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違った意味で「流動性の罠」を使う池田信夫氏

またこんなことを書くと、池田信夫氏からストーカーだとかヨタモンだとかと言われかねないので嫌なのですが‥でも、書かずにはいられないのです。

池田氏に絡めて記事を書くとアクセス数が増えるから?彼はそんなことを言う訳ですが、自分が思うほど世間の人は彼に関心がある訳ではないのです。

では、何故?

それは、彼も私と同じように反リフレ派の立場にあり、その意味では彼に頑張ってもらいたい面が
あるのですが、それだからこそ彼が間違ったことを述べれば却ってリフレ派を利することになってしまい、そうなるのが嫌なのです。

つまり、インフレ目標なんてつまらんという常識的な考えを支持する人々に間違った知識をもってもらいたくないからこそ、こうして私は記事をかいているのです。

で、本日、私は言いたいのか?

その前に、理屈などどうでもいいと思っている人にとって、この記事は何の役にも立たないでしょう。ここで読むのを止めた方がいいと思います。

その反対に、正確な知識を身に着けたいと思う人、それに自分で考える力をつけたいと思う人は、是非読んでもらいたいと思うのです。

池田信夫氏が次のように言っています。

■引用開始

「リフレで日本経済の問題は解決しない」というと「じゃあどうすればいいんだ」という質問が必ずある。この答は簡単ではないが、きのうのアゴラ経済塾で使ったスライドで、あえて超簡単に説明してみよう。

<図は省略>

(但し、この図に、次のようなことが書いてある。

流動性の罠:自然利子率<0<ゼロ金利)

日本経済が行き詰まっている最大の原因は、ゼロ金利で流動性の罠に陥って「意図せざる金融引き締め」が起こっていることだ。これは金融的な現象だが、その原因は金融市場にはない。ここがむずかしいところで、流動性の罠は自然利子率が実質金利より低いとき起こるものだが、自然利子率は以前の記事でも説明したように実体経済に中立な実質金利で、日銀のコントロールできない実物変数である。

では自然利子率は何で決まるのだろうか。ややこしい計算を省いて結論だけいうと、潜在成長率で決まる。したがって現在のように自然利子率が低い(マイナスになっている)状態を是正するには、日銀が通貨をばらまくのではなく、潜在成長率を引き上げる政策が政策が必要なのだ。

<中略>

この流動性の罠が日本経済のボトルネックだが、これを打開するには自然利子率を上げるか実質金利を下げるしかない。実質金利を下げる方法としては、日銀が将来の利上げをしないことにコミットしてインフレ予想を醸成する時間軸政策があるが、その効果は限定的だ。日銀がリスク資産を買う「包括緩和」の効果も疑わしい。

したがって残る手段は、自然利子率=潜在成長率を引き上げる構造改革しかない。この点で安倍氏の側近である塩崎恭久氏が自然利子率に言及したのは大きな進歩だが、彼が「日銀が自然利子率を上げろ」というのは間違いだ。池尾和人氏もいうように「自然利子率の引き上げは政府の責任」であって日銀の責任ではない。それは潜在成長率すなわち日本経済の実力を上げることに他ならないからである。

■引用終わり


私、池田氏の言いたいことに概ね異論はないのです。

つまり、一般企業の側にすれば、予想収益率よりも借入金利が低い時には、資金需要が起こらず、
従って、そのようなときにそれ以上金利を引き下げることができなければ、資金需要が増える筈がない、と。

分かりにくいかもしれませんが、企業の予想収益率の平均値が自然利子率に相当し、その平均値
を実質金利と比べ、実質金利よりも低い場合には流動性の罠に陥ってしまうと池田氏は言うのです。

従って、そこから導かれる彼の言う「流動性の罠」というのは、企業がお金を借りることのなくなった
状態を指すのです。

でも、一体全体、そんな風に「流動性の罠」を理解するのが正しいのか?

少なくても、経済学のテキストにはそんな風に書いてはいないのです。

例えば、井堀利宏教授のテキスト(新世社)には、次のように書いてあります。

「貨幣の需要曲線である流動性選好表が水平である状態は、流動性のわなと呼ばれる。図4.3に示すように、MM線が水平であるとき、貨幣需要の利子弾力性(=利子率が1%低下したときに、貨幣需要が何%増加するかを示す指標)は無限大となり、利子率が少しでも低下すると、貨幣の資産需要が無限に出てくる状態となっている」

「ケインズは、1930年代の貨幣市場の状態を、この流動性のわなという概念で説明しようとしたため、初期のケインズ経済学では、この現象が強調されることが多い。この場合、金融当局が貨幣供給を増加させても、MM線は水平なため、SS線のシフトによっても利子率は何ら変化しない。利子率を低下させるのが、拡張的な金融政策の大きな目標であるとすれば、この目標は何ら実現しないことになる。流動性のわなは、金融政策が無効となる一つの極端な例を示したものである。」

どこにも、池田氏が言うように、企業の資金需要が起きなくなるなんて書いてないでしょう?

ペンギンの経済学の辞典も見てみましょう。(Dictionary of ECONOMICS)

liquidity trap

  A situation in which the rate of interest is so low that no one wants to hold interest-bearing assets(i.e.>bonds) and people only want to hold cash. The interest rate can fall far enough for everybody to expect it rise. Bond prices fall when interest rise and, because no one wants to hold an asset whose price will fall, everyone will hold cash rather than bonds. In this situation, the interest rate can fall no further-> liquidity preference is absolute. If the government expands the money supply, instead of the usual fall in interest rates occurring, there is no effect at all. There is no need for the interest rate to drop to entice people to hold the extra cash available.

<仮訳>

「金利が非常に低いために誰も利付債を保有したがらず、人々はただ現金を保有したがる状態。金利は、人々があとは上がるだけと予想する状態にまで低下することがあり得る。金利が上がると債券の価格は低下する。そして、価格が低下する資産を保有したがる者は誰もいないので。全ての人々が債券ではなく現金を保有したがる。この状況では、金利はそれ以上低下することはない。流動性選好は無限大になる。もし、政府がマネーサプライを増大しても、いつものような金利の低下は起きず、効果は全くない。人々に余分の現金を保有させるためにそれ以上金利が低下する必要はない。」


この辞典にも、自然利子率が低くなりすぎて企業の資金需要が起きないなんてことはどこにも出てこないでしょう?

それはそのとおり。というのも、池田氏のいう「流動性の罠」とは、あくまでも彼の言う「流動性の罠」
に過ぎないからなのです。

但し、池田氏が言いたいことは分からないではない。

つまり自然利子率というか、企業の予想収益率が何らかの理由で急激に低下したときに、資金需要が起きないのは、そのとおり。

しかし、何度も言うように、それを流動性の罠と呼ぶのはおかしい。

それに、彼の言い分を聞いていると、自然利子率はこの世に一つしかないみたいな前提で話をし、また、企業の借入金利もこの世に一つしかないみたいな前提で話をしているのは全くおかしい。

確かに、全ての企業の予想収益率を平均して一本化することは観念的に可能でしょう。

しかし、その平均値が如何に低くなろうと、個々のケースを見れば、どんな不況の真っただ中にあっても儲け話が全くなくなってしまう訳ではないので、予想収益率が高い企業も、少ないとは言っても当然ある訳です。

つまり、売れるヒット商品を持っている企業はどんなにゼロ金利と呼ばれる時代にあっても、お金を借りたいと思う訳ですから、資金需要が全く途絶えることなどないのです。

それなのに、そうした現実に目を向けることなく池田氏は、自然利子率が実質金利よりも低いと資金需要は起きないと、一刀両断。

皆さんには、流動性の罠の正しい意味を理解して欲しいと思います。

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