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「反中姿勢はトランプ並み」バイデン新政権を注視する中国の焦り

新政権を注視する中国の胸中

1月20日、米国の第46代大統領にジョー・バイデン氏が就任した。それに前後して行われた主要閣僚の公聴会では、国務長官に指名されたアントニー・ブリンケン氏や、国防長官に指名されたロイド・オースティン氏は、明確に、中国に対して強硬な姿勢で臨む考えを示した。そうした対中のスタンスはトランプ政権と同じ、あるいは前政権よりも厳しいトーンの部分がある。

2021年1月27日、ワシントンD.C.のホワイトハウスのステート・ダイニングルームで行われたイベントで、ジョー・バイデン米国大統領が気候変動への政権の対応について発言。2021年1月27日、ワシントンD.C.のホワイトハウスのステート・ダイニングルームで行われた演説で、ジョー・バイデン米国大統領が気候変動への政権の対応について発言。 - 写真=CNP/時事通信フォト

一方、中国はITなど先端分野の強化策である“中国製造2025”の実現を目指して、国有企業などの製造技術の強化に全力で取り組んでいる。中国は補助金や工場用地の提供などに加えて、これまで以上に強力に海外からの技術吸収に取り組むだろう。それによって中国は米国の圧力に対抗し、自国の発言力を高めることを考えているはずだ。

その意味では、中国企業がいかにして米国企業に追いつき、追い越すことができるかは、今後の世界各国の経済や安全保障にとって重要なファクターになる。現在、わが国企業には素材関連を中心とする高い技術力がある。そうした強みをさらに高め、米国からも中国からも必要とされるポジションを得ることが、わが国と経済の成長に最も必要な要素になるだろう。

対中強硬路線には変化なし

バイデン政権の対中強硬姿勢が変わることはないだろう。それは、米民主党の対中姿勢・超党派での対中スタンス、1月下旬時点で判明しているバイデン政権の主要閣僚(候補含む)の発言からもよく分かる。

米国の民主党内には、共和党保守派以上に中国に対して厳しい見解を持つ議員がいる。代表的な人物が、ナンシー・ペロシ下院議長だ。同氏は中国との関係を重視したオバマ政権下でも、チベットなどをめぐる人権問題に対して厳しい姿勢を示した。また、伝統的に労働組合を重要な支持層としてきた民主党は、雇用を守るという点でも中国に対して厳しい考えを持っている。

また、米国の対中強硬姿勢は超党派の取り組みだ。それはトランプ前政権の対中政策から確認できる。

トランプ氏は米国を分断した。同氏の経済政策は貧富の差を拡大させ、人種差別問題を深刻化させた。また、新型コロナウイルス感染対策の不備によってアフリカ系アメリカ人などの感染率が相対的に高くなったことも、米国を分断した要因だ。

就任式に「台湾代表」異例の出席

しかし、2018年11月の中間選挙で民主党が下院の過半数の議席を獲得した後も、トランプ政権の対中政策が停滞することはなかった。米議会の超党派の諮問機関である“米中経済安全保障調査委員会”が公表した2020年の報告書の中では、台湾を中国の圧力から守るために安全保障と経済の両面で関係を強化すべきとの提言が示された。

バイデン大統領の就任式に、駐米台北経済文化代表処の代表である蕭美琴(しょうびきん)氏が招かれたことも、同政権の対中強硬姿勢が前政権から大きく変わらないことを示唆する。

バイデン政権の閣僚(候補含む)の発言を確認すると、各政策分野での対中強硬姿勢が確認できる。商務長官候補のジーナ・レモンド氏は詳細には言及しなかったものの、中国の不公正な取引慣行に厳正に対処すると述べ、ファーウェイへの制裁を続ける考えも示唆した。

ワシントンD.C.にあるホワイトハウス※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vacclav

以上の内容をまとめると、バイデン政権の対中姿勢が前政権から緩むことはない。なお、米国の対中制裁関税がどう運営されるかは、今後の議論を確認する必要がある。

各国で中国包囲網が強まっている

米国の強硬な姿勢に対して、中国の共産党政権は党の指揮に基づいた経済運営の体制(国家資本主義体制)を強化して対抗しなければならない。特に、海外企業からの技術移転の重要性は一段と高まっている。

それは、ファーウェイの事業運営体制の変化から確認できる。2020年9月に米国は自国技術を用いた半導体がファーウェイに輸出(供給)されることを禁じた。その結果、ファーウェイの業績は悪化し、同社は生き残りのために格安スマホブランドの“Honor(オナー)”を売却し、旗艦ブランドである“Mate(メイト)”などの売却も検討している。それが示唆することは、半導体の製造技術面で中国の実力は低いということだ。

また、米国の制裁によって通信インフラからファーウェイ製品を排除する国が増えた。英国やフランスは5Gネットワークからファーウェイを排除することを決めている。経済面で対中関係を重視してきたドイツをはじめEU全体がファーウェイの通信機器の利用を厳格に審査しようとしている。

IT技術の吸収を急ぐ中国の思惑

2020年4月にデフォルト(債務不履行)に陥った南米のエクアドルは、米国の金融支援と引き換えに5Gネットワークからのファーウェイ製品の排除を受け入れたようだ。その結果、ノキアやエリクソン、韓国のサムスン電子、わが国のNECや富士通には代替需要が発生している。英国政府などはNECや富士通に5Gに対応した通信インフラ整備への協力を求めた。

その状況が続けば、中国は半導体の自給率向上や5G通信機器市場での世界シェア獲得などを目指す“中国製造2025”の達成が遅れ、共産党政権の求心力は低下する可能性がある。その展開を回避するために、中国政府は海外からの技術移転を加速させている。

半導体回路※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wiyada Arunwaikit

2019年の段階でEU商工会議所は、中国での技術の強制移転が増加していると報告した。その後、米中の対立が激化しファーウェイの業況が悪化したことを考えると、技術力に関する中国の危機感は一段と高まったはずだ。2020年末に中国がEUと包括的投資協定に大筋で合意した背景には、より迅速に製造技術を吸収したいという中国の思惑がある。つまり、中国の覇権強化に製造技術力の向上は欠かせない。

日本企業に活路はあるか

不透明な部分はあるものの、米中が製造技術をめぐって対立する状況は、基本的にはわが国経済にとってチャンスだ。わが国には簡単には模倣できない製造技術がある。最先端の5ナノ(10億分の1)メートルの回路線幅の半導体生産に欠かせない感光材市場でわが国企業のシェアは高い。また、セラミック、塩化ビニール樹脂などの素材や、精緻なすり合わせ技術が要求される工作機械などの分野でもわが国の技術力は高い。

ある意味、新型コロナウイルスの感染症発生は、安心と安全を支える製造技術の重要性を世界各国が確認する機会になった。例えば、通信インフラは水道や電力と同等に重要であることがはっきりした。英国がわが国企業に通信インフラ整備への協力を求めたのは、わが国企業の技術が信頼できるからだ。

逆に、製品が分解されて技術が模倣されると、企業の競争力は低下し、経済全体の活力も下がる。韓国企業はメモリ半導体やスマホなどの分野で中国企業に追い上げられている。政府の支援によってコスト負担が低い中国企業との価格競争に韓国勢が対応することは難しい。企業の競争力低下は、その国の発言力にも影響する。

米中から必要とされるポジションを

それと対照的なのが台湾の半導体産業だ。コロナショックの発生後、世界的に半導体の需給が逼迫(ひっぱく)し、日米欧政府は台湾当局に車載半導体の増産を要請した。それは、半導体の受託製造企業である台湾積体電路製造(TSMC)や聯華電子(UMC)が独自の技術に磨きをかけ、世界から必要とされる製造技術(生産ライン)を確立したからだ。TSMCなどはわが国企業が生産する部材や製造装置などを必要としている。

新型コロナウイルスの感染再拡大によって世界経済は厳しい状況にある。口で言うほど容易なことではないが、わが国企業が素材や機械関連の技術に磨きをかけ、米中から必要とされるポジションを確立することはわが国の経済にとって最も重要であることは言をまたない。そうした取り組みがいかに進むか、中・長期的なわが国経済の展開の死命を制するほど重要になるはずだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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