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前提が変わってきている弁護士激増論

 依然として、弁護士界外の人間のなかには、弁護士・会を一枚岩のようにとらえるイメージが強くあります。それは、多少なりとも、この世界に関心がある市民と話をしていても感じることです。

 こと「改革」に関して言えば、弁護士はみんな自己保身から増員政策に反対している。つまりは、激増政策反対論調は、弁護士の自己保身で一枚岩になって主張しているものだ、というとらえ方が強くあることに気が付かされます。そして、この一枚岩論からすると、かつて「改革」を提唱し、激増政策の旗を振った日弁連が、就職難が表面化したとたん、それにブレーキをかける(現実には減員と誤解されているのですが)と言い出したのも、一致団結した保身からの変節。つまりは、一枚岩でぶれているという扱いになります。

 しかし、現実は相当に違います。弁護士の全体が増員政策反対派という事実はありませんし、反対派が自己保身から主張しているとくくることはできません。いまでも日弁連の「主流派」と位置付けられている人々は、「改革」推進派であり、増員基調とそれを支える新法曹養成制度を、もともとの描き方にのっとって守ろうとしています。

 逆に、最初からこの「改革」に懸念を表明し、激増政策に反対してきた弁護士たちもいます。彼らからすれば、案の定の結果が現出している。大量増員された弁護士を経済的に支える需要が、この国にないことも、それを踏まえない激増政策がこの国の弁護士を変質させ、そのことが結局、市民社会に影響を与えかねないことも、さらに「法の支配」「二割司法」といった言葉を使った「社会のすみずみ」論の現実乖離にしても、一貫して主張してきた弁護士が沢山います。彼らからすれば、それこそ「ほら、みたことか」という話になって当然。つまりは、その意味で、彼らは全然ぶれているわけではありません。つまりは、一枚岩ではないのです。

 それをいうのであれば、弁護士激増政策に関して、相当にぶれているのは、むしろこの「改革」そのものではないか、と思えます。それは、なぜ、「改革」が激増政策をとったのか、その根拠に関する言い分です。

 11月26日付けの日本経済新聞・法務面の企画記事「司法試験、年3000人合格どう見る」での、中西一裕・日弁連事務次長と横井朗・慶応大学法科大学院教授のインタビュー記事で、横井教授は、年3000人合格の目標を見直すべきではない、という立場で次のようにいっています。

  「日本の弁護士は極めて少人数でギルド(職業別組合)的な仕組みを作り上げ、安くて手軽なサービスを国民に提供してこなかった。それを変えることが司法改革の理念であり、手段のひとつが弁護士増員だった」

 この発言については、既に「Schulze BLOG」が取り上げて明解な分析をされていますが、たまたま最近、当ブログのコメント欄への回答で私も、同趣旨の切り口に対する疑問を指摘していました。つまりは、前記プログ氏もいうように、そういう話ではなかったはずだ、ということです。

 弁護士護士激増政策の根本的な根拠は、あくまで事後救済社会になるこの国で、大量の法曹の需要が発生するというもので、そのために「質量ともに」という表現で、現実的には大量の弁護士の産出を、あたかも社会的要請のように描き込んだのが、この「改革」です。法曹養成制度による「質」の確保は困難だから、競争と淘汰によって「質」を確保させるために激増政策が必要、という描き方を正面からしたわけでは、そもそもないということです。度々、推進派が引用する、市場原理に委ねるとしたという話も、3000人の目標設定にかかわる部分で出たことで、むしろ、その数は、需要にあわせて、下方修正も上方修正も可能とれる話です。

 最近、弁護士激増による競争と淘汰、それによる低額化・良質化への期待感を強調する主張が、増員反対あるいは抑制論に対峙して主張されますが、もともとの需要論の見込み違いの話はどうなるのか、言ってみれば、その問題を回避して、あくまで激増政策を続けるべきとする側が、この論調を繰り出しているようにも見えるのです。少なくとも理念というならば、事後救済社会での大量需要の発生とそれへの対応という話からは、ぶれているという評価もできなくないように思えます。

 もっとも、いわゆる弁護士のギルド体質批判というものは存在し、競争原理導入を強調する欲求は存在していました。そして、そのために弁護士激増が強制的な手段として必要という人々がいたことは事実であり、それがこの「改革」への期待であったという主張もあるかもしれません。つまりは、彼らからすれば、ぶれていないと。

 しかし、前記見込み違い、つまり大量需要の発生が、少なくとも現段階では幻であることが分かった途端に、このことが理念にすり変わるということでいいのかどうかは問われなければなりません。大量需要の発生を前提とした激増政策が、それが存在しない場合の、いまのような弁護士の状態も、それがもたらす影響も、きちっと考慮し、社会に提示したわけではないからです。そこには、この状態で、本当に良質化や低額化が生まれるのか、どこまで大衆はリスクを負うのか、というテーマが横たわっているはずです。

 冒頭のような一枚岩ととられるような弁護士・会の現状を考えれば、こうした「改革」のぶれを直視しない日弁連の姿勢は、その主張をより分かりにくいものにしているのは事実です。が、それとともに、推進派の大マスコミが極力大衆の目をそらさせようとしている、このぶれと前記テーマの存在を、専門家としても回避しているようにとられかねないことに、まず気が付かなければなりません。

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