テレビは春の改編で長寿番組が次々と終わるね。TBSでは森本毅郎さんが司会で日曜午後の『噂の!東京マガジン』――これが1989年スタートだから31年続いた。日テレでは久本雅美さんが司会で土曜お昼の『メレンゲの気持ち』――こっちは1996年スタートで25年だ。他にも長いこと続いたけど終わる番組があるね。

それにしても『東京マガジン』も『メレンゲ』も視聴率は悪くないんだろ。数字が悪くて打ち切りという話ではなく、視聴者層が課題になったって話だ。要は60代以上の男女に見られて視聴率が良くても、それを今はスポンサーが喜ばない。欲しいのは若年層や成年層、10代から40代の数字。この層に向けてスポンサーは広告を打ってモノを買わせたいってことだ。
いやいや、ちょっと待ってくれ。これは大きな間違いだと思う。もし、高齢者がモノを買わない、商売にならないということが理由になってたとしたら、それは違うって言いたいね。
言うまでもなく日本は高齢化社会の真っ只中、世代別の消費をデータで見ればわかると思うけど、高齢者は人口が多くて消費もしている。ちょっと編集部、調べてごらんよ。
編集部)――はい、高齢者は、高齢者世代全体の人口が増えていくのと同時に消費支出も年々増加中です。内訳として若い世代よりも高齢者の消費が多いのは「保険医療費」などの健康方面、それから「交際費」、これは子や孫世代への贈答品などです。あと「食費」も若年層や成年層とさほど変わらず、むしろ高齢者は外食の消費が多い傾向が見られます――。
ほら、高齢者も消費は普通にするんだよ。なのにテレビが年寄りを切り離すような方向に行くのは納得いかないよ。ちょっと立ち止まって考えてみればさ、番組が長寿化すれば、視聴者も一緒に年を取っていくわけだ。それに応じてスポンサーのスタンスも変わっていくことが理想なんだけどな。
視聴者が高齢だから番組を打ち切るということでなく、その番組に視聴率がきちんとあるなら、番組を見てくれる視聴者層に合わせて、魅力ある商品を掘り起こしたり、開発したりしてほしいよ。高齢者層が見てるなら、高齢者層が買いたくなるようなモノをCMしていく。そこでスポンサーにメリットが出る流れにする・・・。
高齢者は平均貯蓄も高いし、いい時代に働いていたことで年金も多くもらっている。金を持っている年寄りは多いんだ。テレビは高齢者でもっと稼げばいいと思う。その為に、高齢者の消費意欲をいかに刺激するかだ。
例えば、ファッションだって型にハマったモノでなく、一流デザイナーとコラボしてデザイン性を高めたモノをお手頃な値段で出せばマーケットはあるよ。ユニクロでシニア向けのブランドを作ったりとかさ。
外食もそうだよ。レストランも飲食店も高齢者をターゲットにしてほしいね。どの店もファミリー向けが多いけど、あれは結局、若者や子どもにウケるメニューが中心なんだよな。ハンバーグとかパスタとかさ。
あれ、年寄りには量が多いっていうか、途中で飽きるんだよ(苦笑)。ハンバーグなんか、ふた口でいいもん。年寄りは普通の量だと多い。「量は少な目、品数は多め」が一番いいんだ。あれもこれもちょっとずつツマめるメニューが嬉しいね。
欲を言えばバイキングは有難いな。例えば、バイキングをメインにしてさ、嚙み切れなくて入れ歯がガタつくような硬いモノはもちろん避けたメニューを用意して(笑)、60代以上をターゲットにしたファミレスが出来たら、年寄りやオバさまたちがこぞって利用するんじゃない?
ああ、そうそう、ファミレスでもなんでも、一階が駐車場で二階が店舗になってる店ってあるよね。都心にありがちなのかな。あれってエレベーターが無くて階段だけだと、年寄りには階段上がるのがしんどいんだよ。膝がわるい人や腰痛持ちにはキツイんだ。これを読んでるあなたが今、そういう不便を他人事だと思っても、いつか年取って自分ごとになるんだから、心に留めておいてくれよ。
高齢者がお金を使いたくなる仕掛けを考えろ

高齢者って体は老化していくけど、気持ちやセンスはたいして衰えないよ。今の60代以上なんてみんなバブルだった頃も知ってて、そこに欲しいモノがあって、宣伝が良かったら買うよ。
だから高齢者を切り離すのでなく、高齢者をいい意味で利用して大きな波を作ってほしいよ。高齢者による消費でブームになるようなモノやサービスを仕掛けてほしいね。
韓流ドラマで昨年の流行語になってのなんだっけ、「愛の不時着」? あれがブームだったって言うけど、やっぱり20年前に最初に起きた「冬ソナ」のヨン様ブームはスゴかったよ。いい年したオバさま達が熱狂して、空港に押しかけたり、韓国にツアー行ったり、ハングル習い出したりして、ずいぶんと経済効果を生んでたよ。あれこそが本当のブームだよな。
あれはさ、もし自分がドラマのヒロインのようにヨン様に愛されたら・・・って妄想するからハマっちゃうわけだろ。それで現実逃避してストレスも解消できる。見る限り、男性よりも女性のほうがいくつになっても感性が若いというか、乙女心が残ってるよね。
そこでだけど、韓流のイケメン俳優がちょっとシルバーな普通のオバさまと恋に落ちて、波乱万丈になるようなドラマなんかどんどん作ったら、高齢の女性たちが自分に置きかえて、けっこうハマっちゃうかもな。
編集部)――ドラマもいいですが、「鬼滅の刃」みたいなアニメを高齢者向けに作るのはどうでしょうか――?
ああ、アレな。流行ってんだろ。最初はよくわからなかったんだ。「キメツのヤエバ? 鬼が八重歯なのは昔から決まってんだろ!」って思ったよ(笑)。八重歯じゃなくて刃(やいば)だってね。
高齢者向けにアニメを作るのはどうかって? そしたら「死別の焼き場」か? バカヤロウ、ちっとも流行らないよ(笑)。
スポンサーに余裕なし いい広告が減った

しかし、コロナが来てさ、テレビってますます広告収入が減ってるんだろ。テレビもラジオもずっと「金が無い、金が無い」って話が当たり前になってるけど、さらに厳しくなるのかね?
一方でスポンサーになる企業も大変ってことだよな。それはCM見てればわかるよ。かつて経済が右肩上がりで元気な時代はCMが活気に充ちてた。いいCMがたくさんあって、アイデアが突き抜けてたり、映像が素晴らしかったり、作品性が高かったり、そういうCMは世間への影響力もあって、CMからいくつも流行語やヒット曲が生まれてたもんな。
CMがひとつの文化となってて、新しいCMを生み出すのに広告のプロ達が競い合ってた。だけどそれは、それが可能な潤沢な予算があったからでもある。
バブルがはじけて経済が低迷して、費用対効果が優先されて、CMから余裕が消えた。作品性よりもいかに商品を印象づけられるか、商品説明や商品名を連呼するタイプのCMばかりになっちゃった。CM文化が痩せ細っちゃったんだな。
全部が全部じゃないけど、いいCMってすっかり減っちゃった。今やCMからは流行語や流行曲も出てこない。要するに人の気持ちが動かないんだ。だからさ、経済と文化ってのは密接につながってるんだって、つくづく思うよ。
それだけに、長く定着して視聴率がある「いい番組」を大事にしてね、高齢者の消費を促すことで年寄りを元気にしてほしい。そうしてジジイやババア達が元気になればさ、健康寿命につながって病院通いが減って、保険料が倹約されれば回り回って社会の為になるんだから。
(取材構成:松田健次)