日産自動車元会長カルロス・ゴーン被告が巨額の役員報酬を開示しなかった事件。金融商品取引法違反罪の共犯に問われた元代表取締役グレッグ・ケリー被告の公判では1月14日、ハリ・ナダ専務執行役員(56)の証人尋問が始まった。
「ナダ氏は不正の“実行役”でしたが、検察との司法取引に応じ、訴追を免れました。公判では『ケリーさんの指示を受け、ゴーンさんの報酬を秘密裏に支払う方法について、法的な助言や資料の作成をした』などと証言した。未払い報酬をケリー被告が『ヘアカット』と称していたことを明かした上で『ヘアカットは口外するなと指示された』などと述べました。終始、余裕の構えで淀みなく答えていた印象です」(司法記者)
レバノン逃亡中のゴーン被告がかつて「裏切り者」と名指ししたナダ氏。どんな経歴の人物なのか。
「マレーシア出身の英国育ち。英グレイ法曹院で学び、法廷弁護士の資格を持ちます。90年に日産本社へ入社。以来、法務部門一筋です」(日産関係者)
ブルームバーグの報道によれば、マールボロを吸い、ダブルカフスのシャツや香りの強いコロンを好んでまとっていたという。
「ナダ氏は14年、常務に昇格し、CEOオフィスの担当役員をケリー被告から引き継ぎました。このCEOオフィスは社長をサポートし、身の回りの世話をする部署です。住居や税金の問題、その他ゴーン個人にまつわることを一手に引き受ける。その過程でゴーン被告の不正に関わることになったのです」(同前)
そのナダ氏が、なぜゴーン被告の追放に動いたのか。
ゴーン体制が続けば、自身の立場も危うくなる
「外国人幹部の多くがルノー寄りのゴーン派でしたが、彼は日産プロパー。ゴーン被告が主導するルノーとの統合にも強硬に反対していました。このままゴーン体制が続けば、自身の立場も危うくなると考えた。そこでナダ氏は、通信記録などゴーン被告の重要文書を“証拠”として保全するようになったのです」(同前)
川口均副社長(当時)らと連携し、18年6月頃には司法取引にも応じたナダ氏。海外にいたゴーン被告とケリー被告の帰国時期などの情報も検察側に伝えたり、情報収集のためレバノンを訪問することもあったという。そして――。
「18年11月、2人は逮捕されたのです」(同前)

レバノンで悠々自適の暮らしを謳歌しているというゴーン被告 ©文藝春秋
その後、ナダ氏は法務担当の役職こそ解かれたものの、19年10月以降もシニアアドバイザーとして日産経営陣に名を連ねている。
「ナダ氏の証人尋問は2月上旬まで行われる予定です。次の焦点は、2月中旬以降と目される西川廣人前CEOの出廷でしょう」(社会部デスク)
“主犯”不在のまま続く裁判。当のゴーン被告はレバノンで悠々自適の暮らしを謳歌しているという。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2021年1月28日号)