2010年以降、年間自殺者は減少傾向をたどっていた。しかし、2020年、新型コロナウィルスの感染拡大の影響もあって、自殺者が増加した。警察庁によると、11月までの自殺者は1万9225人で、対前年比で550人増加した。女性だけで見れば6384人で、令和元年の1月〜11月の自殺者数と比較すると752人増加。対前年比で13.4%増えた。男性の自殺者数は1.5%減少したため、コロナ禍は女性のメンタルヘルスに影響を与えたことが窺える。

公務員を休職している麻友(31、仮名)は、2020年の年末も高度治療室(HCU)に運ばれた。
「とにかく苦しくて先が見えなくて、毎日が絶望の日々でした」
10年ほど前、入職。5年間は特に問題があったわけではない、しかし、6年目に異動となってから、問題が起きる。異動先の部署は、3つのチームから成り立っていたが、ペアになった年下の女性職員が原因で、麻友は精神的に辛い状況になっていく。
ある夏の日。現地調査のため、ペアの職員と一緒に車で現地に向かった。ペアの職員が助手席に座り、エアコンの温度を極端に下げ、風速も強くしていた。外気との差が激しかったためか、麻友は翌日、体調を崩した。病院へ行くと「熱中症」と診断された。数日間、休むことになったが、熱中症のことはペアの職員に伝えた。3日後、出勤すると、上司に叱られた。チームに熱中症のことが伝わっていなかったのだ。
そのほか、ペアの職員は"言っていない職場の悪口"を麻友が言ったことにして、悪者に仕立て上げた。また、クレーム対応が十分ではなく、麻友がフォローすることも多かった。
「ペアの職員の不十分な対応をフォローしたんですが、その姿を彼女が見ていたことがありました。それに私は生理が重いので生理休暇をとることもあったんですが、ペアの職員は生理でも出勤していたんです。加えて、私は、悪口が苦手なので、悪口で盛り上がっていると、抜けて仕事をするようにしていたんです。だからターゲットになったのかな?」
もともと、自信がない性格だったためもあり、麻友は職場で孤立しているように感じ、精神的にきつくなっていく。精神科へ行くことにしたが、受診すると、鬱を発症していたことがわかった。その上で、医師にこう言われた。
「いますぐ休職するようにしてください」
孤立感からオーバードーズ「とにかく苦しくて先が見えなくて」
麻友は自分が休むと職場に迷惑をかけると思っていた。しかし、休まない方が職場に迷惑をかけると思い直し、初診から3〜4週間後に休職を決めた。上司がメンタルヘルスに理解があったことも幸いした。ただ、職場での孤立感があったため、職場に復帰する前にも、メンタルを崩した。その後、処方薬で過量服薬(オーバードーズ)を繰り返した。
「『死にたい』とぼんやりと考え始めるようになったのは学生時代でしたが、本気で思うようになったのは鬱を患い、休職しているときでした。休職中は、とにかく苦しくて先が見えなくて、自分を陥れた人を許さないと思ってしまう自分が醜くてたまらないと感じで、毎日が絶望の日々でした。休職を経た後の復職中には、二度大量服薬をし、一度目はICUに入院、二度目はHCUに入院しました」
19年9月。市販薬を350錠飲み、9時間後、病院に搬送される。「起きてこない」と心配した家族が119番通報した。集中治療室(ICU)で胃洗浄をされたが、意識がなかった。翌日、一度院内で起き、さらに次の日に、母親と対面した。

「このときは、『死にたい』というよりは、『何もかもストップさせたい』『シャットダウンさせたい』という気持ちでした」
退院後、産業医面談で仕事量を調整すべきとの意見をもらうが、なかなか調整がうまくいかない。20年1月、「このままでは希死念慮が強くなる」との診断書が出された。しかし、この時の上司は「こんな時期に言われても」と配慮しなかった。課長を呼び出すと、「産業医の件を知らない」と言ったが、のちに「忘れていた」と訂正した。
「役職者としては大きな過失だと思います。発言内容も変わっており、信用できません。なかなか仕事の調整がされず、病状も悪化しました。正直に言うと、私の命よりも仕事を優先されているようで絶望しました」
結局、仕事量の調整が始まったのは2月になってからだった。しかし、希死念慮が止むことはなく、4月には缶チューハイで170錠の薬を飲んだ。このときは病院のHCUに搬送された。
「1月から、『処方薬致死量致死率』でネット検索をしていました。このときは『死んでもいいや』という気持ちでした。孤立したと思うようになった原因の職員に対して、『あなたのせいで精神障害者になった』という気持ちが拭えなかったんです」