
クロスボーダークリエイター・放送作家の谷田彰吾です! 毎月、芸能人のYouTubeについて考察させていただいておりますが、今月は少し視点を変えて、アスリートのYouTubeについて書きたいと思います。
2020年の芸能人YouTubeブームに乗って、アスリートも次々とチャンネルを立ち上げました。野球界ではメジャーリーガーの前田健太投手、サッカーの長友佑都選手、フィギュアスケートの本田姉妹、格闘家の那須川天心選手といった現役のトップ選手たち。さらには、元メジャーリーガーの上原浩治さん、横浜DeNAベイスターズ前監督のアレックス・ラミレスさん、元サッカー日本代表の田中マルクス闘莉王さん、ボクシングの元世界チャンピオン・竹原慎二さんら、かつてファンを沸かせたレジェンドたちも動画を配信しています。
各チャンネルで特徴は違いますが、動画の内容は大きく分けて「試合やプレーの裏話」「選手同士のトーク」「トレーニング」「プライベート」。最大の魅力は、やはり試合で見せる真剣な姿とは違う選手の素顔が垣間見られることでしょう。そのギャップで視聴者はよりファンになってしまうわけです。
実は、僕は上原浩治さんのチャンネルをプロデュースさせていただいています。日米通算100勝100セーブ100ホールドという球界で唯一の記録を持つ上原さんが、独自の野球理論や解説はもちろん、球界の友人ゲストを招いて今だから話せる裏話を披露したり、時にはプロ野球チップスのカードを開封したり、『プロ野球スピリッツ』というゲームで戦ったり…様々な角度から野球のおもしろさを発信しています。
2020年1月末にスタートしてから丸1年、まもなくチャンネル登録者数20万人に達しようとしています。もしも見たことがある方がいたら、いつも本当にありがとうございます。まだ見たことがないという方は、ぜひ一度見てください。そして、チャンネル登録もよろしくお願いします(笑)
さらりと宣伝したところで(むしろガッツリ)、今回はアスリート系YouTubeに携わる一人の放送作家として、ガッツリ現場の声を書いていこうと思います。
アスリートはYouTubeとの相性が抜群!

まず、大前提としてアスリートはYouTubeに非常に向いているのですが、そこにはテレビとYouTubeの性質の違いがあります。これまで、アスリートが発信に使っていた映像メディアはテレビしかありませんでした。スポーツニュースやドキュメンタリーが主な番組です。テレビは放送時間が限られているため、アスリートは言いたいことを言いたいだけ話すことはどうしてもできませんでした。また、内容としても、テレビはライトなファン(もっと言うと競技を知らない人)からマニアまで幅広い層を相手にしなければならないため、どうしても話の中身がライト層寄りになりがちです。
一方、YouTubeはテレビと違って、好きなコンテンツを好きなだけ見るメディアです。視聴者は基本的にアスリート本人を知っているし、競技についても詳しいのが前提です。だからテレビよりも専門的な話ができます。しかも、放送時間に制限がないため、自分が喋りたいように喋ることができる。また、良くも悪くもメディアとしての影響力がテレビよりも小さいため、思い切った発言がしやすいのもメリットです。
それだけではありません。YouTubeならではと言えるのが、キャスティングでしょう。テレビでは簡単には実現しないキャスティングが、選手同士の仲が良いというプライベートな関係性によって実現してしまいます。たとえば、上原さんのチャンネルでは、元巨人のレジェンド・高橋由伸さんが出演してくださいました。この2人が並び立つのはテレビでもそうそうありません。実は、上原さんと由伸さんは同級生で、なんと生年月日が同じ。現役時代から毎年誕生日は食事を共にしてきた「親友」という間柄だったため出てくれました。しかも、友人関係だからトークも自然体。視聴者にとってはこれまで見たことがないような貴重なコンテンツになるのです。
しかし、もちろんYouTubeにはデメリットもあります。テレビでは試合映像を交えて放送することができますが、YouTubeでは権利の関係で使用できないことがほとんどです。この点においては、豊富な制作費を持つテレビに分があると言えます。ただし、プロ野球のパ・リーグがYouTubeで試合映像の配信を始めたように、ネットでも合法的に試合を見られるようになりつつあります。
YouTubeに旋風を巻き起こす格闘技

アスリート系YouTubeを語る上で欠かせないジャンルが、格闘技です。総合格闘技、ボクシング、キックボクシング、どれも人気があります。
なぜ格闘技が人気なのか? その答えは「テレビでの露出が減った」ということが影響しているかもしれません。『PRIDE』や『K-1』が全盛期だった20年前は、各局がこぞって格闘技を取り上げており、大会もゴールデンタイムで大々的に中継されていました。ミルコ・クロコップ、ピーター・アーツ、アンディ・フグ、ヒョードル、ノゲイラ、ヴァンダレイ・シウバ、そしてボブ・サップ…。スターが次々と誕生し、「大晦日は格闘技」という時期もあったほど、国民的スポーツとして定着していました。しかし、今はフジテレビで『RIZIN』、その他はボクシングの世界タイトルマッチがたまにあるだけ。ファンは日常的に格闘技を楽しめるコンテンツを探していたのではないでしょうか。
また、「20年」という時間も影響していると思います。20年前にテレビにかじりついていた学生たちは今20代後半〜30代。YouTubeのメイン視聴者層と合致します。つまり、潜在的なニーズとコンテンツの枯渇というヒットの条件が揃っていたのです。
そんな中、彗星の如く現れたのが、今やチャンネル登録者数170万人という圧倒的な人気を誇る総合格闘家の朝倉未来選手。暴走族の元副総長、ケンカ負けなし、少年院暮らしを経て格闘家に転身、ついたニックネームは『路上の伝説』という絵に描いたような不良ストーリー。そんな選手が、格闘技についてはもちろん、プライベートを見せたり、YouTuberとコラボしたり、ドッキリをしたり…若い視聴者のツボを見事に押さえた動画を次々と配信し、若者たちのカリスマになりつつあります。
もともとYouTubeは過激な動画が多かったメディア。そこに合法的に血の気の多い動画を配信できる格闘家はとてもマッチしています。これからも注目のジャンルと言えるでしょう。