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低成長、高インフレの”ニューノーマル”へと向かう欧米経済

昨年まで英中銀の金融政策委員を務めていたセンタンス氏によるテレグラフの記事が興味深かったのでざっと翻訳してみた。全てに納得できるわけではないものの、金融危機後、英国が陥っている状況と、それを金融政策の中心に居た人間がいかに評価しているのかという事がわかり興味深いものとなっている。 

Weak growth and high inflation is the 'new normal'

http://www.telegraph.co.uk/finance/comment/9684685/Weak-growth-and-high-inflation-is-the-new-normal.html

今回の英中銀のインフレ報告(Quartely Inflation Report)での経済予測は、英国の経済成長が予測より低く、インフレは予測より高くなる可能性が高いことを示唆している。

どこかで聞いたことのある話?その通り。あなたは前にもこの話を聞いたことがあるはずだ。金融危機以降、英中銀は継続的に経済成長の予測を下方修正し、インフレ予測を上方修正しつづけてきた。

(英中銀が予測を外し続けてきたことについては過去エントリー参照。)

その予測の誤りに対する公式な説明は消費者支出、公共部門、企業投資や海外市場からの需要が 予想をはるかに下回り続けたというものである。キング総裁は今週の最新のインフレ報告でも英国経済の弱さの主な要因として、世界経済の弱さを強調していた。

しかし、物事はそれほど単純ではない。英国の主要な輸出市場であるヨーロッパが、現時点で問題を抱えていることは事実だ。しかし、実際の所その他の地域の経済はそれほど酷いわけでもない。

米国では失業率は徐々に低下し、経済成長率も今年、来年は平均して2%に達すると予測されてる。アジア、アフリカ、ラテンアメリカでは、経済成長は引き続き堅調で、IMFは発展途上国や新興国の経済成長は平均して5〜6%になると見込んでいる。

そして世界経済の平均成長率は今年3.6%、来年3.3%となることが、IMFによって予測されている。これは、過去30年間の平均値(3.5%)とほぼ同じである。つまり現在の英国の状況は、世界経済が特に弱いということではなく、英国経済がグローバル経済の成長から恩恵を受けられる立場に居ないことを意味している。

英国経済の弱さに関する英中銀の見解の第二の問題点は、インフレのパフォーマンスである。需要が本当に弱い時には、企業はその商品価格を引き下げ、エネルギーや他のグローバルコモディティの価格も下落する。2008/9年には原油価格は1年未満の間に1バレル150ドルから40ドルへと下落した。

しかし、今の価格の動きは当時と同じではない。原油価格は1バレル約110ドルのままであり、ガソリン価格は史上最高値に近づいている。他のエネルギー価格、ガスや電気、も上昇し続けている。食品価格も上がっている。そして、経済の弱さに関するあらゆる懸念にもかかわらず、英国のインフレ率は頑固に2%のインフレ目標を上回りつづけている。 10月の消費者物価上昇率は2.7%だった。そしてサービス部門の価格は目標の2倍、すなわち4%以上の率で上昇している。

いったい何が起こっているのだろうか?私の見解は、英国および他の多くの西側諸国は、弱い経済成長が続く一方でインフレ率が比較的高くかつ不安定な状態が続く "ニューノーマル"経済にあるというものである。

このような経済環境は、主に3つの力によって形作られている。

まず、金融危機前には当然と思われてきたあぶく銭の世界(”world of easy money”)は消え去った - おそらく永遠に。銀行がより慎重になってきているだけでなく、その規制当局はまた、銀行が強力な資本準備金を構築することを奨励している。

第二に、安価な輸入品の時代は終わりに来ている - 少なくともしばらくの間は。西欧の消費者はもはやどんどん安くなる中国や低コスト国から輸入品によって彼らの購買力が底上げされつづけることは期待できない。

これらの国々の高成長は、エネルギーや他のコモディティの世界需要を押し上げることによって我々の輸入価格を押し上げて、西洋の消費者を圧迫している。同時に、これらの国では賃金が上昇しており、輸入品の製造原価も押し上げている。

"ニューノーマル"の世界を形作る第三勢力は低インフレでの成長軌道に我々の経済を維持するための政府や中央銀行の能力に対する信頼の喪失である。政府は赤字と借金に苦しんでおり、中央銀行は、金融危機とその余波に対処するためにとった緊急対策を容易にやめることができなくなっている。

そして再び自国の経済を軌道に乗せるための決定的な判断を行う政策立案能力の欠如は、民間部門の自信にも悪影響を及ぼす。

英中銀等で使用されている経済モデルはなかなかこれらの変化を取り込むことができない。彼らの将来予測は過去の実績に依存している。過去30年間の殆どの期間において、我々は”オールドノーマル”な世界に居た。その世界では我々は簡単に資金を得ることができ、安価な輸入を享受することができ、そして政府や中央銀行は経済を安定させることができるという過大な信頼が存在した。

過去3、4年間にわたり英中銀はこの新しい現実に経済見通しをアジャストさせてきた。最新の予想では8月に発行された前のバージョンよりも弱い成長と高いインフレを示唆している。その予測は短期的には以前のものと比べより現実的ではある。しかし、英中銀が英国経済の中期的な方向性について、その考え方を十分にアジャストしたのかどうかはまだ明らかではない。

今週のインフレ報告に関する記者会見でキング総裁は十分な期間待っていさえすれば全ては上手く行くという印象を与えた。彼は「もし何十年もの非常に長期的な視点を取る場合、英国の潜在的な成長力が我々が数年前考えていたものより低くなったと考える理由はないと思う。」と語った。

私の見解では、彼は現時点では我々の経済で何が起こっているかについて読み違えている。私たちの現在の状況に最も近い例は1970年代初頭から1980年代初頭までの低成長と不安定の十年である。

英国と他の欧米経済 は戦後の景気回復期間である 1950年代と1960年代に強い経済成長による恩恵を受けた。しかし1970年代にはこの戦後の成長モデルは、ブレトンウッズ体制の崩壊や産業不安、エネルギー価格ショックによって損なわれてしまった。そして経済が再び成長を始めるのは低成長と不安定の十年を経て、やっと経済が新たな原動力 - 金融自由化、グローバル化、規制緩和や税制改革-を得た1980年代に入ってからだった。

次の経済成長をもたらす原動力が何になるかまだ分かっていない。当分の間、我々は1970年代後半から1980年代初頭に経験したような低経済成長、不安定な金融システム、エネルギー価格の高騰、長引く不安、が蔓延する世界で立ち往生することになる。

我々は 英国およびその他の欧米経済が金融危機後の経済状況に適応すれば、新たな成長へと踏み出すことができると希望を持つことはできるが、それは保証されているわけではない。

英中銀の最新の予測は確かに以前のバージョンよりは現実的だ。そこでは経済成長はいずれ2%程度- これは私の考える”ニューノーマル”な経済に於いては非常に健全な成長率と考えられる-にまで持ち直すと期待されており、インフレは2%を上回り続けると予測されている。

インフレ見通しについては私はそれがより厳しいものになるのではないかと疑っている。もし 広く予測されているように 世界経済が2013/14年に持ち直せば、それはエネルギーやコモデティ価格の更なる高騰をもたらす可能性がある。また英国の消費バスケットの約半分を占めているサービス部門のインフレが3-4%と引きつづき高止まりし続けていることも懸念される。

インフレのパフォーマンスは英中銀の"アキレス腱"のままだ。英中銀は2%のインフレターゲットを維持するのに失敗したし、金融危機以降インフレを抑制するための有効な措置も講じていない。

それが誰になろうと物価の安定と低インフレへの英中銀のコミットメントに対する信頼を回復することが次の英中銀総裁のアジェンダの上位に位置されるべきであろう。

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