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政府債務論のコペルニクス旋回、日本は反省せよ~イエレン・パウエル連携は強力な株式支援に~

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1月19日の議会公聴会におけるイエレン次期財務長官発言は、政府債務論のコペルニクス的旋回の画期となるかもしれない。「財政政策については、大規模な経済対策で債務は増大するものの、金利が歴史的な低水準にある現在、大きな行動に出ることが最も賢明であり、長期的には経済対策の恩恵はコストを大きく上回る」との主張である。

(1) イエレン財務長官の債務容認宣言

政府債務残高より利払い負担が重要だ
以下ロイターのハワード・シュナイダー記者のコラム(1月21日)を紹介したい。

『バイデン大統領が打ち出した1兆9000億ドルの追加経済対策案を擁護するこの日のイエレン氏の発言は、広範囲にわたった。しかし、そこには、「政府債務」を巡る経済専門家の考え方が着実に変わってきていることが映し出されていた。政府債務は先進各国では過去10年間どんどん積み上がり、一時はユーロ圏が崩壊の瀬戸際に追い込まれる原因ともなった。しかしイエレン氏は公聴会証言で、「大きな行動こそが賢明」と明言したのだ。

イエレン氏が上院で訴えたのは、債務の水準をいったん忘れ、利払い額と財政支出がもたらすリターンにこそ目を向けてほしいという点だった。将来、米国が高成長を達成する可能性が足元の借り入れ増を正当化し、約26兆9000億ドルに上る連邦債務に絡む脅威を弱めてくれるというロジックだ。同氏は「債務が膨らみ続けているにもかかわらず、(国内総生産=GDPに対する)現在の利払い額の比率は2008年の金融危機前を上回っていない。パンデミックとその経済に対する打撃に対処して必要な措置を講じなければ、財政を赤字にしてもやるべきことをやる場合より、悪い状況に陥る公算が大きい」と言い切った。

実際、連邦政府の利払い費用は今、6000億ドル近くとなっているものの、世界的に金利が過去最低水準圏で推移しているおかげで、対GDP比は1990年代以降ほぼ一定している。この事実は、議会がバイデン氏の追加経済対策案を審議する上で中心的な論点になるだろう。特に大統領職と上下両院の支配をともに失った共和党が、パンデミック対応でさらなる財政支出に積極的に応じ続けるのかが試されそうだ。

財政赤字削減勧告を反省したIMF
政府債務の問題は、2007-09年の金融危機とその後の景気後退、ユーロ圏の危機などを通じて経済専門家の間でも多くの話題になってきた。欧州ではいくつかの国、とりわけギリシャが世界金融危機の後、債務返済で苦境に陥ると、ユーロ圏の経済大国や国際通貨基金(IMF)はこれに対して大幅な財政支出切り詰めを促した。その結果、景気回復の土台を築くどころか、ギリシャの経済状況は一段と悪化し、財政赤字も拡大してしまった。IMFは後から振り返る形で判断が誤っていたと認め、幅広い検証作業を実施。当時チーフエコノミストだったオリビエ・ブランチャード氏は、特に危機のさなかで総需要が弱い局面では、財政支出の有効性は際立っているとの結論を下したのだ。

成長率>金利なら公共投資をするべきだ
それから数年後、かつて経済学上で異端視されていた、財政支出に以前より広範かつ安定した役割を与える現代貨幣理論(MMT)への注目がより高まるようになり、一方で主流派の経済専門家も政府債務の概念を根本から見直し始めた。ブランチャード氏もその一人だ。同氏が唱え始めたのは、ある国の金利水準が経済成長率より低い場合-これは現在の多くの先進国に当てはまるのだが-その場合は良い使い道だとみなされる公共投資を手控えるべきではないという考え方だ。』

イエレン次期財務長官の宣言は、この異端視されてきた議論をワシントンの政策中枢に招き入れたものと言ってよいだろう。


(2) 政府債務論の旋回はパウエル議長も同様

イエレン氏に呼応するFRBパウエル議長
イエレン氏に呼応する形で、パウエル議長も財政債務論の見直しに踏み込んでいる。パウエル議長は景気回復と財政の持続性はともに重要であり、政府債務のGDP比は高いが、国債費は抑制されているとして、今後数年に財政リスクが顕在化する可能性を否定した。また、債務負担の増加に伴って、議会が低金利政策の維持を求める可能性についても、現在は「財政抑圧」の状況には至っておらず、FRBは物価と雇用の政策目標の達成に注力することが可能と指摘した(2020年12月17日FOMC後の記者会見)

1月に入りシカゴ連銀のエバンス総裁、アトランタ連銀のボスティック総裁などが「状況が順調なら2021年末か2022年にはテーパリングの可能性がある」と発言すると、パウエル議長直ちに「今は出口の議論をする時ではない」と述べ、否定した。「世界金融危機から得られた教訓は(金融緩和から)早計な撤退をしないように注意することだ」(1月14日発言)

パウエル氏もFRB議長就任以前に政府債務水準は、長期的な懸念要素だとの主張に理解を表明していたといわれるが、今や大旋回しているといえる。

イエレン・パウエル連携に注目するWSJ
政府債務論見直しでの財務省とFRBの連携についてWSJは警戒心を表明している。

『イエレン氏はオバマ政権時代、ジェローム・パウエル現FRB議長と共に働いた。2人は財政政策と金融政策を混合して考える可能性がある。これはイエレン氏の政策影響力にとっては良いことだろうが、FRBの独立性にとってそうとは言えない。国債の買い入れを金融政策と切り離すというFRBと財務省の1951年の有名な「アコード」以前の常態に、FRBは回帰しているように見える。1951年「アコード」は、われわれが知るようになった今日のFRBを誕生させた。だが現在、FRBは熱心に国債を買い入れ、パウエル氏は政治家が望む分だけ購入することを示唆している。FRBの理事、とりわけその職員らとのつながりから、イエレン氏はここ最近の歴代財務長官よりもFRBに対して強い影響力をもつ可能性がある。このことは承認公聴会の審議でポイントとなるだろう。』(11月20日社説)

このようにWSJや共和党系は財政金融一体化を警戒しているが、それが正しいとは限らない。WSJはQEをしきりと批判してきたし、金本位復帰論者であったジュディ・シェルトン氏のFRB理事就任を擁護するなど、社論に混乱がある。またマクロ経済政策に関しては、共和党よりも民主党の方が筋が通っている。イエレン氏の宣言は、大きな政府を標榜する民主党のマクロ経済政策と整合的であるが、共和党のマクロ経済政策はトランプ政権の下で首尾一貫性を欠くものになっていた。QEに反対したり金本位制復帰に理解を示していたかと思えば、パウエル議長の利上げを批判した。ティーパーティによる財政赤字批判、小さな政府追求の党是に反して、トランプ氏は財政赤字を拡大させた。

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