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新型インフルエンザ等対策特別措置法等改正案(続)

【以下のエントリーは、Facebookにおける盟友福島伸享さんの書き込みにアイデアを得たものです。】

 新型インフルエンザ等対策特別措置法及び感染症法の改正案(要綱新旧対照条文)について、修正協議が纏まったようです。

 どうしても「刑事罰」とか「国会報告」とかに注目が集まります。勿論、刑事罰というのは前科が付くわけわけですから重大な出来事です。ただ、過料の金額については、そもそも休業命令まで出てもやっている方は腹が座っている方ですからあまり金額の多寡が重きをなすとは思えません。

 それよりも、(福島さん同様)私も「いざと言う時にこの仕組みは機能するのか?」という事が気になります。それは感染症法改正の一番最後の所に書いてある各関係者間の権限関係です。「医療崩壊」という言葉を目の前に、きちんと指揮系統は担保されるのかという事です。

 ここで一番気を付けなくてはならないのは「各関係者は仲が悪い」という事を前提に考えなくてはならないという事です。第一波の時、東京都と一部の特別区との関係は悪かったですね。福岡県と両政令市(福岡市、北九州市)との間も結構大変です。

 そして、一番想起されるのは国と東京都との関係が悪いという事です。今、何故、緊急事態をめぐる議論が輻輳しているかというと、昨年春の段階で東京都が緊急事態に基づいて休業要請をしようとしたら、国がそれを止め、業を煮やした東京都知事が緊急事態とは関係ない規定で休業要請をしたからです。

 今の法律では休業要請が明示的に書いてあるのは緊急事態時だけなのですが、そうでなくても出せる道を開いています。あれ以来ずっと、「休業要請は何に基づいて出すのか」という議論が混乱を極めています(今回の法改正が若干歪なのもそれが原因です)。

● まず、「厚生労働大臣及び都道府県知事による協力の要請等」というのがあります。厚生労働大臣及び都道府県知事は、感染症の発生防止のため緊急の必要があると認めるときは、必要な措置を定め、医師その他の医療関係者等に必要な協力を求める事が出来るとあります。従わない時は勧告した上で、名前を見せしめる事も出来ます。

 ここで興味深いのは、主語が「厚生労働大臣『及び』都道府県知事」なんですね。しかも、都道府県知事の下にはカッコで「保健所設置市等の長を含む」と書いてあります(「等」には東京都の特別区も入ります)。

 とすると、例えば、国と都道府県知事で意見が一致しないケース、あるいは、国と都道府県、国と保健所政令市の2者では一致しているけど、残りの1者が反対しているケースではどうするのか、という事があるでしょう。例えば、国と新宿区は協力要請で一致しているけれども、東京都が反対しているケースです。

● その次に「都道府県知事による入院調整の実施」という規定があります。都道府県知事は、感染症のまん延により医療機関が不足するおそれがある場合、保健所設置市等の長、医療機関その他の関係者に対し、入院の措置等その他の事項に関する総合調整を行えます。これは都道府県知事単体の権限です。

 意地悪く見てみると、上記の「厚生労働大臣及び都道府県知事による協力の要請等」の調整が整わない時、都道府県知事が業を煮やして、この「都道府県知事による入院調整の実施」の規定を拡大解釈して、「入院の措置等その他の事項に関する総合調整」で何でもかんでもやろうとする事はあり得るでしょう。

 しかも、こちらは都道府県知事が保健所設置市等に対して総合調整の名の下に手を突っ込んでくる事が出来ます。国や保健所設置市等との調整が厄介な時、都道府県知事がこの規定に駆け込む事は荒唐無稽ではありません。

● 更には「厚生労働大臣が指示を行うことができる範囲の拡大」という事で、都道府県知事が法律違反している場合において、特に必要があると認めるときは都道府県知事に対し、必要な指示をすることができるとなっています。「指示」ですので、かなり強い権限です。

 つまり、この3つの権限規定(やそれ以外の規定)が重複するありとあらゆる可能性を検討しないといけないのですが、「仲が悪い」者同士が拡大解釈しようとする時、どう見てもぶつかるような気がします。実は私は「刑事罰 or 行政罰」とか、「国会報告」とかよりもこちらの方がとても気になります。

 あと、全体として規定がザックリしているので、これらの規定で何処までやれるのかがよく分かりません。いざと言う時はありとあらゆる医療リソースの動員という事が出て来るでしょう。

 その時、引っ掛かるおそれがあるのが、感染症法で決まっている感染症の分類(とそれに伴う諸措置)だというのは既に指摘があります。今回の法改正による規定では、そういった事を乗り越えてまで、各病院に指示、勧告をやれるのか、という疑問があります。

 ちょっと極端なケースを挙げたり、細かいケースを論っているように見えるかもしれません。ただ、上記で述べたように、休業要請の根拠規定を巡っては、法律を作った時には想定もしなかったようなやり方でこれまで運用されて来ました。

 危機管理においては、この手の指揮系統が混乱するのが一番良くないです。正に危機管理の要諦である「想定外を想定する(Think the unthinkable)」を貫いてほしい所です。

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