医の選び方
https://www.hasuikerintaro.com/choice/index02
■新型コロナはいつ収束するのか? (蓮池林太郎 医師)
http://sharescafe.net/57615181-20210120.html
■新型コロナが収束しても、オンライン診療は普及し続けるのか? (蓮池林太郎 医師)
http://sharescafe.net/56892330-20200622.html
■景気も感染症と同様、放置すると加速度的に悪化する (塚崎公義 経済評論家)
http://sharescafe.net/56756705-20200515.html


蓮池林太郎 医師・新宿駅前クリニック院長

【プロフィール】
1981年生まれ。医師、作家。帝京大学医学部卒業。病院勤務を経て、2009年新宿駅前クリニックを開設。医療法人社団SEC理事長、新宿駅前クリニック院長。医者としてのキャリアとインターネット分野の知識を掛け合わせ、ホームページ、ウェブメディア、書籍などを通じて、クリニック開業、病院選び、生き方、婚活など独自の視点から情報発信を行っている。

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