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「泣く子も黙る?」超パワフルな英新聞界が法による規制の可能性に、徹底抗戦! その1

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キャメロン首相の政治的なおよび個人的な関係にも、この事件は影を落とした。NOW紙の元編集長を官邸の広報責任者にしていたことは先に書いた。これに加え、NOW、および同紙と同じ発行会社が出している大衆紙サンの元編集長で、発行元ニューズインターナショナル社のCEOにまで昇進したレベッカ・ブルックス氏とキャメロン氏は個人的な友人同士でもあった。パワーエリートたちが、公私共にくっついている状況が見えてきた。

また、ニューズ・インターナショナル社の親会社は米メディア複合企業ニューズ社だ。この会社のCEOはメディア王と呼ばれる、ルパート・マードック氏。マードック氏は、1970年代末のサッチャー保守党政権以来、英メディア界、および政界で大きな影響力を持つといわれてきた。

とすると、例えば、マードックとキャメロンやほかの政治家とが癒着していたがために、電話盗聴事件が本格的に捜査されてこなかった、とも言えるのではないだろうかー?そんな風に思う人も出てきた。

不十分な捜査を行ったロンドン警視庁では、マードック・メディアとの近すぎる関係に疑念が持たれ、当時の警視総監と、先に2009年の再捜査を却下した幹部とが辞任する事態にまで発展した。

こうして、NOW紙での電話盗聴事件は、政界、メディア界、警察を巻き込む、大きな事件として認識されるようになった。

報告書が問題とするのは何か?

昨年秋に始まり、今年夏に終了したレベソン委員会の公聴会には、プライバシー侵害の犠牲者となった著名人に加えて、新聞経営者、編集長、記者、私立探偵、放送業界経営陣、人権擁護団体の代表者など、190人近くが出席し、質疑応答を受けた。

29日に発表される、委員会の報告書のポイントは、NOWでの盗聴事件のような、常軌を逸した報道が行われないようにするにはどうするかについての提言だ。具体的には、新聞界の規制の見直しである。果たして新法を立法化するのかどうか。

法的規制か、否か?

この文章のはじめの方で、英国の新聞界を規制する法律が事実上ないと書いた。少々説明を補足したい。1930年代、当時の保守党党首スタンリー・ボールドウィンは、新聞界を「責任を持たない(果たさない)権力」と呼んだ。「まるで、売春婦のようだな」、と。

ここでの「新聞」とは、当時の新聞王ビーバーブルック卿とロザミア卿が出していたデイリー・エキスプレス紙とデイリー・メール紙である(ちなみに、両紙は現在も健在)。この2つの新聞を使って、ビーバーブルックとロザミアは、保守党が大英帝国内での自由貿易政策を採用するよう、圧力をかけていた。

英国の新聞界が最後に法的に規制を受けたのは、1694-95年ごろ。「印刷・出版物免許法」が失効し、2度と更新されることはなかった。これで当局の認可を得ずに出版物を発行することができるようになった。

第2次大戦後、新聞界の巨大過ぎるパワーを抑えるためにいくつかの調査委員会が開かれたが、新聞界は常に「自主規制」で自分たちの力を維持してきた。

現在、業界の規制団体として挙げられるのは「報道苦情委員会」(PCC)だが、これは基本的に、新聞の読者からの苦情を受け付けることと、業界内の倫理規定を決めるのが主な仕事だ。PCCへの参加は各新聞社の意向に一任されている。

PCC設立のきっかけとなったのは、新聞のプライバシー侵害などの過熱報道に業を煮やした世論を背景として立ち上げられた調査委員会「カルカッタ委員会」(1991年、委員長のデービッド・カルカッタ議員の名前を取った)。2年後、委員会は、PCCが規制機関としては十分に機能していないとして、新聞報道の苦情を取り上げる裁判所の設置を推奨した。

しかし、当時のメージャー政権はこの裁判所の設置まではいかず、1997年に発足したブレア政権も後回しにして、今日に至った。 英国の新聞報道は、汚職、名誉毀損、通信傍受法など一般的な法律によって規制されているものの、新聞を保護するあるいは規制する特定の法律があるわけではない。

例えば名誉毀損に値する報道があった場合、PCCに苦情を言っても、該当する新聞に小さな謝罪記事が出るのがせいぜいなため、裁判で解決する形になる。しかし、裁判費用が巨額となるため、訴えることができるのは著名人など一部の人に限られる。一般市民にとっては、泣き寝入りしかないのが現状だ。

また、規制の話になると、一斉に徹底抗戦の様子を見せるのが英新聞界だ。規制といえば、「自主規制」しか、認めないのだ。

やりすぎの報道があるにしても、「法的規制は必要ない」と考える政治家や一般市民、人権団体なども、実はかなり多い。まさに「報道の自由」に関わる問題だからだ。

それでも、さすがにNOWでの盗聴事件以降、「今のままではいけない」という意識が新聞界にも共有されてきた。今回に限っては、何らかの新たな方法を導入せざるを得なくなってきた。

特に、昨年秋からの公聴会で、報道被害にあった人々が次々と証言を行い、新聞界のマイナス面が大きくクローズアップされてしまった。何もしないでは済まされなくなってきた。

小説ハリー・ポッターシリーズの作家JKローリングさん、歌手のシャーロット・チャーチ、俳優ヒュー・グラント、各新聞の編集長、記者、探偵、キャメロン首相をはじめとする政治家、警察関係者など、さまざまな人が証言を行った。その模様はレベソン委員会のウェブサイトでライブ中継された上に、その書き取ったものがサイトに後で掲載され、一種のドラマがずっと続いてきた。

(つづく)

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