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「高い民度」指摘も “独自路線”スウェーデンから見る日本の新型コロナ対策

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前の記事では、昨年夏にスウェーデンの首都ストックホルムへ生活の拠点を移した筆者が、年末年始にかけての約5ヶ月間で経験したコロナ禍でのスウェーデンの暮らしについて書いたが、後半となるこの記事では、それらをやや俯瞰して眺め、コロナウイルスをめぐるスウェーデン政府の戦略や、スウェーデンから見える日本といった観点で書きたい。

前回記事:スウェーデンで何が起きているのか? 移住者が語る日常生活とコロナ対策の現状

まずスウェーデンでは公衆衛生局の国家疫学官であるアンデシュ・テグネル氏をコロナ対策におけるリーダーとし、罰則付きの厳格なロックダウンを敷いてきた欧州諸国とは対照的に大きな制限を設けず、国民に責任ある行動を求めるという基本戦略は、日本でも知られていると思う。ストックホルムに来て以来、スウェーデン人の友人との会話でこのテグネル氏の名前が出ることも多く、彼が責任者として強いリーダーシップが取れているのは、筆者の目にも明らかだった。

共同通信社

ここでスウェーデン政府から出されたガイドラインと共に、街の変化を見てみたい。前の記事でも書いた通り、8月上旬にスウェーデンへ入国した当初は、ストックホルム市内でマスクをつけているのは、高齢者かあるいは神経質な人だけというくらい珍しく、10月前半までは新規感染者数も落ち着いており、様々な制限を解除する方向に動いていた。だが寒さが本格化して冬らしい天気になる11月に入った途端、感染者の状況は再び悪化に転じ、様々な制限や勧告と共に、街の雰囲気はより緊迫したものへと変わった。

スウェーデン国内のコロナ対策の変化とは

春以降、スウェーデン国内で取られていた基本的なスタンスとしては、

  • 手洗い・消毒をしっかり行い、コロナウイルス感染症の症状がある場合は家を出ない。
  • 住居を共にする人、定期的に会う人以外との付き合いを控え、人混みはできるだけ避ける。人に会う場合は距離を取り、狭い室内で長時間の会合は避ける。

という、日本同程度か、さらに緩めのものであった。

そして入国後しばらくは大きな変化がなく、レギュレーションが頻繁に変わり始めたのは10月に入ってからだった。

  • 9月30日:新規感染者減少に伴い10月8日より飲食店や座席に座って鑑賞する文化・スポーツイベントなどの50人という上限の見直し検討の発表。10月22日には屋内での座席で鑑賞する形式のイベントの収容人数上限を300人に引き上げることを発表(11月1日発効)
  • 11月3日:屋内イベントの上限拡大から一転、新規感染者数の急増を受けてレストランなどでの飲食は1グループ最大8人までとすることを発表(11月3日発効)
  • 11月11日:夜10時から翌朝11時の間、飲食店でのアルコール飲料の提供禁止(11月20日発効)
  • 11月16日:パブリックイベントの上限を8人にするとの発表。飲食店などの例外措置は認めないものとし、違反した場合には警察の介入も可能とすることが発表(11月24日発効)
  • 12月18日:冬期休暇中の制限を発表。内容はレストランで一つのテーブルにつくことができる人数は4人まで、アルコール飲料の提供は夜8時以降禁止。ショッピングモールやジムも場所の大きさによって人数を制限し、美術館や図書館、水泳プールなどは閉鎖(12月24日〜1月24日まで有効)
  • さらに12月21日には、英国で見つかった変異株のため、英国とその感染者が見つかったデンマークからの入国制限が発表され、こちらは翌22日から発効。
  • 年末12月30日には平日の公共交通機関での移動について、午前7ー9時、午後4ー6時のラッシュアワーにはマスクをつけることを推奨との発表。(1月7日発効)

かなり長いリストとなってしまったが、特に11月と12月は非常に高い頻度で、新たなガイドラインの発表とそれらのアップデートがあった。

これらに対して国民たちが声高に不満を表明している様子はなく、個人がやるべきことを粛々を行なっているような印象を筆者は受けたが、新規感染者数を見れば、現時点でも3000人〜7000人/日あたりを推移しているなど、10倍以上の人口を持つ日本の数字よりもはるかに多く、厳しい状況である。この間に市民たちの間にフラストレーションが全くなかったわけではなく、それについて後ほど書きたい。

共同通信社

日本との共通点? ルール軽視の政治家たちに怒る市民

そんな中、12月17日にスウェーデン国王自らが、毎年恒例となっている年末のスピーチの中でスウェーデンのコロナ対策を「失敗」と述べた。このことは日本のメディアでも報じられたが、同じ日に、日本のコロナ対策に触れた「スウェーデンと日本が払う例外主義へのツケ」(原題は英語)と題された興味深い記事が出された。

欧米の大国と違う路線を行く日本とスウェーデン両国のコロナ対策の根底にある考えを論じたルンド大学の教授によって出されたこの記事は、両国で罰則を伴うロックダウンを行わず、あくまでも要請レベルの対策のみに一貫しているのは、それぞれ高い民度を誇ることへの自負に起因しているという考えを述べていた。一方で、それらの要請がうまく機能しておらず、現在日本・スウェーデン双方で、新規感染者が急増しているという現状にも触れていた。

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日本、スウェーデン共にこういった状況下で見える人々の高い民度は確かだが、筆者は日本がそういった「自負」のような精神的な理由で、ロックダウンを行わないという方針を採っているとは思わない。だが最近の双方の政府を見ると、コロナ禍の日本とスウェーデンでは他にも興味深い共通点があった。

まず現在のスウェーデンの首相ステファン・ロヴェーンはもともと金属系業界の労働組合の代表の座から政界に入った経歴を持つ人物で、首相の座に就いた今でも、感情を揺さぶるスピーチや巧みな言葉で国民に働きかけるタイプではなく、言葉少なげ、ともすれば口下手とも言えるが、実直なイメージのあるリーダーである。我が国の首相も口下手と言われることが多いが、ロヴェーン首相は欧米のリーダーの中でも、スピーチが得意な人ばかりではない良い例だと思う。

一方、これまで政府を信用しながら制限を受け入れてきたスウェーデン国民のフラストレーションが表面化する出来事があった。それは国王の「失敗」所感からわずか数日後の12月20日、ロヴェーン首相がストックホルム中心部にあるショッピングモールへ、ボディガードを伴ってマスクもなしにクリスマスショッピングに出かけたのだ。折しもその2日前の18日に自らが国民に向けて、クリスマス休暇に向けた新しいレギュレーションを発表したばかりだったので、首相はこれで大きな批判を受けることとなった。

同様にスウェーデンのコロナ対策にも深く関わっている危機管理庁の責任者、ダン・エリアッソン氏も、クリスマス休暇のためにリゾート地、カナリア諸島へ出かけたところを目撃され、批判の後に辞任した。ちょうど日本でも首相による「ステーキ会食」が大炎上していたところで、ルールを決める側が自らそれを破るという不思議な現象は、どこの国でも起きるものだと感じたのだった。

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