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「公助しない」政治家は税金泥棒(上) 「引き際」について その4

写真)新型コロナウイルス感染症対策本部での菅首相
出典)首相官邸Facebook

林信吾(作家・ジャーナリスト)

【まとめ】

・非正規雇用は全勤労者の五割に達する。

・菅首相の主張する「自助・共助・公助」は現実的でない。

・国民の貧窮に手を差し伸べない政治家は税金泥棒と言うべき。

最近なにかで読んだのだが、アニメ『クレヨンしんちゃん』の主人公一家は「勝ち組」と定義してよいそうだ。

アニメなど一度も見たことがない、という方は、お手数ながら検索をかけていただきたいが、しんちゃんこと野原しんのすけ君の一家は、埼玉県春日部市に一戸建てを所有しており、母親のみさえさんは専業主婦、そして子供二人とペットの犬、自家用車もある。これを35歳で維持している父親(野原ひろし氏)は、たしかに今の基準で言えば、なかなか立派だと評価できるのかも知れない。

原作は臼井儀人氏(故人)の漫画で、双葉社の『漫画アクション』で連載が始まったのは1990年。バブルが崩壊する以前であった。

賢明な読者は、私がなにを指摘せんとしているのか、すでにお察しであろう。

現実にあの当時マイホームを手に入れた層は、給与水準も資産価値も下がった中で、住宅ローンの金利だけは高いまま、というケースが多いのである。

もちろん別の見方も可能で、バブルの件をひとまず置いても、昭和の終わりから平成の初めにかけての当時にはまだ、35歳のエリートとは呼べないサラリーマンが、前述のような「中流」の生活を手に入れることも可能であった。漫画の中の野原家は、5歳になる長男の常軌を逸した言動を別とすれば(笑)、ごく平凡なサラリーマン家庭として描かれていたはずだ。今となっては現実味がないが、国民の90%が「自分は中流」と考えていた時代でもあった。

その野原家が「勝ち組」とまで言われるようになったのは、世にいう「中流」の崩壊、平均的な生活水準が落ち込んできたことの証左に他ならない。

バブルのような例外的な時期と比較する意味などあるのか、との指摘もあり得ようが、景気が回復してきた、株価や失業率を見れば一目瞭然だと言われながら、生活は少しも楽にならないと感じている人は多い。

これはデータの上からも明らかで、たとえば安倍前首相は、退陣を表明した記者会見において、自身の経済政策により、「400万人の雇用を新たに創出した」などと自画自賛した。問題はその中身で、今や非正規雇用は全勤労者の五割に達している。二人に一人は「正社員ではない立場」に甘んじているのだ。

たしかに新型コロナ禍が蔓延する以前、有効求人倍率は全国平均で1.5以上であったので「選ばなければ仕事はある」とも言い得たが、具体的にどのような「雇用が創出」されたのかと言えば、表向き「自営業者」の肩書を与えられつつ、その実は最低賃金や勤務時間の保障すらない、ゼロ時間契約の宅配ドライバー(Uber Eatsの配達員なども同様)、社会保険も雇用保険もない立場でワンオペ店舗を維持する「店長」、あるいは同じ仕事をしているのに社員食堂も使わせてもらえない「派遣スタッフ」が増えただけの話である。

その結果、国民の平均給与所得や貯蓄率など「実質的な豊かさ」を示す数値は、安倍前首相が「悪夢の政権」とまで言った、民主党政権当時と比べても低下してしまっている。

ただし、大企業にとっては、これは福音であった。

非正規雇用を増やすことで、まずは人件費を節約できるし、非正規の従業員に対しては社会保険関連の負担も生じないので、その大半は利益に転化される。かくして企業の内部留保は増えて株価は上がった。大株主など、人口比で言えば本当に微々たるものに過ぎない富裕層はますます豊かになって行く一方、地道に働くことしかできない大多数の層は、消費税はじめ税金やもろもろの保険料は上がるというのに保障は削られる一方、という生活を強いられてきた。

他にも多くの実例を挙げることができるが、結論はこうだ。

「安倍前首相の唱えたアベノミクスには構造的な欠陥があり、国民を豊かにすることなど。最初からできない相談であった」

この議論については、ちょうど『日本人の選択 特別編・安倍政権』(共著・電子版アドレナライズ)が配信開始となったばかりなので、できればご参照願いたい。

新型コロナ禍で経済が大ダメージを受けていながら、株価だけはむしろバブル期以来の高値を付けているというのも、この文脈で理解すれば、それほど難しい話ではなくなってくる。大企業ほど非正規雇用者を景気減速の際のバッファーとする、つまりは「派遣切り」「雇い止め」で体力を温存することができるからなのだ。

もちろんそれが全てではなく、別の深刻な問題も指摘しておかなくてはならない。歴史をひもとけば、このように実体経済をまるで反映しない株価の高騰は、決まって突然の大暴落から恐慌へと至る前兆だったのである。

話を戻して、安倍前首相から政権を引き継いだ菅首相も、経済政策は継承すると言い切り、新型コロナ禍を乗り切るために必要なのは「自助・共助・公助」だと主張している。

新型コロナ禍対策は必死でやっている。などと「ガースーのひとつ覚え」を繰り返すのみで、再度一律10万円の給付金を支給すべき、との声に対しては、「支給するつもりはない」と、これまた一点張り。困窮家庭に限定しての支給というアイデアに対しても答えはNOで、最終的には生活保護がある、と言い放つ始末だ。

写真)緊急事態宣言下で一時的に営業休止する飲食店
出典)Yuichi Yamazaki/Getty Images

ひとつ、データを示させていただこう。

自公政権が格差の拡大を放置してきた結果として、今や日本の子供(18歳未満)の7人に1人、ひとり親家庭においては2人に1人が、平均年収の半分以下で生活せねばならない相対的貧困の状態にある。

マクロで言えば、これは先進国=OECD(経済開発協力機構)加盟37カ国中で最悪レベルの数値であり、ミクロで見たならば、お金がなくて虫歯の治療もできないとか、日々の食事で栄養バランスがちゃんと取れたものは昼の学校給食だけなので、夏休み期間中は体重が減ってしまう、などという先進国にあるまじき状況が多数報告されている。

こういう家庭を持つ人は、多くが非正規雇用であり、今次の新型コロナ禍でもっとも大きな被害を受けている。コロナ失業・コロナ貧困などという表現で片付けてはいけない。

仕事がなくなったら、自助などありえようはずもないし、共助とて公的な支援がなければ、できることなど限られている。

さらに言えば、生活保護の申請や相談で窓口を訪れた人のうち、実際に支給を受けられるケースは7%を下回っている。不正受給のことばかり言う人が多いけれども、目を向けるべき問題は別のところにあるのではないか。

いずれにせよ、国民がこれほど苦しんでいるのに手を差し伸べることをしない政治家など、税金泥棒と呼ばれるべき存在であろう。財政が……ということを言う人もいるが、その代表格である麻生財務大臣については(下)で取り上げる。

(続く。その1その2その3

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