「なんでこの高校が選ばれて、この高校は選ばれないんだ?」
1月29日、今春3月に甲子園球場で開催される第93回選抜高校野球大会(センバツ)の出場校32校が発表された。
センバツ出場校は前年の秋季大会結果を材料に選考されるのだが、毎年野球関係者やファンの間で異論が噴出する。地区ごとの「最後の1枠」を巡っては、出場校発表前からメディアやファンの間で予想合戦が展開される。とくに関東・東京地区の6枠目、近畿地区の5~6枠目、中国・四国地区の5枠目、21世紀枠の3枠(今大会は4枠に増枠)は、選考結果を受けて批判を浴びやすい。
ただし、重大な前提として見落としてはならないのは、センバツは純正な「全国大会」ではないことだ。
この大会は選考委員が出場校を選ぶ大会であり、いわば全国規模の「招待試合」と見たほうがいい。春のセンバツは招待試合、夏の選手権(全国高校野球選手権大会)は日本一決定トーナメントと考えるといいかもしれない。
たとえ異論があろうとも選考委員の決定が絶対であり、そういう大会なのだ。センバツの選考結果への異議は、推薦入試の合否に口を挟むようなものだろう。
甲子園球場 ©iStock.com
「日大三より東海大相模に分がある」に感じる疑問
ただ1点、納得がいかない部分がある。出場校が発表される際、各地区の選考委員長が選考理由を読み上げる。そこで、同じ土俵に立っていないチーム同士を比較して「A校よりB校のほうが優れていると判断した」などと勝手に評価する点だ。
今回は関東・東京地区の6枠目を関東大会ベスト8の東海大相模(神奈川)と東京大会準優勝の日大三(東京)が争った末、東海大相模が出場校に選ばれた。関東・東京地区の選考委員長は、その理由をこう述べている。
「東海大甲府(山梨)にサヨナラ負けを喫した東海大相模ですが、1年の夏から甲子園を経験している石田(隼都)投手の粘り強い投球は健在でした。また、石橋(栃木)戦では3連続バント安打を決めるなど、相手のスキを突く攻撃を展開。5季連続神奈川を制した試合巧者ぶりをのぞかせました。
一方の日大三は、打線が大会の終盤になり精彩を欠き、準決勝では7回までノーヒット。決勝も8番打者の2安打と沈黙。左腕投手の変化球を打ちあぐみ、2試合連続9三振と打力不足を露呈しました。投手力をはじめ、総合力で東海大相模に分があるとの意見でまとまりました」
もっともらしく聞こえるかもしれないが、両校は同じ大会には出場しておらず、公式戦で直接対決しているわけでもない。また、激戦の東京大会で決勝まで勝ち上がった日大三を称賛することもなく、打線の力量不足を指摘するだけと配慮に欠けている。
しこりの残らない選考発表、どうすれば?
戦ってもいないチーム同士の優劣を机の上で議論するくらいなら、いっそのこと当事者同士で実際に試合をしたほうがフェアだろう。
本質的には「招待試合」なのに選考内容にしこりが残る理由は、当落線上のチームの「優劣」を決めようとするからではないか。「総合力で東海大相模に分がある」などと発表せず、「主催者が甲子園に呼びたいから選んだ」でいい。出場校をチーム力の優劣で決めるなら選抜大会である必然性はなくなり、21世紀枠の存在とも矛盾するはずだ。
大会要項には、「出場校選考基準」として下記の5項目が挙げられている。
〈(1)大会開催年度高校野球大会参加者資格規定に適合したもの。〉
〈(2)日本学生野球憲章の精神に違反しないもの。〉
〈(3)校風、品位、技能とも高校野球にふさわしいもので、各都道府県高校野球連盟から推薦された候補校の中から地域的な面も加味して選出する。〉
〈(4)技能についてはその年度全国高等学校野球選手権大会終了後より11月30日までの試合成績ならびに実力などを勘案するが、勝敗のみにこだわらずその試合内容などを参考とする。〉
〈(5)本大会はあくまで予選をもたないことを特色する。従って秋の地区大会は一つの参考資料であって本大会の予選ではない。〉
こうして読むと、前年秋の勝敗がすべてではないと強調するような文言が散見される。だからこそ、なおさら選考時の「どちらが上か?」という議論は不毛に思える。
今回、選考が荒れる可能性があった近畿地区、中国・四国地区、21世紀枠については、選考理由を発表する際に落選したチームについて詳細に言及することはなかった。それが本来のあるべき姿ではないだろうか。
選出された32校は、すべて選考委員が自信を持って推薦するチームであり、甲子園でどのような戦いぶりを見せてくれるのか楽しみだ。選考材料になった秋季大会からセンバツ本番まで約4カ月ものインターバルがあり、まるで別のチームのように急成長するチームもあるだろう。選考時は当落線上だったのに、大会では優勝争いに絡むチームが出現することも珍しくない。
センバツにはセンバツの楽しみがある。今後の大会では、しこりの残らない選考発表になることを祈りたい。
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(菊地選手)