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ヘルス・リテラシーなど

 石破 茂 です。

 何か発言した時に、皆が賛同して批判が皆無ということはあり得ません。批判されるのが嫌なら意見を述べなければよいのですが、それでは政治家は務まらない。議員の全員がテレビやラジオに出られるわけではないのですが、その週に起きたことに対して、自分はどう考えているかを発信するのも政治家の義務だと思っております。その意味で、ブログやSNSが使えるようになったことはとても有り難いことです。

 多くの会議や会合の予定が無くなって時間が出来たため、新型コロナや外交・安全保障、農林水産、歴史などの本を読む時間が増え、随分と今まで知らなかったことを知る機会が得られています。

 日本では新型コロナの感染者・発症者も欧米に比してはるかに少ないですし、病床数は人口当たり世界一、医師・看護師の数も先進国の平均近くを有し、その質も高く、CTやMRIの普及率も世界一なのですが、そんな日本で何故「医療崩壊」の危機が叫ばれるのか。

 正確に言えば、相当の地域差があり、「医療偏在」というべきものなのではないか。国民に自粛をお願いすることも、早期のワクチン接種も重要ですが、医療の供給体制を見直すとの視点も欠かしてはなりません。

 全国に344ある「2次医療圏」(予防から入院・治療までの一般的な医療を行う複数の市町村で構成される圏域。「1次医療圏」は日常生活に対応する医療を行い、市町村単位。「3次医療圏」は先進的な医療を行い、都道府県単位)ごとに考えても、状況は全く異なります。首都圏、中京圏、近畿圏では本当に崩壊の危機に瀕しているところもありますが、そうでない医療圏もあります。

 二次医療圏や都道府県を越えて医療体制を融通できるシステムを法的に担保するためには、特措法と共に、医療法や感染症法の改正が必要なのだと考えています。

具体的には、現場の状況を把握している都道府県知事の権限を拡大し、県域や公立・民間の別を越えて、重症者から中等者までの患者の受け入れを病院に指示できるようにすべきではないでしょうか。圏域全体で通常の救急医療と一般医療、そしてコロナ治療を分けて担うことで医療崩壊を防ぐ試みも、政府として後押しする方策を考えるべきだと思います。

 コロナ患者を受け入れると風評被害で患者が減り、経営に支障が出ることを恐れて、これを拒む医療機関が散見されるわけですが、その理由の一つとして、いつまでも新型コロナを結核やSARSと同じ「『感染症2類』相当」のままにしておくことで差別や偏見が無くならないのではないか、「『5類』相当」に移行させるべきではないか、との意見はよく検討してみなくてはなりません。これは全国保健所長会から厚生労働大臣宛に出されている意見でもあります。

 「保健体育」と言いながら、学校教育で保健をあまり教えていないため、日本人は一般に医療を理解しない(「ヘルス・リテラシーが低い」)と言われていますが、同時にメディアの情報を鵜呑みにしてしまう(「メディア・リテラシーが低い」)といった傾向もあるような気も致します。少なくとも多くの考え方、ものの見方を紹介する責任がメディアにはありますし、国民の側にも多くの考えを聞き、自らが判断する姿勢が期待されるのではないでしょうか。

 日中戦争から太平洋戦争に至る過程においては、政府もメディアも彼我の正確な情報を伝えないままに米国や中国を侮る世論を煽り、「神国日本は不敗」的精神論を鼓舞し、「贅沢は敵だ!」「欲しがりません勝つまでは」などと隣組や愛国婦人会を使って国民の同調圧力を強め、異論を唱える者は「非国民!」と決めつけてこれを封殺し、「焼夷弾による空襲に遭った市民は避難することを許さず、バケツリレーなどで消火にあたらせる」などという常識外れの防空法の適用によって多くの国民を死に至らしめました。

これと同じ構図を繰り返すことがあってはなりません。

 新型コロナウイルスは何が恐ろしいのか、自然免疫でどれほどが対応できるのか、獲得免疫にどれほど期待できるのか、どのような人が発症しやすいのか、陽性・感染・発症はどこが違うのか、この一年間で治療法はどれほど進歩し、どれほど救命率が上がったのか。今のところ第二類相当に指定されているのですから、国はすべてのコロナウイルス患者の情報を持っているのであり、その情報を冷静な事実の積み重ねとして開示しなくてはなりません。

 入院を拒否した者に対して「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」とされていた当初案は、与野党の協議を経て変更され、懲役刑は削除、刑事罰ではなく行政罰としての「過料」とされ、金額も引き下げられることとなる見込みです。

 刑事罰と行政罰の違い、科料と過料の違い、などを学生時代に習ったことを久しぶりに思い出しましたが、これによる抑止効果はどれほど期待されるのか、刑法上の犯罪に対応する行政刑罰とは異なり、行政上の秩序罰としての過料であるにしても、それが課される所以は何処にあるのか、法目的はどこにあるのか、等々、よく考えてみたいと思っています。

 またコロナ関連報道一色の中でほとんど採り上げられることはありませんが、中国が2月1日から施行する「海警法」は衝撃的な内容です。

 わが国は「公海自由の原則」などの国際海洋関係法の「航行の自由」原則を重視してきたため、日本の海上保安庁には(もちろん海上自衛隊にも)法律上「領海を守る」という任務は付与されていません。能登半島不審船事案で海上保安庁が北朝鮮の不審船を追跡した時も根拠となった法律は漁業法でしたし、海上自衛隊が海上警備行動によってイージス艦を出動させたのもあくまで警察権の発動でした。

 一方で中国は「海警」(コーストガード)を軍隊として行動させることを今回の海警法で明らかにしています。この齟齬はやがて決定的な事態を招くことになりかねないのであって、平和安全法制の時から「グレーゾーン事態」に対応するための法整備の必要性を主張していますが、未だに着手には至っていません。政府は「不断の見直しをしている」と繰り返すばかりですが、憲法第9条に自衛隊を明記することに多大の時間を使うよりも、こちらの方が遥かに重要ではないかと今でも私は思っています。

今の任期の間に何とか形にしたいものです。

 前回、一部の新聞や週刊誌などで報道されている「自民党内の政権離れ」を「不愉快の極み」と書いたところ様々な反応がありましたが、政治家は自分の決断や行動について、最後まで責任を持つべきだという極めて当然のことを申し上げたつもりです。

 コロナ関係以外で今週読んだ本の中では「昭和史裁判」(半藤一利氏と加藤陽子氏の討論・文藝春秋)から多くを学びました。

 31日日曜日は「NIKKEI日曜サロン」に出演いたします(午前9時半・BSテレ東・収録)。

 来週からもう2月なのですね。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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