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「公助しない」政治家は税金泥棒(下) 「引き際」について 最終回

写真:財務大臣 麻生太郎氏 出典:Ng Han Guan-Pool/Getty Images

林信吾(作家・ジャーナリスト)

【まとめ】

・ポストにより「国債」への発言立場を転向した麻生氏。

・現在のような「国難」に際しては財政よりも公助を優先すべき。

・同じ過ちを繰り返す政治家は、存在そのものが害悪と言われても仕方ない。

「あなたのために、ご子孫の借金を増やして行くということなのか、と言ったらどうか」

生活に困窮し、政府に助け(具体的には給付金)を求めている人たちに、なんと答えるつもりかと問われた際の、麻生太郎・財務大臣の答えがこれであった。

安倍政権時代に国民一人当たり10万円の給付金を配り、それを含めて107兆円の財政出動がなされ、当人はこれを、「世界的にも例のない支援策」などと自画自賛していた。

総人口で日本の半分程度のドイツが、日本より半年も早く、日本円にして70兆円を超す経済対策を行っていたことや、日本でアベノマスクが配布されていたのとほぼ同時期に、米国トランプ政権は国民一人あたり1000ドルの給付金を拠出済みであったことを知らなかったのだろうか。

前首相はこの際ひとまず置いておくが、麻生財務大臣の発言の趣旨は、これ以上国の借金を増やすと財政が破綻する恐れがある、ということのようだ。つまり彼は、財務官僚の多数派や、財務省べったりの主流派エコノミストと同様、「日本の財政は危機的状況にあり、このままでは破綻する」という、財政破綻論者だったのであろうか。とんでもない。

内閣総理大臣だった当時、具体的には2008年9月から翌09年9月までのちょうど1年間だったが、その在任期間中に、不況(世にいうリーマンショックの時期であった)対策として1人1万2000円、18歳以下と65歳以上には2万円の定額給付金を支給した。これとて「国の借金」であるはずだが、彼はこうのたまったのである。「国の借金が増えると(国債の)金利が上がって財政が破綻すると財務省は言っているけど、金利はむしろ下がっている。おかしいと思わないほうがおかしい」

こんなことも言っていた。「(国債発行残高)は、国の借金ではなく政府の借金。貸しているのは皆さん(国民)。だから、今すぐ返せと言われたら(紙幣を)刷って返せばいい」お分かりだろうか。自分が政権担当者だった時には、国債の大部分が国内で購入・償還されている以上、すぐに財政破綻などするはずがない、という立場をとっていたのだ。

その後2009年の総選挙で敗れて自民党は野党となり、民主党政権を経て2012年に政権を奪還、第二次安倍内閣の誕生となるわけだが、この過程で麻生氏は、財務官僚の多数派=財政破綻論者にすっかり取り込まれてしまっていた。

詳細と言うか、具体的な経緯まではよく分からないのだが、財政規律より、むしろ市場に大量の通貨を流し込んでインフレを惹起し、デフレから脱却しようという政策(=アベノミクス)を標榜する政権の登場に、財政健全化を金科玉条とする財務官僚の多数派は危機感を抱いたに違いない。

そこで、元首相として自民党内で影響力を保っていた麻生氏を財務大臣の地位につけることを通じて、かねてからの懸案だった消費税の増税だけは何とか実現しようという、いわば「名を捨てて実を取る」戦略をとったのではないか。

その前提で考えれば、麻生大臣の「転向」も分かりやすい話になってくる。本当のところ彼には、経済政策に関する定見と呼べるようなものはなく、人気取りに役立つと見れば財務省を非難しつつ給付金を出すが、副総理兼財務大臣のポストをちらつかされたら、あっさり財務官僚べったりへと寝返るーーそのレベルの政治家だったということだろう。

冒頭の発言は当然ながら炎上したが、いわゆるネット世論の常として、

「今日明日の生活に困っている人が、ご子孫の借金の心配などすると思うのか」といったレベルの、感情的な意見が多い。

感情的になるのも無理はないと思えるが、やはりメディアで働く者はいま少し冷静でなけらばならない。麻生発言のどこがおかしいのかを検証してみよう。

▲写真 日本銀行 出典:Carl Court/Getty Images

まず国債の発行残高は、一度は彼が正しく指摘した通り(苦笑)、国の借金と決めつけるべきではない。たしかに世界には借金で首が回らなくなったような国がいくつもあるが、それらはすべて、外国の投資マネーに国債をゆだねた国である。

この点わが国では、前述のように国債の半分を日銀が引き受けているので、言い換えれば「半分はすでに返済済み」なのである。

もちろん、半分は半分に過ぎないので、いくら国債を発行しまくろうが、我が国の財政は千代に八千代に安泰だというわけには行かない。現実問題として国債の利払いは国家予算の8%を超えようとしているし、日銀引き受け以外の半分のさらに半分、およそ25%は海外の投資マネーの手中にある。

そうではあるのだけれど、現在のような「国難」に際して、100兆円規模の財政出動を行ったところで、すぐにわが国の財政がどうこうなるわけでもないし、次世代に甚大な影響を及ぼすとも考えにくい。

ここはあえて借金という表現にこだわって話を進めるが、国債の発行残高と言うものは、個人や法人の借金(ローンや融資)と違って、返済期限が定められたものではない。しかも、近い将来に返済困難な状況になりそうな場合には、必ず金利が上昇する(高金利を約束しなければ国債が買われなくなる)から、その時点で緊縮財政に切り替える余地もあるのだ。

前回、麻生財務大臣と自民党の二階幹事長を「令和の二大老害」と呼ぶ傾向に対し、そういう問題ではないと思う、と述べた。まさしく、そういう問題ではないと、今こそご理解いただけたであろうか。

国の財政を預かる立場に全くふさわしくない人物が、官僚に担がれてその地位に就いた。それ以上でも以下でもないのである。

もちろん、彼一人の問題ではない。任命責任は前首相にあるし、自民党内の派閥力学のせいで思い切った人事の刷新もできない現首相も、責任なしとすることはできない。

リーマンショックの時期には、時の麻生内閣が給付金を配った、と述べた。しかしながら、いわゆる「派遣切り」には有効な手立てを打つことがなく、職も住居も失った人たちは、日比谷公園にテント村を作った。世にいう「年越し派遣村」であるが、この時も政権支持派たちは、「選ばなければ仕事はあるのだから自己責任だ」などとうそぶいていた。

あの時と同じ過ちを繰り返さんとするような政治家は、老害どころか存在そのものが害悪だと言われても仕方ないと私は考えるが、どうだろうか。

(このシリーズ了。その1その2その3その4

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