大学入試センター試験に変わって、今年から導入された「大学入試共通テスト」。それを受験した国際教育評論家の村田学さんは「日本教育のガンは国語だとわかった。国語の出題形式が変わらないと、思考力や表現力は育たない」と語る。国語試験で感じた問題点とは――。
共通テストをお試し受験
1月16日、筆者は受験生として、第一回大学入学共通テストの受験会場にいた。
現在47歳。過去にセンター試験を2回経験したことがある国際教育評論家として、国が進める大学入試改革の目玉である「共通テスト」をお試し受験してみようと思ったのだ。
ちなみに、試験中にマスクから鼻を出して失格になり、トイレに立てこもって逮捕された受験生(その後、釈放された)が私なのではと心配する友人が多数いたが、私ではない。試験中、ずっとマスクをしていると耳が痛くなって、ズラしたりしていたが、幸いに注意されることはなかった。
緊張感に包まれたコロナ禍の受験会場
私の受験会場は東京都立大学の南大沢キャンパス(八王子市)だった。当日、最寄りの南大沢駅から試験会場までの通路では、拡声器で「前の人と距離を空けて進んでください」という呼びかけがされていた。
正門前で受験生は、手を消毒し、さらに受験票チェックを受ける。その後、受験する教室へ向かうが、建物前で体温チェックと掲示されたコロナ対策を確認し、再度、教室前に置かれた消毒液で手指消毒を行った。

教室の前に置かれた消毒液 - 筆者撮影
筆者は大講義室で受験した。扉を開けると200人ほどの受験生の姿が目に入ったが、物音はない。会場を沈黙が覆い、咳をすることもはばかれる緊張感が張り詰めていた。
30年前に受けたセンター試験では、休憩時間など同級生や予備校の知り合いと話し、キャンパスで昼食を共にしたものだ。しかし、コロナ禍の共通テストは消毒、マスク着用、会話なし。トイレに行く時以外、自分の席にいることが受験者に課せられて、一日中、お葬式のような雰囲気だった。
知識がなくても解ける問題が増えていた
私はこの日、「地理A」「政治経済」「国語」「英語」の4科目をお試し受験した。
地理Aや政治経済では、論理的な思考力や読解力があれば、知識がなくても解ける問題が多かった。
たとえば、地理Aの問題ではタピオカミルクティーという身近な題材をきっかけに、「なぜ、世界中からさまざまなものが集まり、食べたり、飲んだりできるようになったか」が問われた。問題ではこのテーマの研究事例として不適切なものを選ぶ。選択肢は次のとおり。
1 原産地を表示する制度により、地域ブランドを明示したフランス産のチーズが安価に輸入されるようになった。
2 自由貿易協定の締結により、オーストラリア産の牛肉が低い関税で輸入されるようになった。
3 輸送技術の向上により、ニュージーランド産のカボチャが日本での生産の端境期に輸入されるようになった。
4 養殖技術の確立により、ノルウェー産サーモンを一年中輸入できるようになった。
答えは1で、原産地を表示する制度が、世界中から食べ物が輸入されることの直接的な理由ではないことがわかれば小学生でも解けそうだ。
政治経済では、不良債権処理と貸し渋りの関係を、「経済不況以前」→「経済不況」→「不良債権処理」時の銀行のバランスシート(貸借対照表)を見て考える問題が出題された。高校生がバランスシートを見たことはないかもしれないが、答えはすべて図の中に書かれている(問題1参照)。知識偏重と批判されてきた日本の大学入試を、思考力重視に変えようとする意思を感じる問題が多かった。

「政治・経済」で出題された問題例(出典:中日進学ナビ 2021年度大学入学共通テスト 問題・解答速報より)
まるで「ブラタモリ」。解くのが楽しかった
解いていて楽しかったのは、地理Aの第5問。
京都市に住むタロウさんが、京都府北部の宮津市の地質調査をする設定の問題。現在の地形図と江戸時代の絵図を比較したり、宮津湾と阿蘇海の間にある「天橋立(あまのはしだて)」の調査では、タロウさんの撮った写真が示され、地図上のどこから撮影したかを問うたり(問題2参照)。筆者が試験の前の週に見た「ブラタモリ」でまさに同じようなことをしていて、解きながら番組を見ているような楽しさを感じてしまった。

「地理A」で出題された問題例(出典:中日進学ナビ 2021年度大学入学共通テスト 問題・解答速報より)
文法・訳文中心から「実用英語」重視が鮮明
民間試験の活用が見送られ、何かと注目を浴びていた英語試験。「リーディング(80分)」「リスニング(60分)」に分かれていて、それぞれ比較的平易な英語ながら、文章量が多く、速読(速聴)能力が求められる内容になっていた。
これは大学入学後に、英語文献にあたって、レポートをまとめる能力があるかを問う内容。センター試験の文法や訳文中心の出題から、実用英語に大きく舵を切っている。長年、インターナショナルスクールの経営に携わり、海外の教育を見てきた筆者としては、非常に喜ばしい変化だと感じた。
おもしろかったはリーディングの英文として、学生同士のメッセージアプリのやりとりがあったり、イギリスの学校の生徒会長が、校長に放課後の活動時間の変更について抗議する文章があったこと。新しい校長によって、放課後の活動時間が6時から5時までと短くなった。それは電気代を節約するためではないかと問い、自分たちは放課後の活動を非常に大切に考えているので元に戻すように主張している。イギリスやアメリカの学校では、校長によるルール変更も、その根拠を問い、自分たちの権利主張をするのが当たり前だ。受験生に対してこうした文化を紹介する内容になっている点も、非常に良い問題だったと思う。