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人工衛星から遺跡を探す『宇宙考古学の冒険』

イタリアやフランスで、畑に模様を見かけたら、そこに遺跡がある可能性が高い。


かつて、そこには石壁や住居の基礎があった。そうした構造物は、長い時間をかけてゆっくり土に埋もれてゆく。

地表に牧草などが根付いた場合、その根は深く伸びることができない。そのため、牧草の生育が悪くなり、上空から見ると、奇妙な模様が浮かび上がる(考古学で、クロップマークと呼ぶ)。


クロップマークは、航空写真で確認できる。

だが、もっと微妙な、植生の健康状態の違いは、近赤外線データから読み取ることになる。人の目には同じに見えるが、近赤外線画像だと、クロロフィル(葉緑素)の違いは、赤色の違いによって判別できるからだ。

宇宙から遺跡を探す

この発想を広げて、人工衛星から撮影した画像データを元に、地下に眠る遺跡を探すのが、宇宙考古学になる。

単なる解像度の高い写真ではない。地上 640km から撮影された電磁気スペクトルデータを解析し、肉眼では見えない地下の遺構を浮かび上がらせる。

宇宙からだと、植生の違いだけでなく、地下を直接探すこともできる。

たとえば、「ヒートアイランド現象」の応用だ。これは、コンクリートが昼間の熱を吸収し、夜に放熱する現象で、結果、郊外に比べると都心部は高温になる。人工衛星から熱赤外イメージングした場合、夏の夜の都心は光り輝いて見えるという。

では、都心ではなく、砂漠や草原はどうか。地上に建物がないにもかかわらず、夜間、熱赤外イメージングで明るい場所があったとしよう。この場合、地下にコンクリート構造物がある可能性が高い。

『宇宙考古学の冒険』の著者サラ・パーカックは、こうした手がかりを元に、地下の遺跡を探し出すニュータイプの考古学者だ。宇宙から探すことで、これまでに、古代都市3,000ヶ所、古墳1,000ヶ所、ピラミッド17ヶ所の痕跡を見つけ出している(※1)。これは、従来通りのやり方だと、一人の考古学者のキャリアで発見できる数ではない。

さらに、映画『レイダース・失われたアーク』に出てくる幻の古代都市タニスを特定している。タニスの路地や居住区の大部分は発掘されておらず、地上から見ることはできない。だが、人工衛星の赤外線画像により、大規模な構造が明らかにされたのだ。

宇宙考古学のメリット

宇宙から探すことのメリットは莫大だ。

たとえば本書では、ニューファンドランド島の磁気調査について、地上探査と人工衛星画像を比較している。

まず、地上探査の場合、ざっと見積もると、100日かかるという。

その調査も、遺跡が平らで、邪魔な植生がなく、優秀なスタッフが雇えて、現地で体調を崩すことなく、資材や装置の輸送がスムーズにいき、機器が故障することなく働いた場合になる。機器、資材、飛行機代と国内旅費、ホテル代、食費もろもろ20万ドルかかる。

これが人工衛星画像だと、2,000ドルで済む。

そして、およそ60時間で地上探査と同じ結果が得られる。地上探査の磁力計データの方が多少細かい部分までとらえられるが、スピードとコストを合わせると、宇宙からの調査が、圧倒する。

もちろん、現地に出向いて、実際に発掘する調査が必要となる。だが、そこに「あるかもしれない」可能性を何年もかけて探していた調査が、そこに「ある」ものを対象とした仮説検証型になるのは大きい。

限られた予算と期間の中で一定の成果を上げる必要がある。掘ってみて「ありませんでした」では次の予算確保も厳しいだろう。だから、膨大なデータから「ある」という目星をつけられる宇宙考古学のメリットは計り知れない。

リモートセンシング技術「LIDAR」

離れたところから、掘る前に、光学技術によって対象を把握する。

LIDAR(LIght Detection And Ranging)と呼ばれるリモートセンシングによって、莫大な数の遺跡が続々と見つかっている。人工衛星やドローン、航空機に搭載することで、何十年もかけてきた広大な面積のマッピング調査が、ほんの数週間で終わるのだ。

考古学のビッグデータとも言えるのは、アマゾン川流域の遺跡になる。LIDAR によって、先コロンブス期の遺跡を81ヶ所発見している。推測によれば、アマゾン川流域全体で、18,000ヶ所の遺跡が未発見で、100万人以上が暮らしていたと想定されている(※2)。


リモートセンシングは地上だけではない。LIDAR は、水中に沈んだ物体を探索することにも役立つ。

原理はこうだ。水没した物体の上を流れる海流の動きによって、砂や泥が海面へ持ち上げられている。だから、人工衛星画像で、そうした堆積物の上昇現象を探せばよい。

現在は、ドーバー海峡を中心に沈没船の探索にこの技術が用いられている(※3)。だが、船だけでなく、地震や海面上昇によって海に沈んだ遺跡を探し出すことにも応用できる。この分野は水中考古学として研究されており、クレオパトラ宮殿からタイタニック号の探査といった成果を上げている(※4)。

掘らない考古学

こうしたリモートセンシング技術を受け、本書では、未来の考古学を「掘らない考古学」だと描いている。

LIDARや熱赤外センサーを搭載したドローンを飛ばし、遺跡を特定する。たとえ掘る段階になったとしても、鉛筆ほどの大きさのプローブ(探針)を地下数メートルに打ち込み、そこから超音波を発することで、地下の構造物を三次元化する。

必要な場所を絞り込み、そこへ小さな穴を穿ち、文字通りピンポイントで探索する。喩えるならば、腹腔鏡下手術のようなものかもしれない。

また、発掘した古文書も、開いたり触れたりすることなく、外側からスキャニングすることで、中身を調べる技術が開発されている。

たとえば、イタリアのヘルクラネウム遺跡で見つかった巻物がある。西暦79年のベスビオ火山の噴火によって焼かれ、炭化状態となっている。非常にもろいため、開いて読むことはできない。

だが、位相差X線イメージングを使うことで、巻物に触れずに中身を読む研究が進められている(現在は実証実験段階とのこと※5)。

この、「開かずに本を読む技術」でピンときた方もいるかもしれないが、J.P.ホーガン『星を継ぐもの』につながってくる。SFオールタイム・ベストとして有名で、ミステリとしても超一級の傑作小説だ。

月面で発見された5万年以上前の<人類>の死体と、その傍らにあった手帳―――経年により手帳は崩れかけており、開いて読むことはできない。そのため、触れずに中身を読む技術を持つエンジニアが呼ばれる―――そんな導入部だった(はず)。

もし、『星を継ぐもの』に、LIDARがあったなら……きっと序盤でラストの謎が解き明かされたに違いない、とワクワクする。いま、わたしたちが地球を調べている技術は、近い将来、月や火星といった惑星を、「離れたところから」「掘らずに」調べることに役に立つだろう。

考古学というと、何年もかけて、地道に発掘するイメージだった。だが、本書を読んで覆された。最先端の技術どころか、SFまで突き抜けた未来が見える。


※1 人工衛星によってなされた4つの考古学的発見
http://karapaia.com/archives/52241203.html

※2 Jonas Gregorio de Souza “Pre-Columbian earth-builders settled along the entire southern rim of the Amazon”
https://www.nature.com/articles/s41467-018-03510-7

※3 Satellites and shipwrecks: Landsat satellite spots foundered ships in coastal waters
https://phys.org/news/2016-03-satellites-shipwrecks-landsat-satellite-foundered.html

※4 『水中考古学』井上たかひこ(中公新書)

※5 Revealing letters in rolled Herculaneum papyri by X-ray phase-contrast imaging
https://www.nature.com/articles/ncomms6895

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