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BLACKPINKが乗り越えた“壁” 「アイドル」と「女性アーティスト」の2つに向けられた偏見 - 金 成玟

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2NE1の「I AM THE BEST」

 そのなかでもとくに大きな「影響力」を発揮したのは、YGエンターテインメントの4人組グループ2NE1だった。代表曲「I AM THE BEST」のヒップホップベースの強烈なサウンドと「私こそ最高」と主張するその大胆な表現で、彼女たちは一気に「ガールクラッシュ」(女性を熱狂させる女性)の象徴として浮上した。マイクロソフトの「Surface Pro3」CMをはじめ、多くの国のマスメディアは、「現地化」されていない韓国語歌詞の「I AM THE BEST」を流した。

https://www.youtube.com/watch?v=j7_lSP8Vc3o

 彼女たちの「強い女性像」は、「なぜ世界中の若者がK-POPに熱狂するのか」という欧米メインストリームの疑問に対するひとつの答えでもあった。2NE1が2014年のアルバム『CRUSH』で記録した「Billboard200」(アルバムチャート)の61位は、当時としては男女を問わずK-POPアーティストが成し遂げたもっとも高い順位だった。

 2012年にビルボードの「HOT 100」(シングルチャート)の2位を記録したPSYの「江南スタイル」が、デジタル化したグローバルな音楽市場におけるK-POPの「商業性」の力を確認させる現象だったとするならば、2NE1が表現する「強い女性」としてのサウンドとイメージ、メッセージが成し遂げた成果は、時代の変化に積極的に向き合うK-POPの(かつて「ロック」がそうだったように)「政治性」をも同時に発見させるものに他ならなかった。

 当時は、ちょうど世界の音楽業界においても、女性アーティストの音楽的・社会的影響力が拡大し、音楽産業のあり方を大きく変えた時期でもあった。その代表的なアーティストがレディー・ガガ。2008年にファーストアルバム『The Fame』を発表して以来、全ての音楽チャートと音楽賞を席巻しながら音楽的・商業的成功を収めていった彼女は、2010年代に入ると社会的にも世界にもっとも大きな「影響力」を持つアーティストとして浮上した。

 レディー・ガガの影響力をより社会的なものに媒介したのは、YouTubeやTwitterなどのソーシャルメディアだった。グラミー賞のポップ全部門を受賞するほどの音楽的才能とともに披露する常識を破壊する実験的ファッションとパフォーマンスを通じて、彼女は「女性」のフレームそのものをも破壊しながら、ジェンダーの差異による不平等や差別に反対する強いメッセージを発し続けた。そのメッセージは、ソーシャルメディアを通じてグローバルに拡散し、「ガガ・フェミニズム」と称されるほどの力を発揮した。

 つまり2010年代前半の、2NE1をはじめとするK-POPガールグループの「ガールクラッシュ」は、時代が求める感覚とリンクするものだった。それは当時のさまざまな記録が物語っている。例えば、アメリカの代表的な音楽雑誌のひとつ『SPIN』は、「2011年のベスト・ポップ・アルバム20(SPIN’s 20 Best Pop Albums of 2011)」で、2NE1の『2nd Mini Album』を6位に、少女時代の『Girls’ Generation』を18位に上げた。1位はレディー・ガガの『Born This Way』だった。このような女性アーティストたちの影響力は、その後2010年代全体の音楽的・社会的変化と絡みながらより急速に拡大していった。

プロデューサーTeddyの存在

「アイドル」と「女性アーティスト」という偏見を乗り越えたBLACKPINKの影響力は、このようなローカル・グローバルな系譜のうえでより鮮明に見える。実際、その音楽の内側と外側はさまざまなかたちでつながっている。その代表的な存在は、YGエンターテインメントのメイン・プロデューサーTeddy(テディ・パク)。BLACKPINKは、彼女たちの全ヒット曲を手がけたTeddyの音楽を通じて、2NE1とつながっている。「I AM THE BEST」をはじめ、2NE1の多くの代表曲も彼の作品。

 Teddyは、1998年、4人組ヒップホップ・グループ「1TYM」のメンバーとして韓国でデビューしたアメリカ移民1.5世のミュージシャンである。90年代からヒップホップのサウンドやラップを主な表現様式として積極的に取り入れていくなかで、Teddyのように移民や留学を経験したミュージシャンたちの「アメリカ」をめぐる認識と感情は、K-POPの音楽的スタイルや感受性に大きな影響を与えた。

 そこには、アジア人に対する偏見や差別も含まれる。つまり、アメリカの音楽産業への単純な憧れではなく、同時代的かつリアルな「アメリカ」がつねに意識されてきたのである。「FANTASTIC BABY」「LOSER」「BANG BANG BANG」などを手がけ、「ヒップホップ」を掲げたグループBIGBANGを世界的な「アイドル」に育て上げたTeddyは、自ら「アジア人」と「アイドル」への偏見両方を経験し、乗り越えてきた人物でもある。

https://www.youtube.com/watch?v=wgwMzdNneyI 

 そういう意味で、レディー・ガガが2020年に発表した6枚目のアルバム『Chromatica』の収録曲「Sour Candy」は興味深い。BLACKPINKが韓国語の歌詞でレディー・ガガとコラボし、Teddyが共同プロデューサーとして参加したこの曲は、さまざまな偏見と向き合いながら音楽的・社会的影響力を拡大してきたアーティストたちの経験と感覚が時代を超えてどのようにつながっているのかを、「POP」そのものを通じて劇的に表しているようにみえるからだ。

(金 成玟)

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