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バイデン政権の誕生でアメリカの何が変わるのか~田原総一朗インタビュー

アメリカ合衆国の第46代大統領にジョー・バイデン氏が就任した。1月20日(現地時間)に首都ワシントンで開かれた就任式で、バイデン新大統領は「団結したアメリカ」の実現に向けた決意を表明。トランプ共和党政権からバイデン民主党政権への移行で、何かが変わるのか。日本にはどんな影響があるのか。田原総一朗さんに聞いた。【田野幸伸 亀松太郎】

なぜトランプ支持者は議事堂に乱入したのか

AP

大統領就任式の2週間前、ワシントンでは、トランプ大統領の支持者たちが連邦議会の議事堂に乱入するという前代未聞の事件が起きた。これにより、退任直前のトランプ大統領のイメージは決定的に失墜した。

この日、議事堂内では、大統領選挙で各州に割り当てられた選挙人の投票結果が上下院の合同会議で確認される予定だった。それに反対するトランプ支持者たちがホワイトハウスの近くに集まって、「大統領選挙に不正があった」と抗議する集会を開いていた。

この集会にはトランプ大統領も登場し、この選挙は不正の塊で本来は自分が当選していたはずだと強く訴えた。そして、集会の参加者に向かって、議事堂に向かって行進することを呼びかけた。

結果的に、行進したトランプ支持者たちは議事堂に乱入し、数時間にわたり占拠するというとんでもない事態になった。この騒乱で5人の死者も出た。アメリカの民主主義史上、最悪の出来事が起きたのだ。

なぜ、こんなことが起きたのか。

アメリカのマスメディアは、トランプが自分の支持者たちを煽ったと批判している。そういう側面があることは否定できないが、トランプとしても、もし支持者が議事堂に乱入したら自分にとって決定的なダメージとなるとわかっていたはずだ。トランプ自身は、まさか群衆が議事堂に乱入するとは考えていなかったのではないか。

トランプ支持者からは、群衆の中に反トランプの左翼勢力が紛れ込んでいて、トランプにダメージを与えるために乱入したのだという主張も出ている。だが、いまのところ、その主張を裏付ける根拠は乏しいと見られている。

結局のところ、トランプ大統領が不正選挙だと強調しつづけたため、トランプを心から支持する者たちは、ああいう行動に出ざるを得なかったのではないか。そう僕は捉えている。

トランプが大統領選挙で敗れた二つの理由

AP

アメリカの大統領はトランプからバイデンへと変わった。

トランプ政権の4年間で、アメリカ国内の「分断」が広がったとされている。そこで起きていたことは、いったい何なのか。

まず、トランプは反グローバリズム、すなわち、アメリカ第一主義を打ち出した。

第二次大戦以後、アメリカの大統領はいずれも「世界の秩序を守るのがアメリカの役割」と言っていたが、トランプは「世界のことはどうでもいい。アメリカが良ければいい」というアメリカ第一主義を訴え、大統領選挙で民主党のヒラリー候補に勝利した。

トランプが反発したグローバリズムという大きな流れは、レーガン政権から始まった。ヒト・モノ・カネが国境を越えて、世界市場で自由に流通するグローバリズムが進展するにつれて、アメリカ国内の工場は人件費の安い国外に流出するようになった。

その結果、アメリカの工業地帯は廃墟同然となり、多くの労働者が職を失った。特に、白人の工場労働者の多くが失業し、生活が苦しくなった。そんな苦境に喘ぐ人々の胸に、トランプの「アメリカ第一主義」が響いたのだ。

トランプの主張が受け入れられた背景として、もう一つ挙げられるのが、中国の強大化だ。鄧小平が実権を握り、競争の自由を認めるようになって以降、中国の経済はどんどん成長し、アメリカを脅かすまでになった。

そんな中国に対して、トランプは対決姿勢を鮮明にして臨んだ。ここでも、アメリカ第一主義を貫き、強気な外交を展開した。新型コロナウイルスの問題でも、発生源となった中国を強く批判した。

オバマ政権時代の「決められない政治」から「決められる政治」へ。トランプはそう考えて、トップダウンの政治を推進しようとしたが、結果的に民主主義を否定するような行動が多くなった。

自分の政策に異論を唱えるホワイトハウスの幹部はハト派もタカ派もみな解任した。デモクラシーを否定する姿勢を強めたことで、孤立を深めていった。それが政権基盤の弱体化につながった。

もう一つ、決定的な逆風となったのは、新型コロナウイルスへの対応で大失敗したことだ。経済を優先して、感染拡大防止のための対策が完全に後手に回った。その結果、感染者数も死者数も世界一となってしまった。

デモクラシーの否定とコロナ対策の失敗。この二つが致命傷となり、トランプは大統領選挙でバイデンに敗れたのである。

米中対立の間で、日本はどう振る舞うべきか

写真AC

バイデン大統領は就任式で「民主主義の勝利」を高らかに宣言したが、新政権で何が変わるのか。

まず、明確なのは環境問題への対応だ。地球温暖化対策に関する国際的な枠組みである「パリ協定」について、アメリカはトランプの意向により離脱したが、バイデン大統領は就任初日にさっそく、復帰のための文書に署名した。

EUなどは2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを目標に掲げているが、アメリカも足並みを揃えていくことになる。アメリカがパリ協定に復帰することで、脱炭素化に向けた国際社会の動きが加速するだろう。日本もその流れを無視することはできない。

また、トランプ政権はコロナ禍にWHO(世界保健機関)との関係を悪化させ、脱退表明までしたが、バイデン大統領は脱退撤回を命じる大統領令に署名した。新型コロナウイルスへの対策についても、他国と協調していくことになる。

しかし、トランプが鮮明にした「アメリカ第一主義」は簡単に変えられないのではないか。中国の脅威に対抗するために、アメリカの利益を優先せざるを得ない場面は少なくないだろう。

中国との関係も一気に融和に動くとは思えない。むしろ、人権意識が高い民主党政権なので、香港やウイグルにおける中国の人権弾圧を厳しく批判していく可能性もある。

問題は、対日関係がどうなるかだ。

トランプ前大統領と安倍前首相の関係は蜜月だった。トランプが大統領に就任したとき、安倍首相は真っ先に会いに行き、「心を割って話すことができた」と興奮していた。その後も親密な関係を築くことに成功した。

そのような両国首脳の信頼関係もあり、日米関係は良好だった。だが、その後を継いだバイデン大統領と菅首相が同じようにフレンドリーな関係を構築できるとは限らない。

菅首相にとって、新大統領との関係構築は大きな課題になるだろう。また、米中が激しく対立することが予想される中で、日本としてどう振る舞うべきか、外交手腕が問われることになる。

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