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言葉の最も大事な役割は“人と人を結びつける”こと - 「賢人論。」130回(後編)金田一秀穂氏

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インターネットの普及などに伴い、「ネット言語」や「若者言葉」といった、現代を象徴する言葉が生れている。しかし、独自の言葉を使うのは、何も若者だけではなく、高齢者もそうであると語る金田一秀穂氏(言語学者・杏林大学外国語学部教授)。自身がなぜ言語学研究をしていくこととなったのか。研究者としての歩みと、言語がもたらす障壁について話を伺った。

取材・文/木村光一 撮影/タカオカ邦彦

父のアドバイスと1人の言語学者との出会いが自身を言語学者の道へ導く

みんなの介護 金田一家と聞くと三代続く「日本語の神様」というイメージが浮かびます。金田一京助氏、金田一春彦氏、金田一秀穂さんの御三方が代々取り組まれてきた研究についてお話しいただけますか。 

金田一 祖父の京助はアイヌ語の研究に心血を注ぎ、言語学・民俗学者として独自の学問を打ち立てた人です。父・春彦は日本語の特徴を明らかにする研究に没頭し、各地の方言の音韻(アクセントやイントネーションなど)を調査するために日本中を旅しました。僕のテーマは主に日本語教育。「外国の人にどうやって日本語を教えるか」「教えるべき日本語はどうあるべきなのか」といった“外から見た日本語の研究”をしています。

みんなの介護 金田一さんは学生時代に心理学を学んでいたのだとか。それが、いつ、どういうきっかけで日本語研究に身を投じられることになったのですか。

金田一 もともと僕は、「自分たちの生き方が、日本における家族関係や文化的価値観からどのような制約を受けているのか」を心理学的に解明したかったんです。そして、そういう研究をやるなら日本を離れた方がいいだろうと考えたのですが、当時は海外へ行ける状況ではなくて…。実は大学を出てからの3年間、僕は就職もせず、毎日パチンコをして小遣いを稼いでは好きな本を買ってひたすら読書三昧という生活をしていたので、まったくお金がなかったんです(笑)。

「いい加減このままじゃいけないな」と危機感にかられて父に相談すると、「それなら日本語教師として海外へ行ってみてはどうだ」とアドバイスをもらって「なるほど、日本語なら教えられるかも」と思い、とりあえずやってみることにしました。その時点では特に日本語に関心はありませんでした。祖父や父には申し訳ないけど、日本語はルールが曖昧だし文法もわかりにくくて退屈。そんなふうにしか思っていなかったんです。

しかし、まずは僕自身が日本語を理解しないことには人に教えることはできませんから、改めて学校へ通って日本語教育の勉強を始めました。そして、そこで言語学者の寺島秀夫さんとの出会いが僕の考えをがらっと変えた。「日本語には論理的な構造があって、クリアに説明できる言語」ということがわかったんです。

それからは何気なく使っていた言葉にもさまざまな発見が隠されていたことに気づいて、学べば学ぶほど、どんどん日本語が面白くなっていった。なんだかまんまと父に乗せられたような気もしましたが、「まあ、面白いからいいか」と続けていたら僕も日本語の研究者になっていました(笑)。

身分や地位が関係ない海外での経験から「自信」を獲得する

みんなの介護 学校へ通って日本語教育の勉強をした後、海外に行かれたのですよね。

金田一 30歳のときに中国大連外語学院で日本語を教えました。その後、アメリカのイエール大学とコロンビア大学で講師を勤めて一旦帰国。41歳で再度渡米してハーバード大学で客員研究員として働きました。それらの期間を合計すると4年半は海外で生活したことになります。

みんなの介護 ご自身の経験が今の研究テーマにつながっているのだと思いますが、ほかにも海外で得たものはありましたか。

金田一 日本では、自分では意識していなくても、僕の背後に「金田一家の三代目」という看板を見てしまう人が多く、それが嫌でした。でも、そんなしがらみとは無関係の中国やアメリカで日本語を教えてみて、まあまあ評判がよかったので「自分も案外いけそうだ」と自信が持てた。それが一番の収穫だったかもしれません。

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