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『ロスジェネ心理学』を読んだ

画像を見るロスジェネ心理学―生きづらいこの時代をひも解く
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熊代 亨
花伝社
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 献本頂きました。ありがとうございます。

 『ロスジェネ心理学』の著者であるシロクマ先生には、『月刊宝島』2012年9月でインタビューさせて頂いたこともあって(こちらを参照)、ちょこちょことお考えに触れる機会があった。それが書籍という形でまとまったことに関してそれなりの感慨があったりします。
 ご存知の方も多いだろうけれど、シロクマ先生は「適応」をキーワードに、オタクや非モテがどのようにして社会で生き抜くべきか、ということをメインにサイト『汎用適応技術研究』やはてなダイアリーを運営しており、それは本書でも「なぜ精神疾患が増えたのか」という考察や「インターネットに降り積もる怨念」という指摘など、随所で反映されている。

 個人的には、第4章の「取り扱い要注意物件としての自己愛」が特に面白くて興味深かったのだが、ここで紹介することは割愛させて頂き、このエントリーでは「ロスジェネという世代特有の生きづらさ」についてシロクマ先生の同世代としての感想を記しておこうと思う。

 Parsley自身のことを話すと、10歳から18歳までを埼玉県の公団住宅で過ごし、小学校まで畑ばかりでたまにしまむらやマルエツ(ダイエー系列のスーパー)や家電チェーン店が点在している沿道を2km近くをてくてく通っていた。また、父親は自営業だったが家にいる時間が短くて、母親と接する時間が長かった。
 母親は教育ママと呼ぶほど厳しくはなかったけれど「いい大学に入れる」ということにはこだわった。塾にも通わせてもらったし、高校も私立の進学校に入れて貰えた。「いい大学に行けばいい会社に入れる」が彼女の口癖だった。自営業の不安定さを身にしみていることもあり「いい会社に入るためにちゃんとした大学に子供を入れる」のが彼女の一大事業だったように思える。
 しかし、私が大学に入るタイミングでバブル経済が崩壊。就職氷河期が訪れた。当時、文系の学部では4人に1人しか就職できないようなクラスもあった。要するに、さんざん言い聞かされていた「大学⇒一流企業」というレールがなくなってしまったのだ。そのあたりの心情は本書でも「梯子を外された」という表現で処世術が通用しなかったことへの鬱屈に関して言及されている。

 今となっては達成困難になった、バブリーな経済観念・恋愛観念を抱えて苦しむのは、おそらく私達の世代が最後でしょう。昭和時代の生き方が可能な先発世代は、何とか逃げ切るでしょうし、21世紀の生き方に適応した後発世代は、これはこれで新しいライフスタイルと価値観を構築しつつあります。そのどちらから見ても中途半端なのが私達であり、私達の育った移行期だったのです。(P72)

 社会に翻弄されて、団塊世代やバブル世代にも尊敬に値する人に出会えず若い世代からも理解を得られない(むしろ反面教師にされている)、という気持ちはParsleyにも少なからずあるから、本書でロスジェネの「気分」が解読されたことに対して「そうだよね」と頷く部分が多かった。

 個人的に特に共感するのは、個々人自身のことだけではなく、他者や社会に対してちゃんとコミットメントしないと、いろいろ詰みますよ、という指摘。
 第7章で「自分の世代のことしか考えていない大人を見習うな!」「若者なんてやめちまえ」であるように、シロクマ先生は「成熟」と「(子育てを含めた)次世代の育成」の重要性を随所で指摘している。また、上の世代が「逃げ切る」ことばかりを考えているとしても、どこかで連鎖を断ち切って社会を再構築する役割を引き受けなければならない、という主張にも深く同意する。

 しかし、本書でシロクマ先生はしごくまっとうなことを述べているのだけれど、それが簡単に受け入れられるのは難しいだろう。「自由」というモラトリアムを享受しているのはロスジェネの一つ上のバブル世代も同様なのだが、彼らが下の世代に対して「育成」に関わろうとしているひとの方が少数派に思えるし、「いい加減大人になれよ」という忠告に対して、「だって今の方が楽なんだもん」という返しをされることの方が多いはず。そう考えると暗澹たる気分にもなったりするな。

 まぁ、Parsley自身の感覚と較べると、シロクマ先生ってコンサバティブな「家族」「社会」というものに対して信頼を置きすぎているというか、伝統保守な政治思想の持ち主だよね、と思ったりもするのだけれど。そういう「常識人」の声ってまとめられること自体が案外少なくなっている中、記録としてだけでなく、社会や個人の振る舞いへの提言という部分でも、本書が2012年というタイミングで刊行されたことは意義深いと確信する次第です。
 ロスジェネ世代だけでなく、特にロスジェネ世代を使う側の世代にも読んで貰いたいなぁ、と願うばかりですね。

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