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「母はインド人の移民2世」カマラ・ハリス米副大統領が"黒人女性"と名乗るワケ

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米副大統領にカマラ・ハリス氏が就任した。インド人の母を持つ「初のアジア人女性副大統領」だが、強調されるのは「ジャマイカ出身で黒人の父」のほうだ。ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院講師で医師、柏木哲氏は「黒人と同様に、アジア人もマイノリティーだが世間の目は冷たい。背景には1965年以降の移民政策の変更で根付いたアジア人への固定観念がある」という――。

米副大統領のカマラ・ハリス氏=2021年1月20日
米副大統領のカマラ・ハリス氏=2021年1月20日 - 写真=AFP/時事通信フォト

次期副大統領カマラ・ハリスの出自と人種問題

2020年11月7日、「バイデン当確」のニュースが流れた翌日、ボストンのダウンタウンはどこからともなく集った人で祝福ムードに包まれた。次期副大統領となったカマラ・ハリスは、“Woman of color”としては初めての選出ということもあり、これに勇気付けられた非白人の参加者が多かった。

Queen“We Are The Champions”をアカペラで歌う。学生の街ボストンらしく若い層が多い
Queen“We Are The Champions”をアカペラで歌う。学生の街ボストンらしく若い層が多い - 筆者撮影

ハリスはジャマイカ人の父とインド人の母の間に生まれた。ジャマイカ人はほとんどがスペイン統治時代にアフリカから連れてこられた黒人奴隷の子孫であり、インドは南アジアなのでハリスは黒人とアジア人の混血ということになる。

ただし、彼女が副大統領候補に選ばれた8月11日付のNew York TimesまたはAssociated Pressは最初の「黒人女性」であると伝えており、「アジア人」への言及はない。今までアジア人女性の副大統領もいないので、「最初のアジア人女性」でもあるのだが、こちらの方はあまり歓心を買わないようである。

ハリス自身も黒人の血筋を一貫して強調しており、2019年6月27日の民主党予備選のディベートで、人種統合政策の一環として白人のクラスにたった1人の「黒人」としてバスで送迎されていた小学校時代の経験について語っている。

この発言は相次ぐ警官による黒人殺害事件に端を発した人種差別問題が盛り上がりを見せる中で今回の大統領選のハイライトの一つとなった。ハリスの選挙事務所ではこの発言にちなんだTシャツが販売されたほどである。同じく民主党から立候補した台湾系のアンドリュー・ヤンがアジア系を自身のアイデンティティーとしていたのと一線を画している。

成功している?……アジア系アメリカ人の苦しみ

アメリカにおいて中国やインドをルーツに持つ「アジア系」への感情は複雑だ。

アメリカ合衆国国勢調査によると、アジア系の世帯収入の中央値は2018年に8万7000ドル程でアメリカ全体の6万3000ドル、白人の7万ドル程度も上回る。黒人は4万ドル程度なので、アジア系はかなり成功しているといえる。

私の所属するハーバード大学医学部では、2019年の入学者165人のうち、アジア系は45人と27%を占め、アメリカでアジア系の占める人口比5.9%に対し圧倒的に多い。これに対し、黒人、ヒスパニックなどを合わせたのが39人(24%)で、人口比の計32%に比し少ない。医学部以外の学部や、他の有名大学でも同様の傾向が見られる。

大学生
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fstop123

米国科学委員会の2010年の統計では、黒人、ヒスパニックやアメリカ先住民などが科学および工学分野の従事者の10%である一方、アジア系は19%と比較的多い。ハーバード大学医学部での教員の組成も2019年にはアジア系教員は20.8%を占め、これに対し黒人、ヒスパニックなどを合わせた教員の割合は6.2%だ。

それゆえ、私が働く自然科学の研究の現場では、黒人、ヒスパニックの研究者を増やすべくいろいろな政策がとられているが、アジア系を対象とするものは見当たらない。むしろハーバード大学は2014年、学業成績だけだとアジア系がもっと多くなるはずなので面接などの入試過程でアジア系学生を積極的に減点し、差別しているのでは、と訴えられている。

黒人とは対照的なマイノリティー

私も渡米間もない当時、職場で「医学領域における過小評価グループ(underrepresented in medicine)の支援プログラム」の通知があった時に、隣に座っていた大学院生に「アジア人はアメリカで少数派だから、応募できるよね!」といったところ、「アジア人は医学領域では多すぎる」「あなたが応募しても当たる可能性どころか申請を受理してもらえないだろう」と言われた。

確かに、そのメールをよくよく読んでみると、最後に小さい字で“Please note”から始まり「アジア系はカンボジア人など過小評価グループと定義されている特定の出自がない限り、申請の権利はない」と書かれていた。この大学院生は14歳の時に香港より単身渡米してきてジョンズ・ホプキンス大学を卒業し、マサチューセッツ工科大学の大学院に通っていたが、過去に奨学金の申請や大学入試などで苦労を味わっているとのことだった。

要するに、アジア系は人口比だけ見ると少数の有色人種だが、サクセスフルなグループのため差別対策の対象とはなりにくく、長く組織的な抑圧の歴史のある黒人とは対照的である。

ポール・ファッセルは1983年に著書「階級(クラス) 『平等社会』アメリカのタブー」(光文社文庫)で、流動的に見えるアメリカの社会階級には「嫉妬」という危険性があると述べている。今日でもこの考えはかなり当てはまり、とりわけアジア系に不利に働いていると感じる。

ボストンエリート学校入試騒動の顛末

ボストン・ラテンスクールは1635年創立のアメリカ最古の学校で、ボストンのエリート公立校である。卒業生にはアメリカ建国の父と言われ、凧を用いた実験で雷が電気であることを証明するなど多才で知られるベンジャミン・フランクリンなどがいる。学費が高騰するアメリカにおいて、授業料が無料の公立校であるため人気が非常に高い。

ハーバード大による2018年の調査では、黒人やヒスパニックはボストン公立学校生徒の75%を占めるが、ボストン・ラテンスクールでは20%にすぎない。主な理由として、現行の選抜方法が公立校で教えている内容以上の準備を要求しており、予備校や家庭教師などをつけて対策が可能な裕福な白人、アジア系に有利となっており、学校の授業のみで勉強している黒人、ヒスパニックに不利なため、としている。

この件に関し、公民権弁護士がボストン市への訴訟を準備していたことから、ボストン公立校の教育委員会は選抜試験制度を再検討していた。ところが、コロナウイルスのパンデミックで試験が困難な今年に限り、入学試験施行の中止、ボストン・ラテンスクールの80%の枠を、入学希望生徒の学校での学業成績または在学中の一斉学力進達テストの成績を参考に生徒の居住する郵便番号に応じて分配すること、また分配は世帯収入の中央値が低い地域から優先的に行うという緊急措置を満会一致で可決した。

この措置により黒人はとヒスパニックは大きく比率を増やす一方、アジア系は大幅に減少するというシミュレーション結果が示されている。しかし、これはボストン市内の人種の局在の問題なのであろうか?

アジア系が抱える内情…グループ内の大きな格差

ボストン再開発公社の2015年の統計によると、ボストンの高級住宅街「ビーコンヒル」に住む人種は圧倒的に白人が多く、黒人は1%、年収の中央値も9万3000ドルと高い。これに対し、治安が悪いことで知られる「ロックスバリー」では黒人53%、白人は32%であり、年収の中央値も2万6000ドル程度と圧倒的に少ない。

一方、アジア系はどちらの極端な地域でもメジャーな存在ではない。学業成績のいい東アジア(中国)系は収入の中央値がボストン全体に近いダウンタウン付近に集中して居住し特異的な位置を占めていることから、郵便番号に基づく割り振りはアジア系に対して不利と言える。

さらに注目すべき点は、グループ内での貧富の差が最も大きいのがアジア系ということである。90年代に高度技能を保持する移民流入を促す移民関連法案が次々に成立し、インドや中国などから多くの高度技能移民がアメリカに流入、それ以前の低度技能保持者が主流のアジア系移民と収入格差が拡がる原因となった。

全国地域再投資連合によると、フィリピン系の中央値は8万ドル程度に対し、ミャンマー系は3万6000ドル程と言われ、アジア系の全体の貧困率も10.1%と白人の8.1%に比べて高く、グループ内での経済的な格差が大きい。

白人が公立校に少ないのは、授業料のかかる私立校に通うからであるが、ボストンにいる87%のアジア系の生徒は授業料がかからない公立校に通っているため、アジア系が「裕福」で教育にふんだんにお金がかけているというのはアジア人全体から見ると実情にあってはいない。

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